ワンセグ利用のデジタルサイネージで、広告はこう変わる――富士通の村田氏:mobidec 2008
ポスターやチラシに変わるメディアとして注目を集めるデジタルサイネージ。このディスプレイにワンセグを使おうというのが富士通の「スポットキャスト」だ。このシステムの導入効果を同社の村田氏が説明した。
インターネットの高速化や映像技術の進化、そしてデジタル機器の高機能化が生んだ新たなメディアとして「デジタルサイネージ」(電子広告)が注目を集めている。
デジタルサイネージは、紙媒体のポスターやチラシの代わりに、店頭などに置かれたディスプレイやプロジェクターを使って、商品の案内や宣伝を行うメディア。場所や時間帯を限定したテレビCMのようなものと考ると分かりやすいだろう。
デジタルサイネージの利点は、表示内容を自由に変えられる点にある。例えば一般的なポスターでは、スペースの問題から表示内容が限定され、アピールポイントも限られてしまうが、デジタルサイネージを使えば情報量を大幅に増やせるとともに、動きのある映像を使った視覚的な訴求や、音声によるアピールも可能になる。また、表示する映像をインターネットや各種ストレージを介して随時更新することで、より消費者のニーズに合ったリアルタイムな情報提供や広告展開が可能になる。
例えばコンビニエンスストアなどでは、POSデータの集計結果から得られた売れ筋商品のプロモーションを、日替わりで表示するような展開も実現できる。すでに多くのコンビニエンスストアのレジには、売れ筋商品や予約商品の宣伝などを表示するディスプレイが付いており、デジタルサイネージが身近な存在になっていることが分かる。
10月28日に開催された「mobidec 2008」でセミナーを行った富士通 サービスビジネス本部 ネットワークビジネス推進統括部 ネットワークサービス推進部 プロジェクト課長の村田亮氏が、ワンセグ電波を利用して安価に構築できる同社のデジタルサイネージ配信システムを紹介。今や多くのケータイに搭載されているワンセグを利用したデジタルサイネージの導入効果を説明した。
“その場所のニーズ”を生かした電子広告が可能に
富士通が開発したワンセグ電波を利用したデジタルサイネージシステムは「スポットキャスト」という。村田氏は従来の動画配信技術を用いたデジタルサイネージに比べ、システム構築が容易である点や、データ放送を活用したショップサイトへの誘導に対応する点などがメリットだと説明する。
本来、ワンセグなどの電波を利用した映像配信は、電波法や放送法などにより厳しく規制されている。しかしスポットキャストの場合は、電波の発信装置から半径約2メートルの範囲のみで受信できる微弱電波(エリア限定ワンセグ)を使うため、法規制の対象にならない。またワンセグ電波を用いることで、来店者のケータイに配信できることから、店舗側でディスプレイを用意する必要がなく、導入コストを軽減できるという。
また村田氏は「ケータイで受信できるスポットキャストでは、データ放送を活用した新たなデジタルサイネージ戦略も生み出せる。ワンセグ放送は、映像に加えてテキストやURLリンクによる情報を提供でき、広告を見た利用者をそのままケータイ向けのショッピングサイトへ誘導したり、別の広告サイトに誘導して商品の詳細な情報を提供するといったことも可能になる」と導入のメリットをアピールした。
同氏はユーザー側のメリットにも触れ、「ワンセグの録画機能を使えば、ユーザーは映像を録画することでいつでもその情報を再確認できる。データ放送の情報も合わせて記録されるので、いつでもショップサイトへのアクセスが可能になる」と説明。また、映像の受信にパケット代などがかからないことから、ユーザーの負担も軽減できると話す。
課題は、“スポットキャストならでは”のコンテンツ開発
個人をターゲットとするプロモーションは、ここ数年のトレンドといわれており、スポットキャストはその中でもユニークな試みといえる。ケータイという最もパーソナルな情報端末を活用することで、ユーザーに対してダイレクトに情報を発信し、そこから商品の購入にもつなげられる。例えば映画館やライブ会場などでスポットキャストを活用すれば、チケットの予約や関連商品の販売なども可能になるだろう。
今後の課題は、スポットキャストをいかに消費者に受信してもらうかという点にある。店頭のディスプレイ表示と同じ内容にとどまるのでは、これまでのデジタルサイネージで十分カバーでき、スポットキャストのメリットであるワンセグという送信媒体を生かせない。ユーザー自らが能動的にケータイを開き、ワンセグで情報を視聴する気になるコンテンツや仕組み作りが、スポットキャストの課題といえるだろう。
“個人の時代”に合わせた広告メディアのデジタルサイネージ・スポットキャストは、景気後退で消費が冷え込む中、どこまで宣伝効果を生み出せるのか。普及のためには、既存の映像広告の概念にとらわれない、新たな発想が必要になりそうだ。
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