世界の4K番組最前線! 「miptv2016」レポート(前編):麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(5/5 ページ)
昨年、スカパー!を皮切りに4Kの商業放送がスタートし、ハード/ソフトの両面で4Kの存在感が増しているが、日本以外はどうなっているのか? 実は、世界の映像コンテンツ業界は今、4Kの可能性に夢中だ。
麻倉氏: もう1つ新しい話題としてニュースを報告します。トピックではなくジャンルとしてのニュース、またはドキュメンタリー界隈の動きです。旗手はわれわがNHKの本体。NHKでは研究の主役が8Kへとシフトしている感がありますが、実はNHKには8Kだけでなく4Kにも力を入れないといけない切実な理由があるのです。というのも、NHKは2018年から8Kと4Kを1チャンネルずつ持つことが既に決まっています。このためNHKは、8Kだけ、4Kだけでなく、その両方を同時進行で研究開発し、制作能力を磨かなければいけません。ということでNHKは今回、ニュースと後で述べるドラマを大きく取り上げていました。ドラマは次回にお話するとして、今回はニュースを取り上げましょう。
以前、NHKでは戦後70年の記念番組を制作しましたが、その時は4Kでの制作でした。その他、今年国内で紛糾した安保法案の国会審議も、実は4Kで収録していたそうです。ニュース映像で重用なのは何といっても正確さとリアリティーです。特にリアリティーの面において4Kは、2K以上に現場感覚というものが得られ、その結果ニュースとしての情報性が高まります。ニュースにおける試みとしてNHKは昨年の桜島噴火や姫路城リニューアルなどを4Kまたは8Kで撮影しました。この際に単に景色を撮るだけではなく、収録した4K映像を使ったCGを作ったのがポイントです。
――なるほど、収録映像をそのまま放映するのではなく、CGの素材にするという使い方ですか。正確な3Dモデリングを行うのに、高精細イメージは強い味方です
麻倉氏:実は東日本大震災での福島第一原発事故の時も4Kを使ったCGを作っていたらしいです。あらゆる角度から撮影収録をすることで、通常の視点からは気付きにくい中身などもCGで見るといった使い方ができ、一定の成果をあげています。今後NHKでは、さらに4Kニュース環境の拡充を行うとしています。ただ、問題としてNHKには400人ものカメラマンがいるのですが、報道部に4Kカメラはわずか4台しかありません。NHKでは「今年は8台に増やしたい」としていました。
昨年や一昨年のmiptvでも、ニュースを4Kでやりたいという声は少なからずありましたが、実際にカタチにしたのは今回のNHKが初めてです。これから4Kや8Kの制作が盛んになると、当然ニュースや報道特集、またはドキュメンタリーといった分野でも4K化されていくでしょう。そうなると4Kでなくてはならない描写力や情報伝達力といったものが表れ、ニュースの本質に合っているということが分かってくるのではないでしょうか。
――次回は話題の中心をHDRに移し、ドラマにおけるNHKの挑戦などをお話します。コンテンツの世界におけるHDR事情はどうなっているのでしょう。お楽しみに
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