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数は減ったがキラリと光る技術も――CESで見えてきた家電各社のアプローチCES 2016(1/2 ページ)

その年の家電業界が進む道を照らす「International CES 2016」が始まったが、今までになく家電メーカーの作り出すモメンタムは小さくなっている。メーカーはどのように事業の軸を作っていくのか。プレスデーの発表から読み解く。

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 ”その年の家電業界が進む道を照らす”といっても過言ではない、世界最大の家電展示会「International CES 2016」が米ラスベガスで始まった。自動運転技術や電気自動車へと向かう流れの中で、今年は今までになく自動車色が強くなっている一方、伝統的な家電メーカーの作り出すモメンタムは小さくなってきた。一方で「エウレカパーク」と呼ばれるエリアには、多くのハードウェアスタートアップ企業が並び、活況を呈している。


CES 2016の会場となるラスベガスコンベンションセンター

 ただし、そうした新興企業が大手家電メーカーに取って代わるほどの勢いがあるかといえば、まだ大きな金脈を見つけたといえるほどのメガトレンドを生み出すには至っていない。

 記者発表がまとめて行われる開幕前日の”プレスデー”も、かつてはシャープ、東芝、パイオニア、さらに遡れば日立や三菱電機、JVC、フィリップスなどの発表会が続いていたが、今こうした家電メーカーの名前はなく、ブースそのものの出展を見合わせた企業も多い。

 こうした変化は主催者側も感じてきていたのだろう。CESを主催するCEA(Consumer Electronics Association)は昨年、CTA(Consumer Technology Association)へと名称を変更した。業界を取り巻く環境は以前にも増して複雑になってきており、もはやCESも“家電ショー”ではなくなってきたということなのだろう。

 そのような中で行われた大手家電メーカーの発表会は、スマートフォンやクラウドなどによって変化した市場ルールの中、どう家電メーカーとして事業の軸を作って行くかを表現する場に見えた。もっとも、以前ほどの規模は出せないかもしれないが、決してネガティブなものではないとも感じた。

プレミアム路線に舵を大きく切るLGとサムスン

 発表会を催したメーカーの中で、自らの”立ち振る舞い”を大きく変えようとしていることをもっとも強く主張していたのは韓国のLGエレクトロニクスだった。

 主役は「LG SIGNATURE」と呼ばれるプレミアムクラスの製品群。デザイン、性能、機能性などあらゆる点で上質さを演出したブランドラインである。家電でのプレミアムブランドというと、かつてソニーが展開した「クオリア」を思い出すかもしれない。しかし、LG SIGNATUREはもっとライフスタイルに密着したブランドだ。


「LG SIGNATURE」

 インテリアとマッチしやすいシンプルなライン、色使いで全体のフォルムを包み、”黒モノ家電”という枠組みではなく、上質なライフスタイルを演出するための製品を得意なジャンルの製品に絞り込んで提供する。LG SIGNATUREの最初の製品ラインアップは、OLED(有機EL)テレビ、冷蔵庫、洗濯機だ。

 LGは、昨年秋にドイツ・ベルリンで開催された「IFA 2015」において、液晶テレビをほとんど前面には出さず、OLEDテレビを強く強調する展示を行った。実際のビジネスの中心はまだ液晶テレビなのだが、パネル事業、テレビ本体ともに売上げが下落していく中、大胆にOLEDテレビへと舵を切ったのが印象的だった。そしてCESでの発表は、それらをさらに推し進めるものだった。

 一方、スマートフォンやテレビといった看板事業が苦しくなってきている韓国サムスンも、今回の発表会では思い切った策を打ってきた。サムスンは昨年のCESで「SUHD」というブランディングを始めた。UHD(4K)を超えるUHDという意味で、ハイダイナミックレンジ(HDR)性能や色再現域拡大などの技術を盛り込んだ、他社よりも一歩進んだUHDというブランディングである。

 その実態はHDRに対応した液晶テレビでしかないのだが、今年のサムスンが大胆なのは、前日に発表されたUHD Alliance発表の「UHD Premiumロゴ」にすべてのSUHD製品が対応すると発表したことだ。UHD Premiumロゴ取得には、検査機関でのテストが義務付けられており、一定以上のスペックを満たさない限り付与されない。

