なぜβ版でスタート? 独自プランは? IIJに聞く「eSIM」戦略:MVNOに聞く(1/3 ページ)
国内のネットワークを使った初のeSIMサービスが、IIJから登場した。当初はβ版という位置付けで、料金プランは月額契約が必要な「ライトスタートプラン(eSIMベータ版)」のみ。なぜ、このタイミングでコンシューマー向けサービスの提供にかじを切ったのか?
国内のネットワークを使った初のeSIMサービスが、IIJから登場した。当初はβ版という位置付けで、料金プランは月額契約が必要な「ライトスタートプラン(eSIMベータ版)」のみだが、初期費用や月額料金が安くなるキャンペーンも展開。IIJでは、大手キャリアの段階制プランとeSIMを併用することで、料金を安価に抑えられることを訴求する。
スマートフォンはiPhone XS、XS Max、XRなどのメジャー端末が対応。SIMロックフリーモデルを用意するか、SIMロックを解除すれば、簡単にiPhoneをDSDS(デュアルSIM/デュアルスタンバイ)化することが可能だ。店舗に足を運んだり、SIMカードが郵送されるのを待ったりする必要なく、その場ですぐに契約できるのがeSIMの魅力。IIJのeSIMも、同社のサイトからすぐにプロファイルを発行できる。
利便性が高く、今後の展開にも注目が集まるeSIMだが、技術的、制度的にこのサービスを提供できる会社は限定的だ。IIJも、自社で加入者管理機能を持ち、フルMVNOとなったことでこのサービスを実現できた。ただ、IIJも当初は、eSIMを法人向けサービスと捉えていたようだ。なぜ、このタイミングでコンシューマー向けサービスの提供にかじを切ったのか。また、β版で始めた理由はどこにあるのか。
今後の展開なども含め、IIJでMVNO事業を率いるMVNO事業部長の矢吹重雄氏と、MVNO事業部コンシューマサービス部長の亀井正浩氏に話を聞いた。
電気通信事業法の改正案が見えなかったので「β版」に
―― もともとeSIMを使ったサービスは、法人向けを想定していたとうかがったことがあります。なぜ、IIJmioのサービスとして、コンシューマーに提供することにしたのでしょうか。
矢吹氏 フルMVNOを始めたとき、当初からeSIMはできると思って動いていましたが、あまりコンシューマー向けのことは考えていませんでした。デバイスやモジュールが見当たらなかったからです。(eSIMに近いものとして)ソフトSIMのような形で、何らかのデバイスメーカーと組んで事業計画を描いていました。ところが、iPhoneがXS(XS Max)でeSIMに対応し、出そうと思えば普通に出せてしまうことになりました。ここから、コンシューマー向けのサービス企画がスタートしています。
亀井氏 iOS 12.1のβ版が出たときに、開発者契約の枠内で試し、そこからスタートしています。その前段では「Surface Pro LTE」で動くことは確認していました。
―― そろそろ次のiPhoneの足音も聞こえ始めています。ここまで時間がかかった理由はどこにあるのでしょうか。
矢吹氏 ばかばかしい話かもしれませんが、コンシューマー向けを出すつもりがなかったので、それだけのライセンス料がありませんでした。そもそも、ライセンスがあっても、そのためのサーバを作らなければなりません。インフラと手続きの準備に時間がかかってしまいました。
―― SIMベンダーへの発注も必要になりますからね。
矢吹氏 ざっくりこのぐらいのビジネスにするので、このぐらいのサーバとラインセンスが必要になるというのをどう読むかは、社内でも議論がありました。当然、それがもうかるのかという議論もあり、シナリオを描いていました。
―― 技術的ではなく、ビジネス的な理由が大きかったということですね。
矢吹氏 今回、β版という名称で出しているのが、まさにそれです。IIJmioとしてeSIMをどう出すのかは、内部でかなり議論しました。せっかくの新しい技術なので、今までのIIJmioをガラッと変えるビジネスモデルが作れないか、そのために必要なサービス構成やデータベース構成をどうすべきかという議論をしてきました。結果的には、電気通信事業法の改正が見えてきましたが、ここがはっきりしない限り、何をどうすればいいのかが分かりません。そのため、IIJmioの既存サービスにあまり影響を与えない形で、まずはβ版として出すことにしました。
1年ぐらいかけて「eSIMでよかったね」と言ってもらえるように
―― 電気通信事業法の改正が、どう影響したのかをもう少し詳しく教えてください。
矢吹氏 (eSIMのサービスを企画していた段階で)電気通信事業法改正の範囲が特定できなかったということがあります。乱暴な議論かもしれませんが、全員に無料で1年間という形で配ってしまうアイデアもありましたが、これが電気通信事業法に触れるのかどうかも(当時は)分かりませんでした。一方で、「まずは使いたい」というお声もいただいていたので、使える状態にして提供したのが今のβ版です。
確かにTwitterや、さまざまなメディアを見ると、「よくやった」「大歓迎」という声がありつつも、「料金プランが今までと変わらない」という声や、「メリットが分からない」という声もありました。それについては、「そうですね」と受け止めています。
―― 省令やガイドラインが出そろう10月以降に、β版が取れてプランを拡充するという運びになるのでしょうか。
矢吹氏 10月には消費税が上がり、電気通信事業法の改正も始まるため、まずは(全体の)業務側のシステムにテコ入れをしなければなりません。来春ぐらいに向け、1年ぐらいかけて「eSIMでよかったね」と言っていただけるものにしていきたいと考えています。今のβ版だと、買い方が楽になっているだけなので、シチュエーションに合わせたプランの中から選べるものを作っていければと思います。
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