Mobile:NEWS 2003年4月22日 11:06 AM 更新

ウェアラブルコンピューティング
「ファッション」としてのウェアラブル

ウェアラブルは“装着する”ものゆえ、“ファッション”という側面を持つ。ファッションにウェアラブルを取り入れる、ウェアラブルをファッショナブルに着こなすという2つの立場から、討論会やファッションショーが行われた

 「ウェアラブルのファッション」と言った場合、2つの意味がある。1つは「ファッションのなかにウェアラブルを取り入れるということ」、もう1つは「ウェアラブル機器をファッショナブルに着こなす」という意味である。一見似ているが、違うものだ。

 情報処理学会第65回全国大会の特別トラック「ウェアラブルコンピューティング」では、この両方の意味から「ウェアラブルのファッション」に迫るパネル討論会「ウェアラブルコンピューティングによる文化・ファッション大革命」が催された。

ファッションかファンクションか

 討論会にファッション界から参加したのは、上田安子服飾専門学校の大江瑞子校長と、Cube-f代表の曽根美知エ氏。この2人のデザインはまさに“対極”と言ってよいものだった。

 ファッションの中にウェアラブルを取り入れる、という立場をとったのは大江瑞子氏。

 同氏は、ファッションの歴史を振り返り、「ファッションは1960−70年代に一気に花開きましたが、今そのパワーがあるかどうかは疑問。90年代からは低迷しています。そんな中でウェアラブルは、ファッションに“変革”をもたらすものとして現れたのではないでしょうか」と述べ、ウェアラブルがファッションに与えるインパクトに期待を寄せた。

 同氏によれば、このような実用物がファッションのなかに入ってきた例としては、軍服(ミリタリー)などがあったそうだ。だが、「ウェアラブルはこれまでなかった概念」(同氏)という。

 「ウェアラブルは、ハイテクなファッションを実現するのではないかと思います」と話す同氏のデザインは、ディスカッションの合い間に行われたファッションショーの写真を見ていただくのが分かりやすいが、一言で言えば、「LEDがぴかぴかしている服」。ラメの延長? のような扱いだった。


上田安子服飾専門学校の大江瑞子校長によるウェアラブルファッションのデザイン服。おなかのところに赤く光るラインが走る

 現在、実用であり、かつファッションになっているものとして、携帯電話のストラップがある。実際、会場から「携帯のストラップには、ファッションと機能(ファンクション)のせめぎ合いを感じる」という声が出ていた。LEDファッションは、言わば“光る携帯ストラップ”の衣装版。最も認知されやすいウェアラブルのファッションと言えるかもしれない。

 大江氏は、今後の展開として、光ファイバーを編み込んだ布を使ったウェアラブルファッションを構想しているという。

 一方、どちらかといえば、最新テクノロジーを積極的に取り入れ、“ウェアラブルをファッショナブルに着こなす”というコンセプトを実現していたのが、Cube-f代表である曽根美知エ氏のデザインだ。同氏のデザインは、いかにもウェアラブルという感じで、いろいろな機器が身体のまわりを外骨格のように覆っている。

 ウェアラブルとしての実用度もより高くなっており、実際、モデルの一人も本当に24時間使っている、という話だった。


Cube-f代表の曽根美知エ氏のウェアラブルファッション。腕に有機ELのディスプレイが埋め込まれている。もちろんこのディスプレイは、着ている本人から見えるようになっているので、他人には逆さに見える


曽根氏のウェアラブルファッションの一例。双眼鏡型のウェアラブルディスプレイ

 こうしたアプローチの違いで、1つの争点となるのは、「ファッション」か「ファンクション(機能)」か、ということだろう。

 司会を務めた東京海上研究所の石井威望理事長は、この点について、ファッションとしてのコンピュータ機器という観点からAIBOに言及。「AIBOは楽しい。認識が十分にうまくいっていないところが、逆に非言語コミュニケーションを刺激します。これと同じように、ファッションには多様な広がりがある」と指摘した。

 ファンクション一辺倒の現状でコンピュータを(ウェアラブルで)持ち歩くには、「カチカチ山になるしかない」(同氏)が、ファッションとしていくことで、それを変えられるというわけだ。しかし、その半面、「ファッション性に寄りすぎると機能が機能しない」とも指摘。「ファンクションとファッションの割合は5:5」がいいというのが、同氏の出した答えだった。

 一方、ファンクション、つまりテクノロジー側の人間として登場したのは、関西学院大学の中津良平教授。「ウェアラブルファッションを3年研究している」という同教授によれば、「アートでもテクノロジーが融合し始めているが、技術者の側から見ると、つい最先端のテクノロジーを入れたくなってしまう」とか。だが、中津教授が打ち明けるところでは、最新技術を取り入れたウェアラブルのデザインは、それほどうまくは進んでいないそうだ。

 「ファッションを意識するのであれば、そう(最先端のもの)でなくてもいいんじゃないか。もう少しプリミティブなものでよいのではないか」(中津教授)。

ウェアラブルは見慣れるか?

 そもそも今回のウェアラブルの特別トラックでは、ウェアラブルコンピュータを身に着けた「変な人たち」が、会場を大手を振って歩いていた。

 この“服装”というか“装備”は、どう見ても「変」なのだが、ヘンなものというのは、変であればあるほど、あっという間に見慣れてしまうところがある。ファッションというのは、そういうものだからだ(「仮面ライダー555」を最初に見たとき、「なんだ、この“一つ目小僧”は……」と思ったのだが、あっという間に見慣れ、かっこよく感じ始めてしまった。このあたりが怖い)。

 だが、ウェアラブル機器は、まだ見慣れていない人も大勢いるわけで、そういう人にとっては、最初に目にするウェアラブル機器は、やはりまだ、ぎょっとするような非日常的なものになる。着る側にとってキーとなるのは、「人ごみの中に着ていけるかなぁ」というあたりだろう。

 実際、パネル討論終了後、パネリストやモデルたちと、八王子の街中まで移動したのだが、ちょうど都知事選の始まった頃で、夕方の八王子駅前では石原軍団がバスを止め、選挙の応援演説をやっていた。

 もちろん、ここで、HMDのウェアラブルファッションは、相当な注目を浴びてしまった。というか、早い話が、警備員に不審がられ、HMDをつけていた1人は両脇を黒服に取り囲まれて、不審尋問を受ける羽目になってしまったのだ。

 ウェアラブルとHMDは、これからのファッションなんだなぁ、と、つくづく思ってしまったのだった。


ウェアラブルな人たち。この格好で街中をタムロしていたら、やっぱり目立つだろう。前列左から、三菱の試作機を着けた奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 知能情報処理学講座の河野恭之助教授、NTT未来ねっと研究所板生知子氏、大阪大学・塚本昌彦助教授。後列は、試作機を開発した三菱電機ヒューマンライフ部人間計測応用グループ主席研究員の坂口貴司工学博士



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[美崎薫, ITmedia]

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