クラシックシーンをリードするベルリンフィルのメディア戦略:麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(4/4 ページ)
今年のIFAで発表されたベルリンフィルとパナソニックの大型提携。長年良好な関係を築いていたソニーではなく、なぜパナソニックを選んだのか。AV評論家の麻倉怜士氏が、今回の提携劇とそれにまつわるベルリンフィルのメディア戦略を読み解く。
麻倉氏:今回は海外ツアー中だったためにベルリンフィルの演奏は聴いていませんが、ベルリンフィルといえば今年ベートーヴェンの全集が出ました。ラトルが振ったこのベートーヴェンは「ベーレンライター版」という新しいエディションに基づいているのですが、この録音が素晴らしいんです。同じベーレンライター版でもウィーンフィルがやった時はかなりピリオド的で、メリハリが利いたハイスピードで過激な演奏をウィーンフィルが演ったということに驚きました。
今回のベルリンフィルはそこまでの過剰さはなく、件のウィーンフィルから10年経っているということもあり、ラトルが考えるベートーヴェンとして、重厚さ軽快さと綿密さとくっきりさとがうまく溶け合った演奏です。音的にいうと内声部がすごく出てきており、基本的にはベルリンフィルの演奏なのですが、今回の演奏が通常と違うのは第2ヴァイオリンが横に置かれた両翼配置になっている事でしょう。現代のオーケストラで一般的なヴァイオリンが固められた配置と異なり、両翼配置にすることでベートーヴェンが意図したステレオ効果出てきます。
その中で内声部が前に出るのですが、それが録音ですごく表れています。この録音の特長はこれまでに比べて内声部音場解像度が高いことで、これはフィルハーモニーの高解像度音場ならではです。内声部を録るにしても下手をしてはちゃんとした音は出てこないですが、フィルハーモニーではそれが場所場所ではっきり出てくるので、収録時に位置関係を大事にして定位をやりましょうということが強く意識されています。フィルハーモニーの透明な音場感と、綿密な音の出方とがとても良く効いています。
ホールの音に関して、懇親会でフランケさんと「サントリーホールは2階が良いし、ここも2階のBブロックが最高だね!」「そうだそうだ!!」と意気投合したんですよ。ここからも分かるように、フィルハーモニーでは場所によってかなり音が変わるのです。
――一般的なホールでもそうですが、フィルハーモニーは場所によって聴かれる音の印象に差が出ます。ホール中央の壁にほど近い場所では最上級のシアワセな音響体験ができますが、音楽に関わる人間なら一度はあの音を体験すべきだと思います
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