アプリケーションプロセッサが“携帯Java”を変える──アプリックス

2001年が携帯Java誕生の年ならば,2002年は展開の年。今後の携帯Javaの動向を,数多くのメーカーにJavaVMを提供するアプリックスに聞いた。

【国内記事】 2002年1月18日更新

 NTTドコモがJava搭載携帯電話「503iシリーズ」を発表したのは,ちょうど1年前の1月18日(2001年1月の記事参照)。そこから携帯向けJavaの歴史が始まった。

 ドコモの503iシリーズで“最速のJava”を誇る「SO503i」や,J-フォン,KDDIのJava端末にJavaVMを提供しているのがアプリックス。同社は,この1年間の軌跡と,2002年の携帯Javaの動向をどのように考えているのだろうか。


アプリックスのJavaVM「microJBlend」が搭載された携帯電話。既に11機種を数える

第1世代は“慎重にことを運んだ”

 この1年間で「携帯にJavaが乗ることが証明された」と語るのは,アプリックスの研究開発本部ES研究開発部の小林哲之主任研究員。初代のJavaに関しては,機能の搭載も慎重に行い,盛り込めるすべての機能を盛り込んだわけではないのだと言う。

 そんな携帯Javaも,年末には搭載機種が1000万台を突破(2001年12月の記事参照)。Javaが乗ること自体に問題がないことは証明されてきた。

 「今年の春あたりからは第2弾が続々登場する」と小林氏が言うように,各キャリアは第2世代のJavaを投入し,機能を拡張させてくる(2001年12月の記事参照)。第2世代のJava,それ以降のJavaは何が変わってくるのだろうか?

2002年はJava性能が大幅に向上する?

 2002年のJavaでまず触れておきたいのは,大幅に動作速度が向上する可能性があることだ。現状のJavaは速度が十分とは言い難く,「もうちょっと性能面で余裕があれば……と言われることも多い」(小林氏)

 その大きな原因はJavaVM自身の問題ではなく,現在のJavaが,携帯電話の音声を処理するチップ(ベースバンドチップ)が,その“余剰能力”を使って動いていることにある。iアプリなどでも,パケット通信中はJavaの処理速度が落ちることは有名だ。

 そこで別途プロセッサを用意し,Javaなどを高速に動作させようという試みがなされている。その1例が日立製作所が携帯電話向けのアプリケーション・プロセッサとして開発を進めている,「S-MAP」(SuperH Mobile Application Processor:エスマップ)だ。

 S-MAPは,RISCチップに画像や音声の処理に向いたDSPコアを組み込んだもので,日立のマイコンSuperHと上位互換性を持つ。動画の処理やJavaなど,第3世代携帯電話の時代に向けて,携帯にも汎用プロセッサを搭載するというニーズが高まることを見越して開発を進めている。


2001年の10月に,日立がセミナーで提示したスライド。S-MAPは,正確にはSuperH3(SH3)にDSPを追加したSH3-DSPの携帯向け省電力版を指す


S-MAPのロードマップ。S-MAP3からは0.13μプロセスで製造される予定


S-MAPのターゲット。「CDMA2000 1x」やPDCの「5xxシリーズ」などがS-MAP-1のターゲットになるようだ。

 アプリックスでは,同社の組み込み向けJavaVM,「micro JBlend」をS-MAPに対応させた。「既に端末メーカーに提供できる状況」(小林氏)

 S-MAPをどのくらいのクロックで動作させるかによってJavaの実効速度も変わってくるが,「(従来と比べて)数段違う」(小林氏)。118MHzで動作するS-MAP上で動くJavaのデモンストレーションを見た限りでは,相当な速度で動作していた。アクションゲームなどは適度にウェイトを挟まないと速すぎてゲームにならないほどだ。

アプリケーションプロセッサのもう1つのメリット

 アプリケーションプロセッサのメリットは処理速度の向上だけではない。通信制御用のベースバンドチップと切り離されていることで,JavaVMおよびJavaアプリケーションが開発しやすくなる。

 従来,携帯電話のソフトウェア開発は通信機能まで備えた大きなボードで行っていた。「安定性も低く,どこに問題があって動かないのか,突き止めるのが難しかった」と小林氏はソフト開発の難しさを語る。

 アプリケーションプロセッサを利用することで,純粋にJavaに関係したパーツのみのボードを使って開発できる。デバッグもしやすく「いつも安定して動くボードがあると,(開発が)はるかに楽」(小林氏)。

 またJavaアプリケーション制作者にとっても開発が容易になる。「PC上のエミュレータでの開発では実際の端末で問題が出る場合もある。開発ボードが出回ってくれれば作りやすい」(同氏)


S-MAPを搭載した開発ボード。非常にコンパクトだ。“携帯電話の試作機”とでもいえる従来のボードに比べて,安定性が高く,ソフトウェアの開発がしやすいという

将来的にはブラウザやメーラーもJavaに

 Javaの将来的な話をすれば,「現在の,Javaプログラムをダウンロードして使う,という形から,有機的な動きができるようになる」と小林氏は語る。電話帳やハードウェアにアクセスできない現在のJava仕様から,さまざまなデータやハードウェアにJavaがアクセスし,連携して動作するのである。

 ドコモのiアプリに代表される携帯Javaでは,Javaプログラムはほかのメモリやハードウェアから分離し保護されている。これはもちろん悪意のあるJavaプログラムが作られる可能性を考慮してのことだ。

 しかしドコモに遅れること半年で登場したKDDIやJ-フォンのJava仕様では,電話帳やハードウェアへのアクセスを限定的ながら認めている。今後はセキュリティに配慮しながら,さまざまなデータにJavaがアクセスできる方向に進みつつあるようだ。

 もう1つ,“WebブラウザやメーラーをJavaで書いてしまおう”という動きもある。

 携帯電話のソフトウェアが,大規模化し開発難度が増しているのは周知の事実。頻発するバグも,その難しさを証明している。機能の似通ったアプリケーションは使い回せるようにしたほうが制作効率も増すが,組み込み機器である携帯電話はハードウェアも各機種バラバラな上OSも異なる。同じアプリケーションを動作させるには,JavaのようにハードウェアやOSの違いを吸収してくれるプラットフォームを使うのが簡単だ。

 「(現在の携帯電話で,このような形でJavaを利用するのは)プログラムのサイズ的な問題でできないが,方向性としては正しい」(小林氏)。これからの携帯電話は,メモリ容量も急速に拡大し,アプリケーションプロセッサが搭載されるなど速度も改善されていく。今後,携帯電話のほとんどのソフトウェアがJavaで書かれる日がやってくるかもしれない。

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[斎藤健二,ITmedia]

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