麻倉氏:次は4Kの音楽番組です。対象局はフランスのM・MEDIA TV。Michael Swierczewskyさんという東欧系の方がCEOを務めているのですが、この人がすごくセンスがあるんですよ。
ここの特長はカメラ、編集機など、すべてが全て自社持ちということです。これによって撮影や編集に徹底的にこだわることができますが、逆説的にこのようなコダワリがないと4Kはうまくいかないと考えているといえます。具体的にはドラマと音楽に対するコダワリです。若手アーティストにターゲットを置いた、ドキュメンタリー的な記録映像ではない映画的な演奏作品に注力しています。
――音楽映像というとコンサートのライブ映像が多いですから、作品として練り上げるというのは確かに新鮮です
麻倉氏:面白いでしょう? このCEOには秘密があって、実は元々音楽家なんです。コンセルバトワール・パリとウィーン音大を出たマエストロで、CDも結構出ていたりします。一時はボストンシンフォニーで小澤征爾のアシスタントもしていた、指揮者出身のブロードキャスターという一風変わった経歴の持ち主だったりします。
――ガッチガチの王道じゃないですか。なぜ楽壇に立つのではなく放送の椅子に座っているのですか?
CEOのMichael Swierczewsky氏。実はコンセルバトワール・パリとウィーン音大を出ており、ボストンシンフォニーで小澤征爾との仕事も経験しているクラシック界のエリート。音楽家ならではの目線で「クラシックのミュージックビデオ」を作る
麻倉氏:色々理由はあるみたいですが、放送への転向は「こっちの方が面白かった」かららしいですよ。当然音楽に対する造詣が深いです
取り組みとしては、ヤングアーティストでベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタを収録しました。一般的なコンサート映像はホールとステージをマルチカメラで撮る記録的なものですが、これがスゴいのはスコアを徹底的に読み込んで脚本を書き、スタジオで音とアングルを徹底的に作り上げるという点です。もちろん音と映像は同時収録しています。
――徹底的に作り上げるという意味ではベルリンフィルの「デジタル・コンサートホール」に似ていますね
麻倉氏:ただしあちらはカメラの自動制御など、省力化の意味合いが強いです。一方こちらは有人クレーンを使ったスタジオ撮影をしています。大変なのは撮影ノイズを出さないようにすることで、もっと大変なのは撮影にあてた3日間、演奏家のテンションを一定以上に保つことだそうです。リハ1日、撮影2日のスケジュールで、編集で音色が変わるのはご法度なので、取り直しのときに演奏家のテンションが変わってはいけません。
――思えばこれってレコードやCDの収録では当たり前のようにやっていたことですよね。ですが音だけのCDに比べて、映像は演出の要素が段違いに多いという点はかなりチャレンジングでしょう
麻倉氏:M・MEDIAはOTTのプラットフォームも自社で持っています。会員になると例えばパリ管弦楽団やチューリッヒ・トーンハレ管弦楽団などの最新の演奏風景といった、ヨーロッパの最先端音楽シーンを見られます。配信は4Kではないですが、撮影は4K HDRなので将来の発展に期待できそうです。
4Kだからこそコンテンツにこだわる、自分の欲しい絵をとことん追求する、これは音楽家ならではの目線といえるでしょう。全てをインハウスでそろえるという点も、機材の使いこなしを視野に入れた作戦なのです。
――まさに「映像の演奏家」と呼ぶに相応しいですね。これを機転にして、アーティスティックな音楽映像がもっともっと増えていってもらいたいです
麻倉氏:そのほか、ドイツのブッシュメディアも面白い取り組みをしていました。内容は70mmフィルムを4K修復して作品化というもので、これも高画質時代の新しい切り口です。
例えば1962年の「Flying Clipper」というドキュメンタリーフィルムなど、これまで表に出ていなかった1960〜1970年代の作品を修復し、OTTに流すという活動をしています。4K的なクリアさだけでなく、フィルムならではの味わいや、現代的なビデオとは違う作品性・画質を、コンテンツとして届けることを追求していました。
このように4Kを活用し、4Kの力でユーザーを増やし、新しい可能性を広げている。こういった活動がヨーロッパの放送最前線で繰り広げられているという動向が今回の取材で分かりました。映像文化というものは、まだまだ発展を遂げていくのだろうと期待させる、そんなカンヌの春でした。
――次回はHDR、VR、そして8Kに関する動向をお伝えします……ところで放送番組とVRって、一体なにをするんですか?
麻倉氏:それは次回のお楽しみということで。まだまだ話題は尽きませんよ
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