第1回 ニュースのバナーが“BL”!?──ケータイポータルのバナーにぼやく:コンテンツ業界の底辺でイマをぼやく
拡大の続くケータイ広告市場。ですが、Yahoo!モバイルやau oneなどの大手ポータルサイトでも、ピクチャーバナーは消費者金融や“BL”の嵐。これじゃいつまでたっても、「ケータイサイトはいかがわしい」ままです……。
読者の皆様はじめまして。私、トミヤマリュウタと申します。皆様が日々読み捨てていらっしゃるサイトの駄文やら、ダウンロードしてくださっている絵文字やらを作って飯の種を稼ぐ、r.c.o. inc.という零細企業の代表を務めております。今日からちょくちょく、ITmedia +D Mobileでぼやかせていただきますので、よろしくお願いいたします。
ちなみに、連載のタイトルを「コンテンツ業界の底辺でイマをぼやく」なんていうものにしてみたわけですが、とりあえず、当社がどれくらい底辺なのかだけ説明しておきましょう。2008年4月現在、設立4年目にして人員は若干4名(+ウサギ1匹)。巨大な通信キャリア様と比べたら天と地……いや、大宇宙と塵ほどの違いです。
実際、打ち合わせや取材などで、宇宙船のようなエントランスの各社様を訪れては、毎回“あわあわ”している次第。当社は雑誌や書籍、さらには映像なんかも作っているので、出版社さんやメーカーさんともお付き合いがありますが、他企業さんと比べても、通信キャリアさんのオフィスは段違いのデカさ&キレイさ……。いやー、底辺感じちゃうわぁというものです。でも、仕事楽しいからイイ。泣かない。ということで本題です。
ケータイサイトっていかがわしいんですなぁ……
当社では、某大手ケータイポータルサイトのコンテンツ制作を請け負っていたりもします。例えばそこで、「ゴールデンウィークデートにぴったりなスポット紹介」なんていう企画をしたとするじゃないですか。あんなとこもいいな、こんなとこもいいなと企画を練ったら、次は各所の広報さんに取材申請や掲載許諾申請を行うことになるんですけど……。これがなかなか一筋縄ではいきません。
世の中の広報さんのすべてが、ケータイサイトに理解があるわけじゃないんです。「ウチはケータイには載せません」なんて感じで断られること、結構あります。また、よくあるのが「対応できる部署がない」というケース。「テレビ媒体の部署、雑誌媒体の部署、PCサイトの部署はコチラですが……、ケータイサイトですか? ちょっと分かるものがいないので……」なんていう感じで、たらい回しにされてしまうことも多々あります。
ケータイ業界の皆さんにはぜひ肝に銘じてもらいたいんですけど……、世の中的にはケータイサイトって、まだまだ全然「いかがわしいもの」らしいですよ! とくに、“良識ある大人”の方々には。
でもまぁ、そりゃそうですよね。テレビをつければ、「学校裏サイト」だの「集団自殺サイト」だのと、なんだか世の中の悪巧みのすべてがケータイサイトで行われておるかのようなニュースが飛び交っていますから。「いやいやそんなのごくごく一部の一般サイトで、ちゃんとした会社がやってるポータルサイトや公式サイトは全然いかがわしくないんですよ!」なんて説明したって、テレビと雑誌と新聞が好きな“良識ある大人”は、そんな話に耳を傾けちゃくれません。「ポータルって何?」ってなもんです。いやホントですよ。よく説明させられますもん、「ポータルって何よ」と。
それに、そもそも「ちゃんとした会社がやってるポータルサイトはいかがわしくない」なんて言えるのは、ケータイサイト慣れした人だけだとも思うんです。ちょっとケータイで各ポータルサイトをのぞいてみてください。
Yahoo!でもいいですし、au oneでもいいですし、モバゲータウンでも結構です。バナーが貼られていると思いますが、どんなものが貼られていますか? 「BL(ボーイズラブ)やTL(ティーンズラブ)の電子コミック」、もしくは「消費者金融」だったりしません? リニューアルされたドコモのiメニューでも、週刊iガイドではそこそこBLやTLが出るんじゃないかと思います。
BLバナーの嵐で未成年フィルタリングもないですよね……
ここで話を戻して、当社が取材申請をした“良識ある大人”である、広報さんの目線になって考えてみましょう。
「ふんふん、なるほど。ゴールデンウィークの企画ね。それはいいんじゃないかしら。でもケータイサイトなんて見たことないから分からないわ。ちょっと覗いて見ようかしら……。ま! まぁ! なにこのハレンチなイラスト(BLのバナー)は! こんな、半裸で顔を赤らめた男の子のイラストの下で、ウチのお店・商品etc.を紹介されるなんて、ダメよ! 絶対にダメ! 取材なんて却下! 却下しますわ!」
……と、こんなふうになっても仕方ないというか、当然だわなと思う自分がいます。
自分も、つい先日チベット騒乱関連のニュースをYahoo!モバイルでチェックしていたところ、「ダライ・ラマ14世、成田立ち寄り」というニュースのすぐ上に、「ドSゲームはこちら!」という、にしおかすみこが“アーッ!”してるモバゲータウンのバナーがあって軽く吹きました。
これはYahoo!さんやDeNAさんが悪いって話じゃないんです。広告媒体にはよくある話で。テレビだってそうじゃないですか。テレビだったら、「ダライ・ラマ14世、成田立ち寄り」のニュースの後に、コマーシャルで「ドSゲームはこちら!」したって、あんまり気になりません。
ですが、ちょっと想像してみましょう。もしテレビで深刻なニュースを読み上げているとき、画面の右下に別ウィンドウが立ち上がって、ずーっと“アーッ!”してるにしおかすみこが映っていたとしたら……。みなさんどう思いますか?
