ケータイメールは死ぬのか:神尾寿の時事日想(1/3 ページ)
かつて「メアド教えて」と言われたら、教えるのはiモードに代表されるケータイメールだった。しかし今や携帯電話メッセージの主役はLINEに取って代わられている。2013年の1月、ある象徴的な出来事があったのだ。
今から10年前、「メアド教えて」といったら、ドコモのiモードやauのezwebといった携帯電話会社(キャリア)のメールアドレスを尋ねることだった。これら通信キャリアが提供するメールサービス、キャリアメールはケータイメールとも呼ばれ、“ケータイ”の普及とともに急速に広がった。日本ではPCよりも先にケータイが1人1台のネット端末になったことや、海外に比べてショートメッセージサービス(SMS)の使い勝手が悪かったこともあり、キャリアメールは人々の生活に欠かせないコミュニケーションインフラになったのだ。
そのキャリアメールが、衰退し、死につつある。
若年層を中心にキャリアメールの利用頻度は下がりつつあり、パーソナルコミュニケーションツールの「王座」から追い落とされかけている。キャリアメールの存在感がなくなりつつあるのだ。
「あけおめメール」はどこへ行った?
「わざわざメールサーバーを増強したのに、肝心のトラフィック(通信利用量)自体が昨年より減ってしまった」
2013年の年始めの話だ。ある大手通信キャリアの幹部が、そう漏らした。その会社では2012年にスマートフォン向けのキャリアメールサービスでシステム障害を起こしてしまい、毎年、元旦に起こる「あけおめメール」による輻輳 (ふくそう、設備の混雑により、つながりにくい状態になること)に並々ならぬ決意で備えていたのだ。
しかし結果は、"肩すかし"だった。
確かに年明け早々、通信インフラの利用量は例年どおり急増した。だが、キャリアメールの利用は前年よりもかなり少なく、メール設備の負荷は想定を大幅に下回った。そのおかげで「うちのメールの輻輳や遅延はほとんどなかった」と、その大手キャリア幹部は苦笑混じりに話す。
あけおめメールはどこにいったのか? その答えは、「LINE」や「Twitter」、「Facebook」など新興のメッセンジャーサービスやSNSにある。これら新たなコミュニケーションサービスに、「あけましておめでとう!」と新しい年が明けてすぐに送る“あけおめメッセージ”が流れ、半面、キャリアメールの利用が著しく減ったのだ。
その一方で、ユニークな変化も見られたという。「年明け早々のメールトラフィックは減少したのだが、実は(夜明け後の)元日の午前中の利用は減っていない。キャリアメールの位置づけが変わってきたのかもしれない」(大手キャリア幹部)
深夜0時の年明け早々の挨拶需要は、LINEや各種SNSに奪われてしまった。その半面、キャリアメールは年賀状っぽく使われたというのだ。これはキャリアメールが、リアルタイムでパーソナルなコミュニケーションサービスの座を奪われ、インターネットメールのような“普通のメール”という位置づけになってきていることの証左と言えるだろう。
関連記事
Biz.ID Weekly Top10:あけおめメールならぬ、あけおめLINE
皆さんは2013年、友人への「あけましておめでとう」のあいさつにどの通信手段を使いましたか? 私はここ数年メールを使っていましたが、今年はやはり? あのツールでした。神尾寿のMobile+Views:Androidは「イノベーションを重視したエコシステム」――Google ラーゲリン氏とNTTドコモ 阿佐美氏に聞く(前編)
新しい機能を次々と取り込み、進化を続けるAndroid。その進化のスピードにはいい点も多いが難しい問題もはらむ。GoogleとNTTドコモは、日本のAndroidをどう進化・発展させていくのか。Googleのラーゲリン氏と、NTTドコモの阿佐美氏に話を聞いた。神尾寿の時事日想・特別編:スマートフォン・タブレット端末が駆逐する「ある市場」
最近、アップルストアで買い物をして、“あること”に気づいた人はいないだろうか。店舗にあるべきレジスターがない。バーコードの読み取りや決済を、iPhoneやiPod touchで行っているのだ。神尾寿の時事日想:進む若年層の軽自動車シフト――今こそ「軽自動車」の定義を見直すべきだ
小型車へのダウンサイジングという世界的な傾向は、日本では「軽自動車シフト」という形で進んでいる。軽自動車を選ぶ若い男性が増えている今、軽自動車の排気量規制と安全基準の見直しが必要ではないだろうか。スマートフォン5000万台に耐えうるネットワークを――ドコモが対策を説明
昨年から発生したspモード障害とパケット交換機障害を受けて、ドコモがその対策について説明した。同社は“スマートフォン5000万台にも耐えうる”ネットワーク基盤の高度化を目指す。- 神尾寿の時事日想・バックナンバー
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.