News | 2003年4月21日 01:27 PM 更新 |
増殖するウェアラブル
アスキーの遠藤諭編集長が司会を務めたパネル討論では、オリンパス光学工業、クアルコムジャパン、島津製作所、ミノルタ、ソニーのHMD開発者が、自ら開発したHMDを装着して参加。その他、ウェアラブル機器を着けた参加者は、合計すると20人以上にのぼった。
総合司会は、阪大の塚本昌彦助教授と、NTT未来ねっと研究所の板生知子氏が、日替わりのウェアラブル衣装で登場していた。
パネル討論では、両方の視野を覆うタイプで立体視をめざすか片方の目だけで見るタイプか、QVGA程度の比較的低解像度・単色でテキスト中心に表示するかSVGA以上のフルカラーで表示するか、現実空間をスルーして見えるようにするか目を覆って見えないようにするか、などのさまざまな観点でそれぞれ違った立場からの意見を聞くことができた。
冒頭で、遠藤氏が、「これまでHMDの開発は必ずしもうまくビジネス展開が進んできたわけではない。HMD開発は血を流す努力が必要!?」として実際に開発しているパネリスト苦労を紹介し、会場からも驚きともため息ともつかない声が上がった。
だが、将来展望がないというわけではない。映画の「マイノリティーレポート」や「JM」、テレビアニメの「ドラゴンボール」など、HMDの認知度は高まってきている。メーカーとしても、これまでうまくいっていないからこれからもだめとは考えておらず、楽観的なところもあるようだ。
新しいソリューション、それは携帯電話!?
オリンパスディスプレイ担当部長の井場陽一氏は、Eye-Trekシリーズのコンセプトを「気軽に・日常的に使用できるパーソナルディスプレイ」と語った。Eye-Trekは両眼タイプの視野を覆うディスプレイで、重さは85グラム。同社のレンズ設計などの技術を使って、72万ピクセルの高解像度を実現しているという。
そして、市場を4種類に分けた上で、コンシューマーのモバイル分野を次の市場と考えているとまとめた。ここでは「どんなものを見せるのか」というソリューションがきわめて重要になるだろう、ということだった。
クアルコムジャパン・ビジネス開発担当部長の草場匡宏氏は、携帯電話などで圧倒的な占有率(CDMA市場の90%以上)を持つ同社の半導体を武器に、次世代携帯電話の外付けディスプレイとしてのHMDを実現する「MDDI」の確立を目指すという。
MDDIは、Mobile Digital Display Interfaceのことで、これが規格化されれば、携帯電話の画面をHMDやプロジェクター、PCなどに接続することも可能になるという。
MDDIは、試作用のチップ回路であるFPGAではすでに実現していて、同社のシェアをもってすれば、次世代の携帯電話のうち、市場ベースでは25%程度(3600万台)がMDDIの潜在的市場になるだろうという。HMDでは、メガネ型のディスプレイのほかに、再生装置が必要になるが、その再生装置が携帯電話で済むようになるというのがMDDIの強みだ。
オリンパスの求めるソリューションと、クアルコムの作り出す携帯電話とのインタフェースというのは、互いに補いあう良好的な関係を作り出せる可能性が高い。
両眼カラーの高解像度? それとも単眼モノクロ低解像度?
