高級炊飯器に“羽釜”が増えた理由――象印、三菱、東芝の3社に聞く理想の炊きあがり:滝田勝紀の「白物家電、スゴイ技術」(2/3 ページ)
かまどで炊くごはんを目指した羽釜が高級炊飯器のトレンドになっている。2010年から「極め羽釜シリーズ」を展開している象印マホービンに対し、今年は東芝と三菱電機も相次いで採用。それぞれの担当者に特徴と目指した味を聞いた。
象印
「まずは、なんといっても素材に南部鉄器、つまり昔ながらのかまど羽釜の原点である“鉄”を採用したことが一番の特長です。鉄は昔からごはんを炊くのに使われていた素材であるとともに、現代のIH炊飯ジャーにとっても発熱効率が大変良く、蓄熱性も高いので、理想の素材です。中でも、高い技術力とブランド力のある『南部鉄器』は、炊飯ジャーの内釜として最高の素材だと考えています」(後藤氏)。
「しかも弊社の『南部鉄器 極め羽釜』は、昔ながらのかまどや羽釜を再現しただけではなく、最新の炊飯ジャーに合わせ、カタチと素材の2つを極めた、進化した“現代の羽釜”となっています。大きく分けると2つの特長があり、1つ目は広くて浅い、すり鉢状の形状。この形状では炊飯時にお米の対流が起こりやすく、お米が自重でつぶれてしまうのを防ぎ、ふっくら大粒のごはんが炊き上がります。2つ目は、羽が直接ヒーターに当たる構造です。これにより、側面からの加熱が強化され、均一加熱を可能にしています」(後藤氏)。
「また、若干マニアックですが、すり鉢状なので洗米しやすい、炊き上がったごはんを撹拌(かくはん)しやすい、羽の部分に指をかけやすく持ちやすいという声もいただいていますね」(後藤氏)。
三菱電機
「これまで同様、われわれには本炭釜最大の武器と言える素材“炭”があります。炭が内釡素材に最適である理由は、炭で作った内釡は、釡全体を発熱させるための磁力線が深くまで浸透するから。さらに、電気抵抗が高くて温めた熱の伝導率に優れている、軽量といった美点があります。炭の内釡は、IHコイルに電流を流すことで発生した磁力線が、素材の中に深く浸透、その浸透深さは約10ミリにも及びます。これに対し、一般的なステンレスでは0.25ミリしか浸透せず、熱源であるIHの磁力線が『本炭釡』に浸透する深さは、ステンレス製の内釡に比べ、約40倍にもなる。つまり、ステンレス比で電気抵抗が約16倍、熱伝導率も約4倍と優れています」(金井氏)。
「羽釜の構造を分析すると、羽部分を境にした上下空間がそれぞれ別の役割を持っていることが分かりました。羽部分より下の空間は大火力により米と水を加熱する、上の空間は気泡や“おねば”を受け止めて、うま味をしっかり閉じ込めます。そこで弊社の羽釜は、最大炊飯量(5.5合)でも羽部分を越えないように設計して、上部空間をしっかり確保しました。また、新たに厚さ10ミリの断熱材を内釜下部の周辺にめぐらせた高断熱構造を採用し、羽釜形状との相乗効果によって、従来比約28%※の大火力を実現しました」(金井氏)。
※:2014年製「NJ-VW105」形との比較。本炊き工程における総電力量は従来品123.4Whに対して157.7Wh
東芝
「内釜にステンレスと鉄とアルミを東芝独自の溶湯鍛造製法で一体成形し、備長炭コーティングしています。IHの発熱体ステンレスに加え、発熱効果の高い鉄と、内釜全体に効率良く熱を伝える為にステンレスや鉄、炭と比べて熱伝導率の高いアルミを採用しています」(守道氏)。
「われわれは本来の伝統的な羽釜の形状だからこそできる『かまど炊き』を追求しており、独自のポイントは以下の3つだといえます。1つは羽釜の高さのある空間と側面に丸みを持たせた“すぼまり”です。これにより“おねば”の吹きこぼれを吸収して連続沸騰を可能にし、お米の旨み成分(おねば)を引き出す、その名も連続沸騰うまみ空間を設けました。2つ目に羽釜にはその名の通り羽があることで、加熱部分のからの熱を閉じ込め、大火力と沸騰力を維持させる役割があります。これを当社独自の溶湯鍛造製法の一発成型により丈夫な羽を内釜に再現することができました。また、3つ目に羽釜の丸い釜底は強い熱対流を起こして、お米に熱をすばやく伝えます。それを本羽釜では釜底角度60度で実現させました」(守道氏)。
羽釜の形状や素材の違い、その狙いは分かった。しかし、メーカーのいう「理想の炊きあがり」というのは同じなのだろうか。各社が考えるおいしさに対する考え方を教えてもらおう。
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