超低消費電力・高速通信──「UWB」とは何か?(3/3)

【国内記事】 2002年4月18日更新

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 低コスト化のカギの1つは,機能の集積が容易で安価な半導体製造技術であるCMOSプロセスを利用することだ。無線のチップではCMOSプロセスの採用はあまり進んでおらず,BluetoothチップがCMOSプロセスで製造されている程度。しかし「(UWBは)CMOSでの実装に効率の良いアーキテクチャだ」とManny氏は言う。


Intelが示した,通常のナローバンドの通信システム(上)と,UWBの通信システム(下)の比較。特にトランスミッタ(送信部)が簡素化されている。「UWBは非常にシンプルだ。パワーアンプも必要ない」(Manny氏)

 とはいえ,“UWBといえばパルス”と決めつけるのは早計かもしれない。Intelがターゲットとする500Mbpsの実現のためには,「パルス以外も実験したい」とIntel LabsのEvan Green氏。実際には「直接拡散(DS)やOFDMのようなシステムを使うようになるのではないか」とGreen氏は語る。

UWBの課題は?

 UWBはまだ標準化もされていない新しい技術。Manny氏は,今後の課題をいくつか挙げた。

 1つはレシーバー(受信部)が複雑なことだ。ピコセコンド単位でパルスが送受信されるUWBでは,受信に精度が要求される。「なかなか実際にパルスを受け取ったかどうか分からない。パルスの受け取りには,同期する必要があり,そのためには正確な時計が必要だ」(Manny氏)

 また,通信の多重化も問題の1つ。UWBは高いデータレートを持っているが「太いパイプが1本」(Manny氏)でしかない。「複数のユーザーがいかにシェアするのか。時分割(TDM)や符号分割(CDM)など,いろいろと考えられる」(Manny氏)

 ハードウェアの設計も課題だ。数GHzの周波数幅を利用できるアンテナを小型化するのは難しいといわれている。Intelのデモシステムでも,アンテナは直径数センチの傘状のものが2つ利用されていた。


Intelのデモシステム。上がトランスミッタ(送信部),下がレシーバー(受信部)。トランスミッタは簡素だが,レシーバーが複雑なのが難点。消費電力も,レシーバーのほうが多くなるとManny氏は言う

 通信速度の高速化に伴って,マルチパスの影響が出てくることも研究課題の1つだ。マルチパスとは,壁などで跳ね返った電波が遅延して届き,本来のデータに干渉する現象。そもそもUWBはマルチパスに強い技術といわれているが,「200Mbpsから300Mbpsを超えると,インターシンボルやマルチパスの影響が出てくることが分かった。しかしパルスごとに隔離ができれば,マルチパスの問題はなくなる」(Manny氏)

 標準化も,これからの課題の1つ。変調方式1つを取ってみても,「UWBにはいろいろな変調方式がある」とManny氏。IntelのデモではDPSK変調方式を使ったが,ほかの方式も利用できる。IEEE(米国電気電子学会)ではUWBについてのタスクグループが7月には承認されることが期待されているとManny氏は語る。標準化への議論は,これから始まるところだ。

 さらに,UWBが解禁されたのは今のところ米国だけ。日本では利用できる出力に大きな制限があり,Intelでも総務省とミーティングを予定している段階だという。欧州も米国の進展を,まずは見守っている状況だ。

 とはいえ,UWBがこれまでの無線の常識を覆すような魅力的な技術であることも確か。今回のテクニカルセッションにも数多くの参加者が訪れ,期待の高さを伺わせた。

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[斎藤健二,ITmedia]

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