AirH",つなぎ放題の秘密は?──地方部では“フレッツ”サービスの代わりにも

AirH"が,低コストでつなぎ放題のワイヤレスサービスを開始する。実はNTTも採用を検討していたAO/DIと呼ばれるISDNの仕掛けを,うまく利用したことが実現のポイントだった。

【国内記事】 2001年5月19日更新

 インターネットユーザーをワイヤーから解き放つ新データサービス,「AirH"」がDDIポケットからサービス開始される。PHS初のパケット通信,NTTですら導入を見送ったAO/DI(Always On/Dynamic ISDN)を導入し,低コストで高速,さらには十分現実的なコストでのつなぎ放題まで実現してしまった。

 AirH"では2つの料金プランが準備された。月額7000円,最大32Kbpsのパケット通信でつなぎ放題の「使い放題コース」,月額5800円で最大64Kbpsの回線交換と32Kbpsのパケット通信を動的に切換え,25時間分の通信料金を含んだ「ネット25」だ。それぞれのコースは年間割引を利用すれば,初年度でもそれぞれ月額5950円,4930円となる。

使い放題にできた秘密はここに

 使い放題コースが最大32Kbpsのパケット通信なのを残念に思う人もいるだろう。その理由は,DDIポケットが基地局からのバックボーンをISDNベースのNTT網に依存しているところにある。

 PHSはISDN回線を無線を使って引き伸ばしたような構成をしている。基地局からバックボーンネットワークまではISDNベースの網を利用しているわけだ。ISDNは,64Kbpsの速度を持つBチャンネル2本と,16Kbpsの速度を持つ制御用のDチャンネル1本が束ねられて1回線となっている。PHSの基地局は1つでPHS3回線(通話,従来のデータ通信)をサポートするために2本のISDN回線が引き込まれている(4B+2D)。

 通話や従来のデータ通信(αデータ,αデータ32/64)では基地局からバックボーンネットワークまでBチャンネルを利用して回線交換で接続する。回線交換だから使用した時間分だけDDIポケットがNTTに利用料金を払わなくてはいけない。したがってこの仕組みでは低コストにつなぎ放題を実現することは不可能に近い。

Bチャンネルのパケット通信を利用

 そこでAirH"では基地局からバックボーンネットワークまではBチャンネルのパケットモードで接続することにした。これならDDIポケットがNTTに支払う利用料金はデータ量に応じたものになる。基地局に複数のAirH"がパケット通信で接続されている場合でも1つのBチャンネルを共用する。

 PHSで1つの基地局に接続されているBチャンネルは4つ。うちPHSの3回線分として3つを使用し,残った1つを回線制御に使用している。AirH"のパケット通信がどのBチャンネルを使用するかは現時点では公にされていないが,回線制御用のBチャンネルである可能性は高い。元々回線制御用のBチャンネルは帯域も十分に空いている。

 端末と基地局の無線部分はDDIポケットが所有する部分。つまり従来のデータ通信と同じ方法で接続してもコスト的な問題はさほどないが,これでは3台のAirH"が1つの基地局に接続すると音声通話や従来のデータ通信が不可能になる。AirH"ではつなぎ放題が可能である以上これでは不都合だ。

 AirH"のパケット通信では無線部分は制御用スロットを使用する。PHSは無線部分にTDMA(時分割多重伝送)を採用しており,1つの周波数を時分割して複数の端末との接続に使用する。1つの周波数(=基地局)のスロット数は4つ。1つのスロットは32Kbpsの帯域を持ち,音声通話や従来のデータ通信(32Kbps)で1つのスロットを消費する。

 4つのスロットのうち,3つを音声通話や従来のデータ通信で使用し,1つを制御用として使用する。そこで制御用のチャネルを使用すれば音声通話や従来のデータ通信には影響を与えずに済む。AirH"のパケット通信は制御用スロットを共用するのだ。AirH"のパケット通信が最大32Kbpsなのは無線部分の1チャンネルが32Kbpsだからだ。

 理屈の上では1つの基地局で3つの音声通話や従来のデータ通信と,複数のAirH"でのパケット通信が可能になる。しかし端末制御の関係があるので,実際にこの部分がどうなるかは現時点では不明だ。しかしつなぎ放題を許す以上,3台のAirH"が1つの基地局にパケット通信で接続されたからといって音声通話が不可能になっては都合が悪いだろう。この点は追ってDDIポケットから仕様が公開されるはずだ。

 AirH"がつなぎ放題を実現したのは基地局からバックボーンまでは制御用のBチャンネル,無線部分は制御用のスロットを活用したからだ。このため速度的な制限は大きいが,十分実用レベルにある利用料金でのつなぎ放題が実現されている。

AO/DIとは?

