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日本でも訪れる“5Gの幻滅期” MVNOが果たすべき役割は?モバイルフォーラム2020(1/2 ページ)

テレコムサービス協会MVNO委員会は3月6日、「モバイルフォーラム2020」を開催。企の代表取締役、クロサカタツヤ氏が「MVNOにとっての5Gと2020年」と題して基調講演を行った。海外で展開している5Gの実情や、MVNOとの関連性などについて語った。

 テレコムサービス協会MVNO委員会は3月6日、「モバイルフォーラム2020」を開催した。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大を防ぐ観点から、講演は全てオンライン配信となった。まずは企の代表取締役で、情報通信事業のコンサルティング、国内外の事業開発や政策調査に従事しているクロサカタツヤ氏が「MVNOにとっての5Gと2020年」と題して基調講演を行った。


企 代表取締役のクロサカタツヤ氏。通信、放送分野の経営コンサルティングに従事し、2016年から慶應義塾大学特任准教授、総務省情報通信政策研究所でコンサルティングフェローを務める。近著に「5Gでビジネスはどう変わるのか」

米国と韓国での5Gの実情

 ソフトバンクがMNOの中で先陣を切って5Gの開始をアナウンスした。KDDIも3月中のサービス開始を表明しており、2020年春から日本でも5Gサービスが開始される。プレサービスでさまざまな実証実験が行われ、5Gを見据えたサービスも発表されていて、「5Gはバラ色の世界、夢のような新しい通信のパラダイムが登場するだろうと考えられているが、5Gが始まってすぐに出てくるというわけではないというところに立脚する必要がある」とクロサカ氏は最初にくぎを刺した。

 5Gを「バラ色の世界」と認識させるきっかけの1つとしてクロサカ氏が示したのは、業界団体の「第5世代モバイル推進フォーラム(5GMF)」が発表した5G利用シーンのイメージの図。「最終的にはこういう世界が訪れるだろうとは思う」とクロサカ氏も認めているものの、5Gらしい世界が訪れるのは、まだ先との認識だ。

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5GMFが発表した5G利用のイメージ。ドクターヘリで移送中に手術したり、ロボットによる農業ができたりするようになる、としている

 それというのも、4Gもしばらく活用していくことになるからだ。携帯電話の技術は約10年ごとに新しい世代に進化しているが、3Gが現在でも使える状況にあるように、「ジェネレーション自体のライフサイクルは20年を越えている」。5Gが10年、20年でどこまで到達するかということを考えると「ロングジャーニー(長い旅)になる」と予想され、4Gネットワークも当分、生き残る。これを前提として考えるべきだとクロサカ氏は言う。

 5Gになっても、当初は体感的に4Gとそれほど変わらないのでは、ということは既に予想されているが、クロサカ氏はそれを、先行して5Gを導入した米国や韓国の事例から説明した。

 まず、Verizonがカリフォルニア・サクラメントで提供している5Gサービスの状況から、ミリ波の扱いにくさが分かるという。Verizonは5G開始当初、サクラメントで107のセル(基地局)を展開。それらのセルによって、理論上、2861戸が5Gを利用可能となるが、実際の1セルあたりの利用可能戸数は大幅に少なく27戸だった。セルは用意されているが、家まで5Gの電波が届かない状況だからだ。結果として、5Gを契約しているのは1セルあたり1.5戸(世帯)しかなかった。


クロサカ氏が調査した5G提供地域は住宅地で見通しもいいが、それでも実際に利用できる戸数は少ない。「基地局から100メートル離れるとグンと減ってしまう。これが恐らく5Gの1つの現実だろうと考えられる」(クロサカ氏)

 韓国では、5G開始直後のソウルを視察。携帯電話会社の本社前でも5Gの電波をつかめないところがあったという。「世界中から5Gの電波を調べに来ていて、そういう人が集まると、1セルあたりの容量を超えてしまって、急に電波がなくなってしまうことがあった」と同氏。

 最近はだいぶ改善されていたとのことだが、やっぱりつながらないという状況もまだ続いているという。「5Gはまだ道半ばというか、始まったばかり」との認識だ。

5Gの普及はゆっくり進む

 5Gを難しくしている要因の1つは周波数だ。日本では現在、28GHz帯、4.5GHz帯、3.7GHz帯が5G用に割り当てられているが、5Gで使われる周波数は4Gや3Gで使われている周波数よりも高い。高い周波数の電波は直進性が高く、雨や樹木、場合によっては人体によっても電波が遮蔽(しゃへい)されてしまうことがある。電波は高くなると光の性質に近づいていくので、「カーテンで覆われたり、雨が降っていると何となく暗かったりというのと同じ。部屋の奥の方に行くほど太陽の光が入らないのと同じように、電波も届かないことが普通に起きる」。

 もちろんこれは予想されていることなので、「いかにユースケースとして取り扱って整理していくのかが必要」とクロサカ氏は指摘。例えば、DSS(ダイナミックスペクトラムシェアリング)の技術を用いて4Gで使っている周波数を5Gで使うようになると、つながりやすくはなるが、帯域幅は高い周波数ほど広くないので、ブロードバンドが実現できないこともありえる。

 「周波数の割り当てや5Gの展開の仕方によって、5Gのユースケースは大きく変わっていく。夢の世界は最終的には実現していくだろうと思うが、4Gもあと10年くらい続くと考えれば、5Gのパラダイムはゆっくり実現していくだろうと思う」

 それは、われわれが経験している4Gまでの世界とは、全く異なる世界になるという。「日本でどこでも5Gが使えるようになるまでは、長く険しい旅になると予想されている。さまざまなシーンで、MEC(モバイルエッジコンピューティング)やインフラの共用、ローカル5Gといったソリューションをうまく混ぜて調整しながら、ベストミックスを探っていかなくてはならない。これはまだMNOも経験していないことなので、何をどういう風にしていけばいいのか、明確な解、最適な解を、キャリアも総務省も持っていない」


MECや基地局の共用、ローカル5Gなど、さまざまなソリューションを活用して、よりよい5Gネットワークを構築していく必要がある

 5Gに対する期待が大きすぎる現状を考慮すると、「幻滅期が訪れるだろうと考えることは、むしろ自然」とクロサカ氏は警告。ただ、「だから5Gがダメだということではなく、むしろ幻滅期にどうベストミックスを作っていくか、どういうビジネスを作っていくのかを考えることが非常に重要」と語り、幻滅期を乗り越える人が5Gエコシステムのメインプレイヤーになると期待した。

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