iOSとAndroidに「十分な競争圧力が働いていない」と公取委が指摘する理由 法整備もある?
公正取引委員会は2月9日、日本におけるスマートフォンOS(モバイルOS)関する調査報告書を公開しました。報告書では「GoogleとAppleが提供するモバイルOS・アプリストアに対し、十分な競争圧力が働いていない」としています。その理由の1つが寡占による問題です。
公正取引委員会は2月9日、日本におけるスマートフォンOS(モバイルOS)関する調査報告書を公開しました。これは、モバイルOSやアプリ流通ルートの競争の実態を把握することを目的としたもので、報告書では「モバイルOS市場・アプリ流通サービス市場においては、GoogleとAppleが提供するモバイルOS・アプリストアに対し、十分な競争圧力が働いていない」としています。
報告書によると、2022年の日本におけるモバイルOSのシェアはAndroidが53.4%でiPhoneが46.6%。アプリストアでは、2021年のGoogle Playの売上高は1兆400億円、App Storeが1兆5900円となっており、モバイルOS、アプリストアともにGoogleとAppleの寡占状態になっています。
公正取引委員会が「十分な競争圧力が働いていない」とする理由の1つが、まさにこの寡占による問題です。消費者側からすると、既にAndroidやiOSなどで購入したアプリ、利用しているアプリ、そして周辺機器などが多数ある状況で、他のOSに乗り換えるには端末代以外にもさまざまなコストがかかり、「ロックイン効果」が働いていると指摘しています。公正取引委員会が実施したアンケートによると、スマートフォンの端末価格が5~10%上昇した場合でも、他のOSに乗り換えると答えたのはiPhoneユーザーでは3.4%、Androidユーザーでも5.8%に過ぎません。
アプリ提供事業者側からしても、AndroidとiOSの両方に向けてアプリをリリースするのが合理的であり、どちら一方のOSを選択する状況にはないとしています。このことも「競争圧力が働いていない」とする理由です。
アプリ市場においては、一定の競争が行われているとしつつも、GoogleとAppleは、アプリストアにおいて自社のアプリを検索やランキングで優遇している、他社から手数料を徴収する一方で自社アプリにはその手数料を課していない、サードパーティーアプリのデータやアプリ審査時に得られる情報を自社アプリや製品開発に利用するなど有利な状況を作り出していることなどが、独占禁止法に触れる可能性があるとしています(もちろん、GoogleとAppleはそんなことはしていないと反論しています)。
その上で、公正取引委員会は、健全な競争環境整備や、独占禁止法違反を未然に防止するために「自社優遇行為の防止」「モバイル・エコシステムのルールメイキングにかかわる公正さの確保」「モバイルOS市場及びアプリ流通サービス市場における健全な競争環境の確保」の3つの対応が必要だと指摘します。
健全な競争を促す対応の1つとして、「消費者のスイッチング促進」を挙げている点も注目したいところです。先に書いたように、使用しているOSの乗り換えを考えているユーザーは少ないのですが、十分な競争を促す意味ではiPhoneユーザーがAndroidに、AndroidユーザーがiPhoneに簡単に乗り換えられることが重要です。このため、「データポータビリティを可能にするツールを無償提供する」「セキュリティ確保やプライバシー保護上問題ない場合には、消費者が自社アプリストアを経由せずに獲得したデジタルコンテンツ等へのアクセス及び利用を可能にする」などして、相互運用性を向上させることが望ましいとしています。
前者に関しては、既にGoogleから「Android に移行」アプリ、Appleから「iOSに移行」アプリがリリースされており、ある程度実現できているといえる状況です。ユーザーからすれば、1つのアプリで一括移行できるのが理想ですが、LINEやSuicaなど、このアプリでは移行できないデータもあります。これは各アプリ側の問題でもあるのですが、移行アプリでこうした移行できないデータの一覧なども確認できると便利かもしれません。
後者は、要するにサイドロードやサードパーティーのアプリストアを使えるようにということですが、Googleは既に対応済み。Appleはセキュリティを理由にかたくなに拒否しており、今回も「セキュリティ確保やプライバシー保護上問題ない場合」という条件がついている以上、対応はしないと考えられます。Appleの言い分は当然理解できるものですが、App Storeの利用を強制する以上、手数料についてはもう少し譲歩してもいいのではと思ってしまいます。その点、Googleは「嫌なら他のアプリストアを使えばいい」と言えるのが強みでしょうか。
今回指摘した内容に関して、公正取引委員会はGoogleとAppleの自主的な取組が望ましいとしているものの、「必要な範囲で法律による制度整備により担保することが有効」ともしており、今後、何らかの法整備も念頭に置いているようです。
今回は実態調査のみですが、公正取引委員会は取締の前に詳細な調査を行い、その結果を警告の意味を含めて公開することがしばしばあります。今回の内容に関して改善が見られない場合には、本格的な取締を開始するのかもしれません。
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