 AirH"のシステムは,NTTが一時期採用を検討していたAO/DIとほぼ同じだ。AO/DIではパケット通信であるDチャンネルを接続しっぱなしにしておき,データの送受信が少ないうちはそのままDチャンネルで通信を行う。データの送受信量が大きくなるとBチャンネルの回線交換で接続してこちらでデータの送受信を行い,再びデータの送受信量が少なくなるとBチャンネルを切断し,Dチャンネルでのパケット通信のみに戻す。

 AO/DIは固定料金で常時接続を実現するシステムではないが,回線交換のみ,もしくはパケット通信のみでインターネットへの常時接続を行うよりは,よほど特殊な利用形態でない限りずっとリーズナブルになる。

 ISDNのパケット料金は128バイトで0.5〜0.24円であり,例えば100KBのデータ送受信は最低でも192円かかるが,Bチャンネルの回線交換(64Kbps)なら必要な時間は数秒だからおおよそ10円で済む。逆に10分接続してデータの送受信量が0の場合パケット通信なら0円だが,回線交換では30円程度かかる。AO/DIではTAやルーターがデータ送受信を監視し,リーズナブルになるようにパケット通信と回線交換を自動でダイナミックに切り替えるのだ。

 AirH"ではAO/DIの場合のDチャンネルの代わりに制御用のBチャンネルを用い,無線部分ではISDNのDチャンネルと同じ位置付けにある制御用スロットを用いる。「ネット25」の仕掛けはまさにAO/DIそのものだ。

 NTTではISDNを用いる低コストなインターネット接続サービスはフレッツISDNを採用したため,AO/DIが陽の目を見ることはなくなった。NTTの競合会社となるKDDI傘下のDDIポケットがAO/DIをベースにした仕掛けを活用する事になったのは皮肉としかいいようがない。

 PHSでのつなぎ放題サービスが実はDDIポケットが最初ではなく,一部地域のアステルでは既にサービスが開始されている。しかしこれは一部地域アステルが地域通信会社を母体を持ち,基地局からバックボーンまでを自前で準備(もしくは関連の地域通信会社のものを使用)しているという特例ともいえる状況で実現されたことだ。

 実際DDIポケット同様にNTT網に依存している地域のアステルでは一切繋ぎ放題は実現されていない。NTT網に依存するDDIポケットでつなぎ放題が利用できるのはやはり画期的なことなのだ。

つなぎ放題ではないが,やはり割安感の強いネット25

 ネット25も割安感は強い。年間割引を適用した場合は月額4930円。基本料金などを無視して単純にDDIポケットの同一区域内でのデータ通信料金70秒/10円を当てはめても,従来の料金体系で4930円で可能なデータ通信時間は約9.5時間。実質の最高通信速度は同じなのだから,ネット25は確実にお得だ。

 ネット25で,もし25時間ずっと回線交換でデータ通信が行われれば,DDIポケット側はおそらくコスト割れを起こすことになる。しかしインターネット利用でそのような使われ方は現実的に考えにくい。この点まで考慮の上での思い切った英断ともいえる料金設定だろう。

地方部では“フレッツサービス”の代わりにも

 使い放題コースには,ヘビーなモバイル用途以外にもう1つの側面がある。DDIポケットの通話可能エリアは低コストな常時接続インフラであるNTTのフレッツサービスよりサービスエリアが広い部分もある。つまり地方部において最大32Kbpsながら低コストな常時接続が初めて可能になる地域も生まれるのだ。

 DDIポケットは,年内にも最大128Kbpsのデータ通信サービスも開始する。最大384Kbpsという高速データ通信を実現するドコモのFOMAも10月には正式サービスが開始されるが,データ通信という側面だけで見れば現時点で最大通信速度以外にAirH"に対するアドバンテージはほとんどみあたらない。コストもサービスエリアもAirH"の方がずっと広い。この状態が確実に1〜2年は続くことになる。

 AirH",モバイラーには大注目のデータ通信サービスの登場だ。

お詫びと訂正:5月16日の記事で,「DDIポケットのパケット通信はISDNのDチャンネルを使用する」「Dチャンネルの速度は19.2Kbps」と記載しましたが,それぞれ「Bチャンネルを利用」「Dチャンネルの速度は16Kbps」の誤りでした。ご愛読の皆様,並びに関係者各位にご迷惑をおかけしたことをお詫びし,訂正いたします。

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[坪山博貴,ITmedia]

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