惜別の「KURO」を慕いて(2):本田雅一のTV Style
今年の「KURO」シリーズは、コントラスト比が5倍に高まったことが強調されすぎている。確かに黒は沈んだ。もちろん、それは改善点に違いないが、KRPという型名になって最も変化したのは絵の質感だった。
まずは訂正から。先週、「なにしろ、パイオニア最後の第10世代パネルは、本当に鮮烈な画質を実現している」と書いてしまったが、正確には第9世代。第10世代は予備放電ナシの真っ黒なパネルになるのでは? と言われていた世代だ。お詫びして訂正したい。
さて、その第9世代のパイオニア製プラズマパネルは、昨年、あれだけ高コントラストと話題になった初代KUROと比較し、黒輝度が5分の1まで抑え込まれたことで、コントラスト比が5倍に高まったことが、ことさらに強調されすぎている。
確かに黒は沈んだ。もちろん、それは新モデルでの改善点に違いないのだが、KRPという型名になって最も変化したのは、コントラストが高くなったことではなく、絵の質感だった。
先日話したように、筆者は初代KUROの60インチモデル、「PDP-6010HD」を直視型ディスプレイのリファレンスとして使用しているが、新モデルの「KRP-600M」が発売された時、10日ほどPDP-6010HDと入れ替えて試用・評価したことがあった。
初代KUROは白ピークの立ち方が急峻(きゅうしゅん)に見え過ぎ、金属質のギラリとした鋭利な質感表現は得意なものの、柔らかな光の表現やマットな素材の描写が不得手と感じている。もちろん、そうした点を考慮した上でも、最高クラスの画質ではあったが、第9世代パネルを採用した製品は、もっと“しなやか”な映像を見せてくれた。
パイオニアによると、昨年モデルで暗部階調表現にふり過ぎていたPDPの駆動パターン(サブフィールドパターン)を変更し、従来よりもハイライト側にも階調を割り振るようになったという。
それが原因なのだろうか。ギラつき感が緩和され、素材ごとの質感表現の差が、より明瞭に描き分けられる。もっと簡単にいうならば、コントラストをことさらに強調した硬質な絵柄が、コントラスト比を上げつつも解れてきたのが今年のKUROだ。
今年モデルから追加された「ディレクターモード」(色再現をマスターモニターに近づけたモード)はもちろんだが、どの映像モードでもカタさが取れていた。環境や映像の内容に応じて自動的に画質を調整する「リビングモード」も、動きの幅が広くなり、またメリハリよりも階調表現の滑らかさを重視した絵作りへとややシフトした。
見栄えよりも、長期間使って行く上での満足感を重視したセッティングの変更といえるだろう。販売店によれば、KUROは店頭比較で迷って買う顧客よりも、最初から指名買いの顧客の方が多いのだという。言い換えれば、店頭での訴求が必要なくなったことで、本来の映像ディスプレイとしての質を追求できた、という側面もあるのだろう。
ただ、細かな絵作りの追い込みは、純粋なモニターである「KRP-500M/KRP-600M」と、チューナーやスピーカーが付属する「KRP-500A/KRP-600A」では、やや異なる傾向に見えた。
モニターモデルに比べ、チューナモデルはシャドウが強く出過ぎる傾向を感じた。部屋を真っ暗にすれば、暗部にもしっかりと階調があることがテストチャートから認識できるが、調光器でほんのりと明るい環境を作ると暗部が見通しにくい。
チューナーモデルの試聴時にパイオニアの画質担当者に尋ねたところ、測定器で規格上正しくなるガンマ係数2.2のカーブを計測するよう調整したとのことだったが、黒輝度が大幅に下がっているため、暗部の微妙な階調が見えにくくなっているように思う。モニターモデルの時は、暗部階調が見えるよう真っ黒から4%程度までの明るさまでの間を少し明るめに持ち上げるなどのチューニングを行っているということだった。
チューナーモデルはモニターモデルに比べ、後から発売されたこともあっていくつかの追加された機能があるが、決定的なものではない。メリハリのある映像を求めるならばチューナーモデル、よりマニアックに市販Blu-rayディスクを制作者の意図通りに見たいと思うならモニターモデルを勧めたい。両者の違いは店頭では確認しにくい微妙なものだが、この価格帯のディスプレイが欲しいと思うユーザーにとっては、決して小さな違いではない。
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