第2回 手のひらファッションショー──「Style.com」:松村太郎のiPhone生活:ライフスタイル
世界最大のファッション誌「VOGUE」がWeb上に展開するStyle.comを「iPhone 3G」上で楽しめるのがStyle.comアプリだ。このアプリは、iPhoneユーザーのすそ野を広げる可能性があると同時に、雑誌メディアをWebやモバイルに展開する新しい手法としても注目できる。
今回紹介するアプリは「Style.com」。iPhoneのインタフェースを活用して、最新のファッションスナップやデザイナーのインタビュービデオなどを楽しめ、とてもオシャレな気分を楽しめるアプリである。
Style.comは、世界最大のファッション誌「Vogue」のWeb版だ。Vogueは「GQ」や「Wired」といった幅広い雑誌とWeb媒体を展開するConde Nast Publicationsのブランドである。同社は雑誌中心だったビジネスから軸足を移し、積極的にWeb上にコンテンツを展開している。Style.comはファッションショーの速報を写真と記事で素早くチェックできたり、デザイナーのインタビューをPodcastで楽しめたりと、ファッション情報のWebサイトとして充実を見せている。
2008年9月上旬、東京はファッションイベントが花盛りだった。六本木や原宿では東京コレクションを始めとするJapan Fashion Week in TOKYO 2008のイベントが開催された。また9月6日のTokyo Girls Collectionも、原宿からほど近い、国立代々木競技場第一体育館を2万人近くの女性が埋め尽くした、迫力あるファッションイベントだった。街中ではすらりとしたモデルの姿を多く見かけたし、まだ汗ばむ陽気ながら、最近はブーツ姿も増えてきて秋らしさも感じる。
これらのコンテンツ全てを、何時でもチェックできたらどうだろう。それが「Style.com」アプリなのである。
Tokyo Girls Collectionのアフターパーティーをちらりと覗いている間に、このアプリ「Style.com」の本領が発揮された。米国で9月5日からスタートしたニューヨークコレクションのファッションショーのスナップ速報が「THE LATEST」のコーナーに掲載され始めたのである。現地時間の9月5日以前は、「ニューヨークコレクションが始まったら見に来るように」との表示があるだけだった。
Latest Showからブランドを選ぶと、ちょうどiPhoneに入っている「写真」アプリと同じようにサムネイルが登場して、1枚写真を選ぶと全画面表示になる。そして指でフリックするとぺらぺらとめくっていくことができる。写真を表示しているときに右上のボタンを押せば、モデルの名前とショーのレビューをチェックできるびしっと正面の同じ画角の写真でそろっていて、もちろん指でつまむ動作で拡大縮小も可能だ。
いつでもどこでも最新のファッションスナップを細部までチェックできるこのアプリには、近くにいたファッショニスタからも「iPhoneが欲しくなりそう」との反応があった。日本ではまだ「Style.com」アプリに反応しそうな人にiPhoneが行き渡っていないが、こういうアプリがきっかけでユーザー層を広げる可能性もありそうだ。
Style.comをiPhoneで最大限に楽しめる「Style.com」アプリだが、これはiPhoneを活用したWebメディアの1つの未来でもある。このアプリを起動するとき、クールなタイトル画像には「Sponsored by H&M COMME des GARCONS」の文字。そしてファッションスナップをめくっている間にも、途中でコム・デ・ギャルソンやそのほかのブランドの広告が挟まってくる。
雑誌を読んでいるときにぱらぱらとページをめくると、途中に広告ページが挟み込まれているように、Style.comアプリを見ている時にもクールなファッションブランドの広告が何気なく入ってくる。Style.comというWebサイトをiPhoneに対応させたような体裁をとっているが、読者からするとむしろ雑誌がデジタル化された感覚に近い。
Style.comのStyle File blogでも「One More Reason to Buy an iPhone」(http://www.style.com/stylefile/2008/08/one-more-reason-to-buy-an-iphone/)というエントリーでこのアプリを紹介し、「Style.com’s Killer App」と位置づけている。単純にiPhone 3Gを買おうとしているユーザーの後押しになるというだけでなく、雑誌などのメディアがWebやモバイルに展開するときの新しい手法としての意味合いもまた大きいかもしれない。
プロフィール:松村太郎
東京、渋谷に生まれ、現在も東京で生活をしているジャーナル・コラムニスト、クリエイティブ・プランナー、DJ(クラブ、MC)。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。1997年頃より、コンピュータがある生活、ネットワーク、メディアなどを含む情報技術に興味を持つ。これらを研究するため、慶應義塾大学環境情報学部卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。大学・大学院時代から通じて、小檜山賢二研究室にて、ライフスタイルとパーソナルメディア(ウェブ/モバイル)の関係性について追求している。
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