液晶のイメージを覆す表現力、REGZA「42Z8000」を試す:人気の薄型テレビ3機種レビュー(3/3 ページ)
人気の40V型クラス薄型テレビ3機種を取り上げるレビュー企画。ラストは、多機能で知られる東芝“REGZA”の「42Z8000」を取り上げる。
野村ケンジの画質チェック
映画とアニメとアンジェラ・アキで画質を語る気鋭のAV評論家・野村ケンジ氏による画質チェック。ソース機器には、ソニーの「プレイステーション3」を用い、BDソフトを中心に試聴している。
良い意味で液晶のイメージを覆してくれるのが、この42Z8000だ。中でも色表現の豊かさに関しては特筆もの。「ヘアスプレー」は赤が沈みがちな傾向も感じたが、全体的に色乗りも発色もよく、印象的でありながらバランスも秀でた、まとまりの良い絵を楽しませてくれる。中間調の表現もきめ細やかで、人によって異なる微妙な肌の色合いを描き分けていたほか、ライティングによって微妙に色合いが異なって見えるところまでも見事に再現していた。
それだけ豊かな中間調を持ちながら、明暗幅の広い、ダイナミックな映像を持ち合わせているのも42Z8000の大きな特徴だ。「ブレードランナー」夜の繁華街のシーンは、暗い街並みと明るいネオンが同居する、まるでパネルの描写力を試すかのような難しい場面だが、このようなシーンでも、暗部の微妙な階調を描き分けると同時に、ネオンの明かりもピークのギリギリまで白飛びしないで粘っている。パートごとに明るさを調整できるLEDバックライトではなく、既存のFL管でここまで表現できているのだから、これほど素晴らしいことはない。
また空間表現に関しても、ほかの液晶パネルと一線を画す実力を持ち合わせている。同じく「ブレードランナー」冒頭の尋問シーンでは、ピントが合っていない部屋の奥の“ボケ”がとても自然なうえ、奥行きを強調するために使われるスモークによる“白み方”も見事。人物の手前に立ち上るタバコの煙との描き分けも完璧で、登場人物が背景に埋もれてしまうことは全くなかった。
フィルムグレン、粒子感の処理もうまい。「ブレードランナー」夜の繁華街、屋台のシーンでは、立ち上る煙によってハリソン・フォードの顔がかすんでいて、フィルムグレンが盛大に目立つシーンとなっている。こういった場面では、一般的な液晶パネルだとフィルムグレンが単なるノイズにしか見えないことが多い。しかしながら42Z8000では、粒子感が自然かつきめ細やかに再現されているため、かすみの向こうにあるハリソン・フォードの表情もしっかり読み取ることができた。メリハリの良いクッキリした絵を得意とする液晶パネルとは思えない、ボケのうまさだ。これも映像エンジン「メタブレイン・プレミアム」の素性の良さと、ソフトウェアのチューニングの素晴らしさがもたらした結果だろう。
この表現の巧みさが、かえってソフト制作者の想定範囲を超えてしまう場合もあった。「アンジェラアキ My Keys 2006 in 武道館」では、フィルムっぽく処理された画面があくまでも擬似で、本物のフィルム感とはまったく違うことが露呈。メリハリの間引かれた、単にねむい映像に見えてしまう場面があった。ここまで表現力が豊かだと、ソフト制作者はおいそれとは手が抜けず、ある意味で強敵かもしれない。
地上デジタル放送やDVDなどをフルHD相当の解像度にする「レゾリューションプラス2」の効果も試したが、こちらの感触は悪くなかった。決してフルHDそのものになるわけではないが、DVDビデオを再生した際の低解像度ボケがいくぶん改善されて、見やすい映像になる。積極的に使いたい機能だ。
「画竜点睛を欠く」ではないが、惜しいと思ったのが動画性能だ。Wスキャン倍速とバックライトオン/オフによって、コマ間映像の生成と黒挿入の両方を実現しているが、コマ飛び感やスクロールボケは少なからずまとわりつく。倍速駆動なしの低価格モデルに比べれば数段良いが、アニメーションやSF映画の動きの速いシーンは、あまり得意とはいえないレベルだ。
パネルの明るさ、階調のきめ細やか、アップコンバート機能などから、リビングでさまざまな映像を見るに最適な1台だと思う。さらに映画は、美しい映像表現を堪能することができる。多くの人にお勧めできる、高性能な万能モデルだ。
評価項目 | 評価(5点満点、右へいくほど高評価) |
---|---|
ダイナミックレンジ | ―――○― |
色合い/中間調の表現力 | ――――○ |
動画表現 | ――○―― |
お薦めのソフト | 映画、地上デジタル放送 |
視聴を終えて
今回視聴した3台は、どれも個性的で、それぞれに得意分野があり、とても魅力的だった。なかでもコンテンツや使用環境によって、ベストワンとなる製品がまったく異なっているのが興味深い。フラットディスプレイは単なる品質競争や価格競争だけでなく、個性を選べる時代となったのである。これは1ユーザーとして大変うれしいことだ。
さらにいえば、今回視聴した製品は、40〜42インチというかなり大きめのサイズながら、その実売価格はいずれも20万円前後(安い店を探せば16万円前後で購入できる)。それでいてトップモデルに近いスペックを持ち合わせているのだから恐れ入る。価格重視の人も、旧モデルの処分品を購入するより、このクラスの特価品を探す方が結果的に高い満足感を得られる可能性が高い。それほどまでに、フラットディスプレイの進化は著しい。そういう思いを強く感じた。
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