「IPTV」――HDにシフトするIPTVの課題は:デジモノ家電を読み解くキーワード
YouTubeなどIPネットワークを利用した動画配信サービスは珍しくないが、テレビ番組を気軽に楽しめる状況にはない。今回は、日本における「IPTV」の現状と課題について考えてみよう。
IPTVとは、IPネットワーク経由で映像・音声をブロードキャストするサービスを指す。日本では「IP放送」とも呼ばれ、すでに数社により商業ベースでの運営が開始されている。平たくいえば「インターネット上を流れるテレビ放送」であり、FTTHなどの広帯域回線の普及にあわせて開始された。NTT東西が提供する「映像通信網サービス」など、IPを使わない映像配信サービスも存在するが、ここでは除外する。
注意すべきは、IPTVを流れるコンテンツには「テレビ」と「ビデオ」の2種類があること。前者は「有線役務利用放送」という電気通信役務利用放送法に基づくサービスであり、総務省から放送事業者として認可を受けなければならない。そのため参入障壁が高く、現在サービスを提供しているのは全国でも19社を数えるのみ。「GyaO」や「Yahoo!動画」はIPTVの一種だが、後者に分類されるサービスだ。
さらに、事業者により映像の仕様が異なる。一口にIPTVといっても、地上波放送の再送信サービスなのかビデオ・オン・デマンド(VOD)なのか、サービスを提供する事業者はどこかによって、コンテンツや映像品質が変わってくる。データの転送経路にはIP網を使うことは共通だが、それ以外の仕様は各社各様だ。
鍵は「IPマルチキャスト通信」、課題は?
そのような状況下に設立されたのが「IPTVフォーラム」。NHKと民放キー局のほか、通信事業者や大手家電メーカーが参加、IPTVの仕様を統一して普及促進を図ることが狙いだ。
なかでも注目すべき技術が、複数の視聴者へ同時に映像を配信する「IPマルチキャスト通信」。VODでは1対1の通信(ユニキャスト)が行われるが、1対多が前提の“テレビ放送”では効率が悪い。映像のHD化が急速に進むいま、IPマルチキャスト通信の整備こそがIPTV普及の鍵と言っていい。
統一仕様の策定はIPTVフォーラムが進めるとして、おそらく課題となるのが高速回線の「ラスト数十メートル」。FTTH網はかなり普及したが、マンションなどで回線を共有するケースも多く、個々の家庭へHD映像視聴に十分な帯域が確保しにくいという事態が起こることが想定される。ほかにも、無線LANで接続したい、複数のテレビで同時に視聴したい、といった消費者ニーズの問題もある。今後の動向に注目される。
執筆者プロフィール:海上忍(うなかみ しのぶ)
ITコラムニスト。現役のNEXTSTEP 3.3Jユーザにして大のデジタルガジェット好き。近著には「デジタル家電のしくみとポイント 2」、「改訂版 Mac OS X ターミナルコマンド ポケットリファレンス」(いずれも技術評論社刊)など。
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