高級炊飯器に“羽釜”が増えた理由――象印、三菱、東芝の3社に聞く理想の炊きあがり:滝田勝紀の「白物家電、スゴイ技術」(3/3 ページ)
かまどで炊くごはんを目指した羽釜が高級炊飯器のトレンドになっている。2010年から「極め羽釜シリーズ」を展開している象印マホービンに対し、今年は東芝と三菱電機も相次いで採用。それぞれの担当者に特徴と目指した味を聞いた。
象印
「象印マホービンが考える理想のごはんの炊きあがりとは、元々は『銀シャリ屋 げこ亭』の飯炊き仙人こと村嶋さんの炊くごはんに習い、1、ふっくら感がありごはんに光沢がある外観 2、粘りと弾力があり、しっかりとした歯ごたえがある食感 3、ごはん特有の甘みがあるのが特長です。この3つの特長をおいしいごはんの定義としています。『南部鉄器 極め羽釜』では、蓄熱性と発熱効率が高い南部鉄器ならではのおいしいごはんが楽しめます。また、甘さと弾力について、少し専門的になりますが、甘くするにはα化を進めればよいものの、α化しすぎると柔らかくなってしまいます。適度な弾力(粒感やハリ)と甘さを両立させたごはんこそ大変難しいですが、象印マホービンのこだわっているところです」(後藤氏)。
三菱電機
「釜は炊く人の技量や勘に頼るところが大きいので、できあがりにバラツキがあります。しかし、われわれが美味しいと思うかまどごはんは、一粒一粒がしっかりしているのに、かみしめるとみずみずしくて甘い。この“粒感”と“みずみずしさ”は従来の炊飯器では両立しがたいものでした。当社の『本炭釜 KAMADO』は、IH加熱と相性のよい炭素材で作った羽釜と高断熱構造により、粒感があって、みずみずしいかまどごはんを再現しました」(金井氏)。
「日本のごはんには、単品で食べるのではなく、おかずと一緒に食べて口の中で生まれるハーモニーを楽しむ“口中調味”といわれる和食ならではの食べ方があります。これは粒感がありながらも、中はみずみずしい弊社のKAMADOごはんにピッタリの食べ方だと思います」(金井氏)。
東芝
「かまど炊きのご飯の味を実現するために、東芝では新潟地方に伝わる昔ながらのかまど炊き「ぬか釜」での炊き方を会得し、何度も炊き比べました。まず炊き上がりの見た目ですが、ぬか釜で炊いたかまど炊きのご飯は、強火の証である“カニ穴”と呼ばれる熱の通り道もたくさんできて一粒一粒がしっかりふくらみご飯が立っていることです。そしてハリとうま味成分の“おねば”が一粒ずつにコーティングされてつやがあり、食感は芯のあるかたさとは異なり一粒一粒が弾力のある歯ごたえで、かむほどに甘味が出てきます。実際のぬか釜で炊いたご飯と本羽釜で炊いたご飯を100人以上方に食味してもらい、かまど炊きの味を本羽釜は実現したと思うと回答した方が90%以上もいました。また、実際にご飯の甘味が従来より約10%アップしています」(守道氏)。
まとめ:それぞれの羽釜の形に意味がある
羽釜の特長というのは文字通り“羽”がついていることであり、これは元々かまどに載せる必要性から生まれたものだった。だが、それは同時にかまど自体にフタをする役割として、外へ逃げる熱を遮断し、かまど内の大火力を釜に集中させる役割を担う。
今回、羽釜を採用した3社とも、それぞれが美味しいとするかまどごはんを分析することで、このスタイルをそれぞれの炊飯器に昇華させたことは間違いない。羽釜の羽で密閉された下部空間の断熱構造により、IHによる大火力を実現するという点は3社ともに共通した炊飯器の特長だ。そこに象印マホービンは、かまどにフタをし、羽を直接加熱することで、火力を釜に集中させ、米が対流しやすくて自重でつぶれにくくすることで、浅くて広い内釜形状にたどり着いた。
東芝と三菱電機は、羽から上の空間の役割に着目。大火力で連続的に沸騰しても、吹きこぼれずに芯まで火を通すことができる、上部に空間がある昔ながらのかまど形状を採用するに至った。このようにアプローチに違いはあるものの、それぞれ羽釜の形には確かな意味がある。
つまり、各社は素材や形状、アプローチはそれぞれ異なるものの、共通して自分たち目指したかまどごはんの味や食感を目標にした。「適度な弾力(粒感やハリ)と甘さを両立」(象印マホービン)、「ハリとツヤがあり、一粒一粒が弾力のある食感で、かむほどに甘味が出てくる」(東芝)、「粒感がありながらも、中はみずみずしい」(三菱)をそれぞれの羽釜によって実現しているのだ。
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