島津製作所の中原康博氏は、同社のディスプレイの起源を1986年の航空機用のディスプレイの技術である、と説明した。それから20年弱が経過したが、航空機用、バーチャルリアリティ研究用、作業支援用など、両眼から単眼まで多くの種類のHMDが生まれている。
HMDの種類と実績ではもっとも経験が豊富であり、しかも屋外用として生まれた経緯から、当然ながら明るいところでも見やすくできている。
高画質化にも積極的に取り組んでおり、現在発売中のDADA GLASS2はSVGA(800×600ピクセル)とトップクラスで画素数は144万画素にもなる。重量は80グラムである。会場で中原氏が装着していたのは、次期開発中のDADA GLASS3の試作機。実映像を見ることはできなかったが、DADA GLASS2と比べても二回りくらい小さくなっていた。ただしこれほどの高画質になってくると、やはりそれで「何を見るのか」というソリューションが改めて問われることになる。
続いて登場したミノルタ・画像情報技術センター担当部長の上田裕昭氏は、開発中という27グラム、320×240ピクセルのシースルー型ディスプレイを、いきなりデジタルカメラを通してプロジェクターに表示して、会場の度肝を抜いた。
27グラムというのは、80グラム程度の他社製品に比べて格段に軽く、シースルー型で実際の視野のなかに文字情報が表示されるという感覚は、SF的なデジャビューもあって、理解しやすい。
単色、低解像度ではあるが、その分、身軽で自在に歩き回ることもできる、ということもあって、歩き回りながらアピールするプレゼンテーションは攻めの姿勢で貫かれていた。
ただし、試作機ということもあって、実際に本人以外が身に着けたり、映像を見たりできたわけではなく、会場からの質問には回答もなし。討論後も「今日は店仕舞い」とそそくさと会場を後にしてしまい、取材していたこちらはなんだかキツネにつままれたような気がした。
上田氏によれば、「移動中に実際に見たいものは、文字中心でよく、それならば解像度が低くてもよい」ということであり、これはオリンパス/島津製作所の作り方とは対極にあるといえる。
医学的見地からは安全なHMD
最後に登場したソニー・テクニカルソリューションセンターの元日田融氏は、医学的見地からのHMDについて解説した。同社が発売したGlasstronは、PL法が施行される少し前の1994年に開発されていたもので、訴訟が起こった場合に備えて、十分な安全性を説明できるデータの準備が必要だったとのこと。
Glasstronは屋内で使用する両眼タイプのディスプレイである。
半年の反復使用の結果、HMDは臨床上の問題は起こさないと考えられるが、不適切な使い方をしたり、融像能力の弱い一部の使用者には、頭痛、眼精疲労などが起こる可能性があるという。
ここからが、パネルセッションとしては楽しめるところだと思ったのだが、単眼か両眼か、屋内か屋外か、カラーかモノクロか、テキストか映像かというようなところには議論は進まず、ややちぐはぐな感じで話は終わってしまった。
ただし、それぞれの最新機種を並べて比較し、開発者自らその長所をアピールしてくれる機会というのは、めったにないもので、大変興味深かった。並べてみれば、大きいか小さいかは一目瞭然である。
大きさとしては、研究用として登場したいくつかは、遠目に見るだけしか許されなかったのだが、かなり小さくなってきており、「大きめのサングラスサイズ」というのは、実現不能というわけでもない感じがしてきた。
ただし、実際に商品化するとなれば、ワイヤー、電源の重さ、動作時間などの周辺部分を含めたところまで含めて問題となるのであり、一朝一夕に究極のHMDができるわけではないし、単にディスプレイだけを作れば売れる、というものではない。可能性の感じられる基礎技術としては、有機EL、白色LEDなどがあり、それらが組み合わせられることによって、やがてかけていることを感じさせないくらいの小さなHMDが出てくることになるだろう。
また、HMD自体はディスプレイなのであって、それに表示するためのプレーヤーが必要になる。それが携帯電話なのかあるいは別の機器なのか……というあたりまでも含めた、業界全体の盛り上がりが必要になってくるだろう。
パネル討論には参加しなかったが、かなり技術的な進歩のある最新のウェアラブルディスプレイ「SCOPO」を開発したのが三菱電機である。
開発者であるヒューマンライフ部人間計測応用グループ主席研究員の坂口貴司工学博士は、自らウェアラブルディスプレイを常時身に付けることを宣言。3日間の会期中は移動中も含めてHMDをアピールして回っていた。
これまで、日本で常時ウェアラブルHMDを実践していたのは、知られている限りでは阪大の塚本助教授ただ一人だったが、今後は、少なくとも“倍増”したわけだ。
[美崎薫, ITmedia]
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