News 2002年12月17日 01:55 AM 更新

未来コンピュータの研究で、着実に成果を上げる「WISS」(2/4)


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 身の回りにあるコンピュータをどのくらい自然に使えるかどうかは、コンピュータが増えれば、たいへん重要なテーマとなってくる。使いやすいシステムであるかどうかで、コンピュータ作業の効率やミスの度合い、疲労感、快適さなどは、大きく変わる。

 自然でわかりやすく一貫性を保った直感的なインタフェースは、マニュアルがなくても使用でき、ユーザーに不安を与えず、ここちよい操作感を通して快楽や満足感さえ実現することができる。新しい環境には新しい操作体系が必要であり、ユビキタス時代には新しい発想の新しい操作体系が必要なのだ。

五感、視点、実世界……

 WISS2002では、「インターネット」「五感」「例示/予測」「入力」「3次元」「視点」「実世界」のジャンルにわけて、20件の発表と、12件のデモンストレーションが行われた。

 昨年に較べると論文数では若干の減少を見せていて、質の低下を心配する声もあったが、2002年の今回に関して言えば、逆に精鋭の論文が集まり、発表にも力が入っていた。10年目の記念すべきワークショップであったが、全体に若い学生や、若い研究者も増え、これまでの常識にとらわれない発想も見られた。WISSがインタラクティブの発展に寄与することを目的としているのだとすれば、この「若返り」は良い傾向だといえるだろう。

 WISSの特徴は、(1)講演主体のカンファレンスではなく泊まり込み形式で行う、(2)インタラクティブ展示(デモンストレーション)を重視している、(3)会場でのネットワークなどが充実しているということにある。

 宿泊形式というのは、一般的な各種ショー、学会などではめずらしく、WISSの大きな特徴となっている。WISSでは3日間の会期中、ほとんど朝から晩まで、精力的な発表が続く。きわめてエネルギッシュなのである。昼だけでなく、夜にも懇親会が企画され、明け方近くまで情報交換が続けられる。

 インタラクティブ展示とはつまり、発表自体が、対話性を重視しているということである。通常の学会では、論文を最重要と位置づけているが、WISSではデモを重視した参加(デモ・セッション)が認められている。

 デモ・セッションでは、実際に動くソフトウェアやハードウェアの試作機が持ち込まれて、展示説明が行われる。動作する機器を持ち込んで展示すればよいという点で、論文が苦手なデザイナーなどでも、比較的簡単に作成した実績を評価してもらうことができる。この間口の広さは、WISSの2番目の特徴だ。

 研究には、失敗がつきものだ。ノーベル賞の会見で先ごろノーベル化学賞を受賞した島津製作所フェローの田中耕一さんが、「失敗してもちゅうちょしないことと、他の人の意見に従わないこと」と、会見で答えたという。

 WISSでも、研究は失敗から生まれくることがあるということで、2002年の新企画として、深夜懇親会のなかで「お蔵入りユーザーインタフェース救済シンポジウム」が行われた。

 こちらはデモ・セッションより、さらに荒削りではあるが、ある意味、さらに斬新な発表が行われた。飛び入り参加もあり、大いに盛り上がった。飛び入りも可、ということは、当然、論文なしでの発表が可能であるということで、発表の敷居をかなり低くしている。それでも興味深い発表はあり、来年は更なる盛り上がりが期待できそうだった。

プレゼンテーションもWISSならでは

 通常の学会発表では、講演者による一方的な講演が行われるわけだが、WISSでは、対話的に講演が行われる。対話的にといっても、会場からヤジがとぶ、というわけではない。ネットワークを使って対話性を実現しているのである。

 WISSでは、発表者だけでなく、参加者のほとんど全員がコンピュータを持参してきており、WISS会期中の3日間だけのために、ネットワークが構築された。会場では、Webサーバ、コミュニケーションサーバなどが動いていて、発表資料の共有、情報の共有などに使われた。

 WISSの際だった特徴がこのネットワークにある。ネットワークが張り巡らされ、掲示板、Wiki、チャットなどが用意されている。インタラクティブというのにぴったりの感じなのである。

 Webでは、2ちゃんねるの隆盛に見るように、コミュニケーションというのがたいへん人気を誇っている。WISSは、コンピュータインタフェースの学会であるから、2ちゃんねるを超えるリアルタイムコミュニケーションの最先端を体験できるのだ。

 会場でチャットする、という手法は、WISS1995ごろから試みられ、現在では完全に定着したWISSの風物詩となっている。

 ただ、掲示板/チャットというのは、しばしば投稿者同士が言い争いを起こすことで知られている。顔を合わせないコミュニケーションでは、隠された人間性が出てくるためだ。特に、匿名の場合にはその傾向が強い。

[美崎薫, ITmedia]

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