 ”UHD”と銘打たれているが、その実態は4Kであることよりも”優れたHDR性能と広い色再現域”にフォーカスが当てられており、直下型LEDによるローカルディミングは必須で、昨年末のモデルでいえば各社とも最上位モデルしかスペックをクリアできない。当然、コストはかなり上昇するが、”SUHD”という独自のマーケティングブランドをプレミアムなテレビの印としたいサムスンの強い意思といえるだろう。なお、前出のLG製OLEDテレビも、「UHD Premiumロゴ」を取得している。

液晶とOLED、2つの方向でUHD Premiumロゴを取得したパナソニック

 コンシューマー事業の投資縮小が続いたパナソニックだが、B to B事業へのフォーカスを鮮明にするとともに、テレビ事業を白モノ家電事業と統合するなど、大胆な経営改革を進めてきた。現在は一通りの改革が進み、コンシューマー事業への投資もやや戻って来ているように見える。

 とはいえ、国内のコンシューマー事業は大きく削ることなく残されたものの、北米事業は大幅に整理が進められた。おそらくブース展示も、B to B事業に寄ったものになっているだろう。ブース面積もかつてに比べると縮小しており、記者発表会場の面積は2〜3年前に比べ半分近くにまで減少した。


パナソニックが発表した液晶テレビ最上位モデルの「DX900シリーズ」

 しかし、パナソニックは高付加価値商品を訴求し、ブランドとしての価値を高めていくことに力を注いでいる。LGはOLED、サムスンは液晶にフォーカスしていたが、パナソニックは液晶とOLEDの両方で「UHD Premiumロゴ」取得モデルを用意(OLEDテレビは欧州モデル)。UHD Blu-ray Discプレイヤーも同時発表して、プレミアム映像技術を訴求した。


UHD Blu-ray Discプレイヤーも発表

 UHD Premiumロゴには、液晶テレビ向けとOLEDテレビ向けの2種類が定義されている。ザックリいえば、OLEDは圧倒的に高コントラストで黒も引き締まるが、ピーク輝度は低い。液晶はピーク輝度が約2倍と高いため明るい照明下では有利だが、黒レベルが高くコントラストや暗所での黒浮きが問題となりやすい。もちろん、コストは液晶の方がずっと低い。このような現状を見据えた上で、液晶テレビ最上位モデルの「DX900」をUHD Premiumロゴに対応させ、一方でOLEDテレビも発売するという選択をした。OLEDパネルはLG製のホワイトOLEDを用いたWRGB画素構成だ。

 パナソニックは、海外モデルと日本向けのモデルでラインアップや発売時期が大きく異なることも少なくないが、DX900は日本向け仕様が春ぐらいには投入される模様だ。ピーク輝度は1000nits、512分割のローカルディミング、光漏れが少ないバックライト設計などの特徴を持ち、HDRコンテンツの表示能力が大幅に引き上げられている。

 昨年、日本では発売されなかったOLEDテレビが国内投入が気になるところだが、今回のプレスカンファレンスで紹介されたOLEDテレビは欧州向けの製品だった。新モデル開発も進めているようだが、年内の国内投入に関しては”鋭意努力している”状況で確定していない模様。「引き続き、開発と国内発売に向けて努力している」とのことだ。


欧州で発売した65V型の有機ELテレビ「CZ950」

 パナソニックが高付加価値製品にフォーカスしているのは、何もテレビだけではない。IFAで発表していたテクニクスブランドの新製品が、CESにも持ち込まれている。さらにIFAでは”発表”のみだった、アナログターンテーブルの「SL-1200」シリーズを復活させた「Grand Class SL-1200G」も今年後半に発売される。

 またデジタルカメラ領域でも、高倍率レンズと高精細EVFを搭載した1インチCMOSセンサー搭載の「DMC-ZS100」を発表した。35mmフィルム換算で25〜250mm/f2.8-5.9のレンズと1インチセンサーの組み合わせは、他の地域では「TZ100」の名称が与えられるが、日本についてはまた別のブランドになるという。フォーカス深度を後から変えられる、4Kフォト新機能「フォーカスセレクト」にも対応する。

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