News 2002年12月17日 01:55 AM 更新

未来コンピュータの研究で、着実に成果を上げる「WISS」(1/4)

WISSは日本ソフトウェア科学会の「インタラクティブシステムとソフトウェア研究会」が催すワークショップでありながら、論文なしのデモ展示にも力を入れるなど、インタラクティブ性にも力を入れている。独創性と現実性を両立させているのも、その特徴だ。まずは、WISSのユニークな運営方法や全体の方向を紹介しよう

 日本ソフトウェア科学会の「インタラクティブシステムとソフトウェア(ISS)研究会」は、1993年から、毎年冬にワークショップ(WISS:うぃす)を開催している。インタラクティブシステム系としては、日本では最も挑戦的かつ実践的な学会でありながら、高い実績を上げており、それでいてワークショップということで、論文なしのデモ展示にも力を入れている。インタラクティブ性と高い研究の“いいとこ取り”を目指しているのが、このWISSである。

 10周年を迎えた2002年末のワークショップは、12月4−6日までの3日間、北海道・函館から車で1時間ほどの距離にある大沼国定公園にほど近い「グリーンピア大沼」で行われた。参加者は、研究者、デザイナーなど110人以上。盛況であった。


大阪大学の塚本昌彦先生。WISS2001では運営委員長だった。ウェアラブルPCの第一人者なのは、「見ればわかる」。実は、物腰の柔らかな人柄で魅力的な方である。VAIO Uを愛用する

インタラクティブシステムの背景

 2002年。コンピュータは完全に日常的な道具になった。パーソナルコンピュータだけでなく、コンピュータの技術を応用した携帯電話やデジタルカメラ、ハードディスクやDVDレコーダーなども続々と使われるようになっている。テレビとPCの融合も完全に実用段階に入った。これらを総称し、次世代のコンピューティングを示す言葉として、「ユビキタスコンピューティング」という言葉が使われるようになってきた。

 「ユビキタス」とは、ubiquitousと綴り、「遍在する」とか、「どこにでもある」という意味のラテン語である。ユビキタスコンピューティングとは、つまり、どこにでもコンピュータのある状態を示す言葉だ。

 どこにでも、無数のコンピュータが存在するようになると、1人で複数のコンピュータを使うことが自然になってくる。このときに重要なのが、「コンピュータというもの」をいかに簡単に使えるか、つまり「コンピュータと人間とのインタフェースがどうなっているか」である。

 インタラクティブシステムとは、コンピュータと人間とをとりもつ環境、いわゆるHMI(Human Machine Interface)、コンピュータの「操作性」をテーマとする研究である。このインタラクティブシステムは、コンピュータを使うシーンが増えれば増えるほど、重要度が増してくる。ユビキタス時代には、CPUやネットワーク性能といったシステム自体の性能よりも、インタラクティブシステムの比重は高まっているといってもよい。すでに、コンピュータのパワーは十分な速さを実現しており、本体の性能を向上するよりも、エンドユーザーの使い勝手をアップすることが求められているのである。

 2002年現在の技術水準の全体的な流れを確認しておこう。

 パーソナルコンピュータのデスクトップを見ればわかるように、コンピュータの操作体系はGUI(+QWERTYキーボード+マウス)でだいたい決まってきた。WindowsもMacintoshもLinuxも、GUIという点ではさほど違わない操作感を実現するようになった。

 しかし、ユビキタス時代に身の回りにあるコンピュータ機器のうち、大半は、いわゆるパーソナルコンピュータ以外のコンピュータで占められる。携帯電話、電車の自動改札、デジタルカメラなどは、いわゆるコンピュータの形はしていないが、実際にはコンピュータそのもの。

 こうした、「ユビキタスコンピュータ」の比重が高まるに連れて、GUI一辺倒でない新しいインタフェースが求められている状態にある。GUI一辺倒でない理由は、ユビキタスコンピュータを実現する機器の大半は、机の前に座って操作するような機器ではない、ということが大きな理由である。

 例えば、携帯電話では入力や操作にテンキーを使う。最初に携帯電話でテンキーを使ったユーザーは、コンピュータの入力にさえテンキーを求めるという話もあるくらいだ。テンキー入力では日本語の文章入力は困難であるため、POBoxに代表される予測入力が使われるようになっている。このように、ユビキタスコンピュータでは、これまでは予想もしなかった新しい操作が強く求められている。それはGUIではない。

[美崎薫, ITmedia]

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