第21回 美しい文字で日本語空間を再発見する──「大辞林」:松村太郎のiPhone生活:レファレンス
紙の辞書をめくるのと似た感覚で、iPhone/iPod touch上で日本語の空間を自在に飛び回ることができるアプリ、それが物書堂の「大辞林」だ。三省堂の「スーパー大辞林3.0」をベースにした辞典だが、iPhoneアプリならではの楽しさを持った、“わくわくする”辞典だ。
今回と次回は続けて国語辞典をご紹介したい。まずは「大辞林」。2500円でApp Storeからダウンロードできる。同じジャンルの製品として、小学館からは「デジタル大辞泉 2009i」も出ている。ブランドや好みもあると思うので、ぜひお好きな方を1本入手してみていただきたい。
さて、今回ご紹介する大辞林は、辞書アプリを多数リリースしている物書堂の肝いりのアプリである。このアプリは、Macでおなじみの美しい日本語フォント、ヒラギノ明朝体を内蔵しており、辞書の項目を縦書きで、より日本語の辞書らしく閲覧できる点が魅力だ。もちろんピンチイン/ピンチアウトで拡大縮小も可能で、ルーペいらずで大きな文字の日本語検索ができる。
初期設定では黒い背景に白い明朝体が表示されるクールなデザインになっており、いくら拡大しても文字は鋭く美しい輪郭を保ち続ける。もはや紙の辞書を手に取る必要を感じなくなるほどで、文字のビューワーとしてのiPhoneのポテンシャルを強く感じられる1本だ。
検索画面でも、文字入力をするに従って、インクリメンタルサーチが働き、候補が縦書きのリストとして絞り込まれていく。変換候補を決定しなくてもいい点は使いやすい。候補を選ぶと、紙が裏返るようなエフェクトで辞書の項目へと遷移する。紙ではないのだが、長らく紙で触れてきた辞書の意匠を、縦書きとともに残していることに気付く瞬間である。
インデックスもよくできている。「すべて」は収録されている言葉すべてを、同じサイズの板の上に書き込んで、それを隙間なく敷き詰めた平面に表示する。そして指ではじくと、その言葉の平面の上を一気に移動していくことができるのだ。
紙の辞書で言うところの、ページをぱらぱらと一気にめくっていく感覚だろうか。所々の言葉が目に入ってきて、またどこかへ流れていく。むやみに日本語の空間を思い切りはじいて旅をしたくなってきたら、国語辞典との新しい日常が始まる。インデックスはすべてのほかに、50音による絞り込みや季語、人名なども用意されており、目的なく辞書を開くときでも好奇心が膨らむのではないだろうか。
大辞林は三省堂の辞書だが、このビューワーを作ったのは物書堂。辞書、辞典のアプリを多数送り出しているが、大辞林はほかの国語辞書とは一味違う異彩を放つアプリになっている。2008年9月に行われた「第4回 DEMOsa」でこのアプリを披露したときの、物書堂 代表取締役 廣瀬則仁氏のコメントをご紹介しよう。
物書堂は、エルゴソフトからスピンアウトした会社。2008年7月11日の、iPhone 3G発売のタイミングで「ウィズダム英和・和英辞典」を発売した。2冊で19万項目、重さ1.8キロにもなる辞書をiPod touchなら100グラム程度、iPhone 3Gでも133グラムに収めてしまうことができる。その後「模範六法 2008 平成20年版」「プチ・ロワイヤル仏和・和仏辞典」「プチ・ロワイヤル仏和辞典」などのアプリを送り出してきた。そして5本目のアプリが、国語+百科事典「大辞林」である。
「3キロの辞典を100グラムに収め、大辞林を楽しんでもらうためのアプリです。縦書きで、言葉のスクロールができ、新しい言葉と出会う瞬間を作るべく、気軽に開いてもらえればと思っています。自分で作っていて面白いと思うのは、(日本語には)知らない言葉だらけということです。動きもなめらかで、日本語を再発見してもらえるのではないでしょうか」(廣瀬氏)
まさに廣瀬氏の言うとおり、大辞林は日本語の再発見の場だ。しかも明朝体の美しい文字でそれが楽しめるとあって、紙の辞書にはもはや戻れなくなってしまうだろう。
プロフィール:松村太郎
東京、渋谷に生まれ、現在も東京で生活をしているジャーナル・コラムニスト、クリエイティブ・プランナー、DJ(クラブ、MC)。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。1997年頃より、コンピュータがある生活、ネットワーク、メディアなどを含む情報技術に興味を持つ。これらを研究するため、慶應義塾大学環境情報学部卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。大学・大学院時代から通じて、小檜山賢二研究室にて、ライフスタイルとパーソナルメディア(ウェブ/モバイル)の関係性について追求している。
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