ケータイサイトのピクチャーバナー、とくにページのトップに位置するバナーは、この状態に近い印象を、ユーザーに与えていると思うんです。小さなケータイの画面、その何分の1かを占める画像が、「BL」やら「消費者金融」やら「アーッ!」やらなわけですから、そのインパクトは絶大です。下手すると、そのページにある画像は、そのバナーだけだったりするので、良くも悪くも目を引くわけです。
小さなケータイの画面で、「露出を絶対確保」しなければならないとなれば、画面のトップにバナーを置くのは当然なんです。なんですけど、これってどうなんでしょう? 「ケータイサイトってそんなもんだよな」と見慣れている人は、興味なければスルーできますけど、そうでない人にはスルーしづらいと思うんですよね、トップバナーって。
そう考えると、「け、けしからん! 未成年には絶対見せられん!」となっても仕方ないんじゃなかろうかと。そのうち「ボタンを押したら見たくもないBLのイラストが出てきた! セクハラよ!」とか言われるんじゃないか……、なんて、なんだか勝手に心配してしまいます。
ちょっと、横道にそれますが、2007年末からいろいろと動きのある未成年向けのコンテンツフィルタリング問題。最初に話を聞いたときは、「んな横暴な!」とも思いましたけど、このポータルサイトに吹き荒れる“BLタイフーン”を前にすると、「やっぱりケータイっていかがわしいよね……」と思う自分がいます。あと、10代女子向けのショッピングサイトで、消費者金融のバナーが乱れ飛んでいるの見ても、同じことを思いますね。自分が親なら、絶対ケータイ与えないと思いますもん。
助けて! 行動ターゲティング広告さん!
好意的に考えると、「ケータイの広告って、それくらい影響力あるんだよね」ともいえるわけです。ですが、このままでは、ケータイバナー界でナショナルクライアント様のご尊顔を拝む機会は減る一方でしょう。それでいいのかケータイバナー! と思うわけです。いや、まぁこんなコンテンツ業界の底辺からそんなこと叫んでも仕方ないんですけどね。「そのバナー収入でお前んとこの制作料出てるんだろうが!」と凄まれれば、そのとおりでございますから。
でもですよ。広告収入と同じく、ARPU向上だって通信キャリアさんには大事な命題なわけじゃないですか。いや、むしろそっちのほうが大事なくらいですよね。中高年ユーザーのARPUが伸び悩んでいるという話もよく聞きますけど、もしも“良識ある大人”がケータイサイトをあまり見ない理由の1つが、ここであげつらったようなことにあるとしたら……。現状のバナーって、実はARPU向上の阻害要因になっているのかも? とも思ったりするんです。
ちなみに、ここまで「BLバナーはちょっと……」的な話をさんざん書いてきましたけど、別段、BL自体のバッシングが目的じゃないんですよ、腐女子の皆さん! 自分、某執事喫茶にいったこともありますし、なんだったらK-Booksだって覗いちゃう側の人間ですから。ただ、ケータイというメディアの特性上、広告には十分な配慮が必要という話でございまして……。その配慮を可能とする救世主と目されているのが、ユーザーの行動・閲覧履歴に基づいて広告を表示する、「行動ターゲティング広告」なわけです。
ここのところ、ドコモさんでもKDDIさんでも、行動ターゲティング広告関連の動きが活発に見られます。業界の一員としても、1ユーザーとしても、早くたくさんの広告が入り、利用状況、興味に合わせた広告が表示されるようになってほしいなと思う次第です。そうなったとき、ケータイはようやく、便利な情報収集ツールになれるんじゃないかなぁと期待しております。広告が価値ある情報になるんだから、こりゃ一大事ですよ。それで、業界が潤って、なんじゃらかんじゃらするウチに、我が社にもお金が回ってきたりしたらいいなぁ……なんて思っている今日この頃なのであります。
プロフィール:トミヤマリュウタ
ときにライター、ときにデザイナー、ときにプランナー。某携帯電話関連会社にて某着メロ交換サイトを企画するなどといった若気のいたりを経て、2001年に独立。2004年には有限会社r.c.o.を設立。書籍、雑誌、ウェブの執筆・デザインなど、各種制作業務を中心に活動。2006年あたりから始まったケータイ業界再編の波にもまれていうるちに、近年では大手携帯電話会社のコンテンツ企画を手がけることになっていたりと、なんだか不思議な毎日。
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