デジタル分野総ナメ――「2008年デジタルトップ10」:麻倉怜士のデジタル閻魔帳(4/4 ページ)
2008年最後の「デジタル閻魔帳」は、麻倉怜士氏が今年を振り返り、特に印象に残ったモノを紹介してもらう「麻倉怜士のデジタルトップ10」。麻倉氏の挙げる、10大トピックとは?
――2位には、以前にも紹介頂いたBDソフト「NHKクラシカル 小澤征爾 ベルリン・フィル 「悲愴」 2008年ベルリン公演」です。
麻倉氏: この公演はNHK-BShiで放送もされているのですが、放送時はMPEG-2/24Mbpsで、BD版はMPEG-4 AVC/HighProfile 30Mbpsで収録されています。この相違点によって、微妙な細部の表現に大きな差が出ており、非常に素晴らしい画質となっています。映像の専門家が集まるセミナーで紹介したこともあるのですが、そこでも相当驚かれました。
音声については20000Hz以下の可聴帯域だけではなく、それ以上の帯域を収録することで音全体が活性化されるという話がありますが、この「悲愴」は24bit/96kHz収録で、周波数帯では48000Hzまでも入れ込まれています。これによって音が優しくなり、会場の温度感、空気感が押し寄せてくるような感覚までも味わえます。
ハイクラスの映像と音声が一体化したときの感動は筆舌しがたいものがあります。ナチュラルな映像と音声が一体化した際の感動ともいえるでしょう。ここ20年来、ホームシアターを追求してきましたが、この「悲愴」は、“パッケージもここまで来たか”と感じさせる、目でも耳でも体験できる“体験2重奏”の作品に仕上がっています。
惜しむらくは公演の前半のアンナ・ゾフィー・ムターのベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲が収録されていないことですが、それがなくともホームシアターがパッケージで得られた至高の作品といえるでしょう。
――1位はパイオニアのBDプレーヤー「BDP-LX91」です。これまでBD製品はレコーダーが先行していましたが、今年はハイクラスからコストパフォーマンス製品まで、プレーヤーの種類も充実してきましたね。
麻倉氏: まさに驚嘆すべき画質を実現したプレーヤーが、BDP-LX91です。そもそも、なぜプレーヤーが必要なのでしょうか。それは、同じディスクでも、録再機であるレコーダーより、再生専用機であるプレーヤーの方がより多くの情報を引き出すことができるからにほかなりません。そもそもレコーダーは録画するキカイで、レコーディングの世界のものです。シアターの世界ではレコーダーではなく、プレーヤーが主役になるのです。
今年は本製品のほかにも、ソニー「BDP-S5000ES」やオンキヨー「DV-BD606」(現時点では海外販売のみ)など、高級BDプレーヤーが多数登場した当たり年です。こうした製品を試してみると驚かされるのは、1枚のディスクにここまでの情報量が含まれているかと感じさせてくれたことです。
BDP-LX91は、内部で映像ビット拡張処理を行った上でHDMIからの出力を行っているため、これまでに見たことがないような、なめらかなグラレーションを再現してくれます。そこに透明感も加わることで、キメの細やかさも感じさせます。色階調も豊かで、「再生の楽しさ」を感じさせる製品といえます。
再生音質も非常に優れています。その秘密は2系統用意されたHDMIです。プレーヤーからHDMIで出力された信号は一般的にAVアンプなどのなかで映像と音声が分離されますが、これをプレーヤー側で分離しているのです。HDMIの仕様もあり、完全な分離にはなっていないようですが、映像を送出するHDMIでは音声のデータ量を絞り、音声側のHDMIは映像データ量を絞るという手法でそれぞれに最適化したHDMI2系統出力を実現しています。
その音ですが、空気感があり非常に暖かみを感じさせます。臨場感もより、強く感じさせますね。全体としての設計や絵作りも秀逸です。「プレーヤー」としての本分を考え抜き、製品化したことに、今後のハイビジョンAVの発展の展望を込めて、今年の「デジタルベストテン 第1位」を差し上げたいと思います。
麻倉怜士(あさくられいじ)氏 略歴
1950年生まれ。1973年横浜市立大学卒業。 日本経済新聞社、プレジデント社(雑誌「プレジデント」副編集長、雑誌「ノートブックパソコン研究」編集長)を経て、1991年にデジタルメディア評論家として独立。自宅の専用シアタールームに150インチの巨大スクリーンを据え、ソニー「QUALIA 004」やBARCOの3管式「CineMAX」といった数百万円クラスの最高級プロジェクターとソニーと松下電器のBlu-ray Discレコーダーで、日々最新AV機器の映像チェックを行っている、まさに“映像の鬼”。オーディオ機器もフィリップスLHH2000、LINNのCD12、JBLのProject K2/S9500など、世界最高の銘機を愛用している“音質の鬼”でもある。音楽理論も専門分野。
現在は評論のほかに、映像・ディスプレイ関係者がホットな情報を交わす「日本画質学会」で副会長という大役を任され、さらに津田塾大学の講師(音楽史、音楽理論)まで務めるという“3足のワラジ”生活の中、精力的に活動している。
著作
「オーディオの作法」(ソフトバンククリエイティブ、2008年)――音楽を楽しむための、よい音と付き合う64の作法
「絶対ハイビジョン主義」(アスキー新書、2008年)――身近になったハイビジョンの世界を堪能しつくすためのバイブル
「やっぱり楽しいオーディオ生活」(アスキー新書、2007年)――「音楽」をさらに感動的に楽しむための、デジタル時代のオーディオ使いこなし術指南書
「松下電器のBlu-rayDisc大戦略」(日経BP社、2006年)──Blu-ray陣営のなかで本家ソニーを上回る製品開発力を見せた松下の製品開発ヒストリーに焦点を当てる
「久夛良木健のプレステ革命」(ワック出版、2003年)──ゲームソフトの将来とデジタルAVの将来像を描く
「ソニーの革命児たち」(IDGジャパン、1998年 アメリカ版、韓国、ポーランド、中国版も)──プレイステーションの開発物語
「ソニーの野望」(IDGジャパン、2000年 韓国版も)──ソニーのネットワーク戦略
「DVD──12センチギガメディアの野望」(オーム社、1996年)──DVDのメディア的、技術的分析
「DVD-RAM革命」(オーム社、1999年)──記録型DVDの未来を述べた
「DVD-RWのすべて」(オーム社、2000年)──互換性重視の記録型DVDの展望
「ハイビジョンプラズマALISの完全研究」(オーム社、2003年)──プラズマ・テレビの開発物語
「DLPのすべて」(ニューメディア社、1999年)──新しいディスプレイデバイスの研究
「眼のつけどころの研究」(ごま書房、1994年)──シャープの鋭い商品開発のドキュメント
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