5G時代にMVNOはどう戦っていくべきか 業界の識者がディスカッション:モバイルフォーラム2020(3/3 ページ)
日本でも間もなく5Gの商用サービスがスタートする。5Gが通信業界にどんな影響を及ぼし、MVNOのビジネスはどうなるのか? ジャーナリストの石川温氏、MM総研 常務取締役研究部長の横田英明氏、インターネットイニシアティブ 取締役の島上純一氏が議論した。
2020年代にMVNOが目指すべきビジョンは?
世界では5Gが始まっており、日本でも間もなく始まるが、「誰も明確な金脈を掘り当てていない状況」(石川氏)だ。多くのMNOがやっとスタートラインに立っている状態で、MVNOは「たぶん第2集団くらいでスタートできて、MNOが見逃した金脈を後から掘り当てていくような感じになっていくのかなと思う」と石川氏はみている。5G時代ではMVNOもイコールな環境で戦えるようになることを期待していた。
新しいサービスが生まれるためには、「新しい産業を作り出そうとしているMVNOを国としてバックアップし、自由かったつで、アイデアや技術がマッシュアップされる環境が必要」と横田氏。
さらに石川氏は「Google Fi」を例に出し、MVNOが複数のMNOと組んで1つのサービスを作っていくと、パワーバランスが変わる可能性があると提言した。
クロサカ氏は「バーチャライゼーション(仮想化)」がキーワードだとした。「VMNO(仮想通信事業者)は、自分の顧客やユーザーコミュニティーと向かい合ってコアネットワークを自分なりにデザインし、物理層だけ使わせてもらうという構造になっていく。可能性、選択肢はたくさん出てきている状態で、VMNOの可能性は大きい」(クロサカ氏)
島上氏もVMNOの可能性に期待している。「SA(スタンドアロン)になって、コアネットワークが変わるという変化で、ビジネスが作り出される。仮想化やネットワークスライスで実現されていくと思う」(島上氏)
仮想化やネットワークスライスという、4Gでは不可能なことが5Gで可能になり、「現在のMVNOとは、全く違った存在が出てくる場になると思う」と島上氏は期待。それが実現するには、MNOがAPIなどをどれだけ開放するかによるとも指摘した。
また、ローカル5Gが可能になると、「ある場所だけでは自分の電波を使い、MNOと同期せずに、例えば送信時だけ速度を上げることもできる。コアネットワークを自分たちで持ち、キャリアの周波数と自分の周波数を混ぜて使うこともできるかもしれない」という。5Gで仮想化が進むことで、MVNOサービスの自由度が上がると期待していた。
では、VMNOが登場して、新しいサービスを作っていけるような状況になるのはいつ頃か。
横田氏は「SAが普及してきてからで、2023年が1つのターゲットになってくる」と予想。ただ、世界のキャリアやメーカーが5Gの展開を積極的に進めているので、前倒しになる可能性は十分あるとみている。
石川氏は、ソフトバンクが全国で90%の5Gエリア化を達成する時期や、KDDIがNSAからSAに切り替える時期、スマートフォンメーカーが端末を全て5G化する時期から、2022年くらいと予想。「MVNOをこれからもっと盛り上げようと思うと、2022年までそんなに時間はない」(石川氏)
島上氏は、MNOが前倒しでエリア化を進めていることから2021年くらいから変わってくると予想。
「例えば、キャリアの周波数をRAN(無線網)シェアリングのような形で使えれば、第三者がコアネットワークを持てるという観点で環境としてはレディ。基地局とわれわれのコアがあればいい話なので、2021年から実験はできるようになる。ユースケースで社会が豊かになると提案できれば、2021年あたりからPoC(概念実証)みたいな形で見せられるようになるのではないか」(島上氏)
3氏の予想では、もうそれほど時間はない。クロサカ氏は、「今から準備というよりも、変化に向けた動きが始まっているというところに立脚して、いろんなことを考えていく必要がある」と締めくくった。キャリア、メーカーは前倒しで進めているが、コロナウイルスによる新型肺炎の広まりが、それを妨害する可能性があるとの懸念も付け加えた。
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