モイアさんのインスピレーション
「作る前に、格好形がすーっと頭に浮かぶんや。自然を感じる様に、石や木を立てるんやわ」
「生まれた時からいっぱいどこかしら見てきとろう。建物も像も場所も人も。それがイメージとして浮かぶんじゃわ。1を知るには勉強しな分からんやろう、みんな勉強して習っておぼえるん。ぼくも、いろんなとこへ行ったり、いろんなものを見たけえ、頭に浮かぶんじゃ思う」
「画家とかはね、年がいってから凄い絵になってくるゆうけどねえ。あんな人がおったこんな人がおった、凄い人がおったと、その出会いが20年30年たって勉強になってね、知恵がついていくんじゃろ」
「動いてたら目の中に入ってくるけえね。じぃっとしても目の中には入らんよ」
「だいたいまあ世の中には、なんちゃせん人がいっぱいおるんけえ。飲んだり食うたりするだけやなくて、なんぞせえってみんなに言うんじゃけんど。草が生えてたら草を引けというんやけど、草の一つも引かん人もおる」
――でも、モイアさんみたいにこんなに精力的に作ってる人は、広い世の中でもそんなにいないと思うのですけど(笑)。
「そうけぇ」
モイアさんは照れたように笑った。
モイアさんが教えてくれたこと
――今まで苦労してきたことってありますか?
「物凄いこわいこととか、いっぱいしてこうなったよお。怪我をしたり病気をしたり、もう何度もあの世にいきかけたけんど。30歳くらいのとき、伐採中に背骨が折れて、今背中には金属いれとるけえの。あと心筋梗塞で、心臓に三箇所カテーテルいれちょる。夜やったら死んどるけんども、昼やったけ皆おったけえ良かったけど」
――大変だったんですね。
「まあ、若い頃にはもうもう夢中でやってきててもな、年が行きだしたら、どんどんみんなあ病気がくるひとガンがくるひと、いっぱいその人に襲い出すんじゃけえ。そりゃ襲われん人は幸せじゃけえど。医者やら偉いひとでも、みーんな死んでいくんじゃけえ」
「それじゃけえ、今生きちょる世の中で、いかに毎日を大切にして、いかに形にしていくか。それが大事じゃけぇ」
皆もちろん死んでいく、だからこそ生きている今、形を残していく。その行為を、なんでそんな無駄なことを、と思う人もいるかもしれない。
でもモイアさんの作り出した形は、ちょっといびつでも変でも、美しく輝いていた。
「君はフリーターか」
――微妙に違います。フリーのライターです。書くほうです。
「物を書くのか。書くってのは、作るのと同じようなことやけぇ。まぁ、いろんなところへ行って、いろんな人に会って。知恵つけて頑張りぃ」
なにか胸にじいんと残る感覚が分かった。
――ありがとうございました、モイアさん!
「まあ、高知でなんかあったらボクに電話してきい」
私はモイアさんと握手をして別れたのだった。
助けて、モイアさん!
数十分後、私は電話をかけていた。相手は、先ほど別れたばかりのモイアさんである。
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