業種や規模を問わず、最適な法人ソリューションを提供する――KDDI 湯浅氏:ワイヤレスジャパン2008 キーパーソンインタビュー(2/2 ページ)
携帯電話の契約数が1億を突破する中、各キャリアがシェア獲得の切り札と見るのが法人市場だ。固定網と移動網を1社で持つKDDIは、法人市場のシェア獲得に向けてどんな施策で攻めるのか。FMC事業で本部長を務める湯浅英雄氏に聞いた。
ITmedia 法人利用で顕著な伸びを見せている業種はありますか。
湯浅氏 全国でいえば役所関係でしょうか。災害時の緊急の連絡手段などですね。あとは派遣業界。多いところは100万人の登録者がいて、1日に何万人も派遣していますから、バラバラに派遣している人たちの勤怠管理をケータイで行います。
我々のケータイはGPSを搭載しているので、精度が高い。派遣された勤務先に到着したら、ケータイで出勤情報を送信するだけでよく、さらにGPSで時間と場所が分かるのでごまかせない。派遣会社も、その場で一気に計算ができて、その日のうちの人件費が割り出せる。派遣社員たちがどれくらい稼働しているかを把握するのは、適正な財務管理を行う上で重要であり、こうした使い方をすることで業務を効率化しているわけです。
新規参入キャリアへの対抗策は
ITmedia 最近の法人市場といえば、新規キャリアの参入で、料金競争が激化しているように見えます。KDDIはこれに、どんな施策で対抗するのでしょうか。
湯浅氏 コンシューマー需要が伸び悩む中で、法人需要を伸ばすことが重要になっていますが、これまでは「そこで料金競争には行きたくない」と思ってきました。実際、中堅以上の企業は、料金よりもセキュリティや、業務の効率化にいかに役立つかを重視しており、「安けりゃいい」というのはほとんどありません。コンペでも負けていませんし、ここでは他キャリアに負けていないと思っています。
ただ、10人以下の小規模企業や個人事業主、商店クラスになると、用途は“電話とメール”が中心になります。この企業の層にソリューションを提案してもなかなか受け入れられないのが現状です。
そこで、我々は2006年、「ビジネスメールアドレス」を提案しました。ezweb.ne.jpの前にPCのサブドメインをそのまま使えるサービスです。そうすると名刺のメールアドレスの部分がとてもきれいに見える。また「Business EZ」として、無料でスケジュール管理や日報を出せるソリューションを提供しています。メールアドレスはすごい勢いで伸びており、「名刺にも書ける」ということで、評価をいただいています。
ITmedia 音声通話だけでなく、パケット通信も定額制が当たり前になってきました。データ通信カードの市場をどのように見ていますか。
湯浅氏 とても大きい市場になっています。その利用については、(ケータイとPCの間を埋める)スマートフォンで、両方の用途を1台でこなすというよりも、“データを送受信するならPC、簡単なASP的なものならケータイ”というのが、まだ一般的かと思います
ITmedia データ通信カードには、他社も力を入れていますが、どこが競争軸になるとお考えですか。
湯浅氏 やはりエリアがポイントになるでしょう。そして今後は、スピード競争も加わってくる。2009年には関連会社(UQコミュニケーションズ)がモバイルWiMAXを開始するので、MVNOとして回線を借り受け、無線LANとの併用で提供することも考えられます。
ITmedia KDDIは唯一、Windows Mobileをベースとしたスマートフォンを展開していないキャリアですが、このあたりの取り組みについて教えてください。
湯浅氏 これまでは、現実的にケータイでソリューションを作ることで、お客さんのニーズに応えてきましたが、お客さんからは「スマートフォンでできないの」という声も挙がり始めています。これについては、そろそろ(投入の)時期かなと思っており、検討を進めています。
ITmedia KDDIはマイクロソフトと法人向けSaaS(Software as a Service)で包括提携していますが、進捗状況はいかがでしょう。
湯浅 いま、我々とパートナーになるベンダーを集めている最中です。スタートとしては給与計算や交通費計算など、わりと中堅企業を対象とした、とっかかりやすいコンテンツを用意していくつもりです。お客さんにとって使いやすいものを提供するために、じっくりと時間をかけて作り込んでいます。
導入前から導入後まで――きめ細かいサービスが信頼につながる
ITmedia 他社は、小規模企業への営業に長けています。KDDIとしては、そのあたりの展開はどのようにお考えなのでしょうか。
湯浅氏 他社の場合、ショップに来てくれる法人のお客さんが多く、また特定の代理店による訪問販売が活発です。我々はこの分野が手つかずだったので、現在、再構築しているところで、ショップにも、法人コーナーを作るなどの環境作りを行っています。
また、小規模な法人を得意とするチャネルがあるので、そのあたりの投げかけと立ち上げをやっているところです。文具の販売会社など多くの顧客を抱え、お客さんのところに商品を届けるなどの接点を持っている業態の会社はたくさんあります。細かい施策を積み重ねてその層に響かせなければならないので、最終的にはマンパワーが重要になるでしょう。そのあたりは、工夫しながらブランドイメージを作っていきたいです。
ITmedia 法人向けには導入前から導入後に至るまで、きめ細かい対応が重要になります。その点はどんな工夫をしていますか。
湯浅氏 バラバラだった電話番号を管理しやすいように、連番でお渡しするという提案をしています。これは、内線電話のように管理しやすいということで好評です。
また企業の管理者が、何千台もある端末にアプリをセッティングするのは手間がかかるので、東京・平和島に「プリセットセンター」という施設を設け、端末に所有者の名前を書いたシールを貼り、必要なアプリをインストールして出荷しています。アフターだけでなく、受注した際のケアも重要なのです。
固定網と移動網を1社で持つ強みを生かしたい
ITmedia 2008年、KDDIは法人市場のシェア拡大に向けてどのような目標を持っていますか。
湯浅氏 法人市場では、各業界・業種ごとにソリューションが全く違います。KDDIでは、それぞれの業種に最適なソリューションを開発するためのチームを編成しています。
そして何度も何度も営業先を訪問します。訪問のたびにさまざまな角度からサービスを紹介することで、例えば個人情報の漏洩問題が社会的に注目されたときには、我々の「ビジネス便利パック」で提供している遠隔消去を思い出しもらえたりするわけです。そうすると、これが業界のデファクトスタンダードとして広まることにつながります。
こうした意味でも、ソリューションというのは「コストではない」と考えており、“投資していただければ絶対に損はさせない”というのが、私の決めぜりふです。
法人市場では、各企業の規模ごとに商品やサービス、料金、チャネルの4つが必要です。これらがうまく機能したときにブランドイメージが構築される。大企業向けのソリューションと小規模企業向けのサービスとはまったく異なるので、それぞれの規模に最適なサービスを作り上げ、しっかり足場を築いてトップを狙っていきたいと思っています。
また、最近ではFMCが注目されており、(1社で移動網も固定網も持つ)KDDIがその強みを生かして具体的なサービスをつくりあげていきたいですね。「FMC=KDDIの事業本部の名前」と思ってもらえるぐらいのブランドイメージにしていこうと意気込んでいます。
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