JALやメルカリが変えるMVNOのカタチ 「価格から価値」へ、異業種参入で見えた成長の突破口(1/3 ページ)
異業種参入が相次ぐMVNO市場の現状と成長戦略を議論する「モバイルフォーラム2026」が開催された。メルカリやJALの事例から、通信単体ではなく既存の経済圏や体験価値との連携がカギになると示された。AI活用やeSIM普及への対応を進めつつ、独自の付加価値で市場を活性化させることが重要になる。
テレコムサービス協会MVNO委員会は3月19日、「通信+サービスで切り拓くMVNOの新境地」をテーマに「モバイルフォーラム2026」を開催した。この記事ではパネルディスカッションの様子をお伝えする。
パネリストはマルチメディア振興センター研究主幹の三澤かおり氏、スマートフォン/ケータイジャーナリストの石川温氏、メルカリ MVNO Business&Marketing Managerの深見和樹氏、日本航空 マイレージ事業部事業戦略グループマネージャーの大山彩花氏、テレコムサービス協会MVNO委員会委員長の佐々木太志氏の5人。モデレータをITmedia Mobile編集長の田中聡が務めた。
パネルディスカッションのテーマは「異業種参入により活性化する市場でMVNOが成長する方法」。異業種の参入が活性化している現状の検証と確認を行い、そうしたMVNO市場で最新技術を含め、どんな要素がMVNOの成長に必要かを議論した。
異業種のMVNO参入が話題に JALモバイルとメルカリモバイルの狙いは?
MVNO市場に参入した異業種の中でも、メルカリモバイルとJALモバイルは非常に目立つ存在だ。どちらもサービス開始から1年と非常に近いタイミングで参入したことも話題だった。
メルカリモバイルは、メルカリでギガ(データ容量)の売買が可能な点が非常にユニークだ。出品や買い物がさらにお得になっていくポイントプログラムも始めており、メルカリ経済圏での循環を進める役割も期待されている。
JALモバイルは、IIJmioのギガプランやmioIDを採用し、IIJmioをホワイトレーベル形式で提供する形。利用に応じてマイルがたまり、1500マイルで特典航空券「どこかにマイル」が手に入る点が特徴となっている。
メルカリの深見氏は参入した理由を「通信キャリアさんがコマースや金融に参入する中、コマースと金融を持っているわれわれが通信事業を提供することでお客さまのLTV(顧客生涯価値)が高まり、グループのシナジーが出せると考えた」と説明。「あらゆる価値を循環させる」というメルカリのミッションの下、ギガの個人間売買は「新しいデジタルの価値の循環ができるのもメルカリらしくて面白いのでは」と考えたという。
1年間を振り返り、「通信キャリアを乗り換えてもらうのは非常に難しい」とも深見氏は語った。クレジットカードの「メルカード」やビットコインが買える仮想通貨「メルコイン」は既に数百万人規模の事業になっているが、メルカリモバイルはその規模に達していない。ただ、多くのユーザーはメルカリでメルカリモバイルを知って契約しているという。「顧客基盤をうまく活用してさまざまなシーンで訴求していけば成長していける」との自信を見せた。ギガの売買も狙い通りうまくいっているそうだ。
JALモバイルの参入は、「JALマイルライフ」という構想がベースにあると大山氏は説明。日常生活の中でマイルをためられる接点を数多く作り、ためたマイルを旅や非日常の体験に使ってもらう循環を作っていく中の1つのピースがJALモバイルという考えだ。MVNO参入以前にJALでんきやJAL光もリリースしている中、「モバイルほど日常に溶け込んでいるものはない。ホワイトレーベル形式でもサービスを提供していくことが可能ということで検討が始まった」(大山氏)という。
ユーザーからは非常に好評で、年度目標を数カ月で達成し、目標値を大幅に上方修正したそうだ。メルカリモバイル同様、乗り換えハードルの高さは感じているが、JALモバイルをサブ回線で使っているユーザーが多いとみている。特典目当てで契約している人が多いことも「より良い特典をつけていくことで可能性が出てくることに気がついた。うれしい反響」(大山氏)と捉えていた。
ジャーナリストの石川氏は「“ahamoショック”から料金値下げの不毛な戦いが続いていた中、異業種が参入してきたことでパートナー探しに対する期待感が生まれ、追い風になった」と振り返った。また、過去に航空会社が参入したときは、端末を購入して契約するハードルの高いサービスだったので、JALモバイルは「タイミングが良かった」と分析。MVNOのシェア1位のIIJとの提携もユーザーに安心感を与えたと指摘した。JAL、メルカリ2者の参入によりMVNO市場はがぜん盛り上がりを見せており、今後も新たなビジネスモデルが生まれることを期待していた。
マルチメディア振興センターの三澤氏は、航空会社が携帯電話事業を行っている海外事例として、イギリスの「Virgin Mobile」を挙げた。一方、大手流通系企業のMVNOはあるものの、メルカリのような企業は海外でも珍しいと語った。
MVNOのパッケージサービスで参入障壁を下げる動きも
最近、MVNEによるMVNO参入パッケージサービスが増えている。2025年末に日本通信が提供開始したMVNO as a Serviceは、異業種のモバイル参入障壁であった高額な初期コストや長期の準備期間を最小化し、短期間・低コストでの事業開始を実現した。
MVNO委員会委員長の佐々木氏は、異業種参入が容易になるようにMVNEがパッケージ提供し、それによって業界が活性化することで、ユーザーによる評価を介してポジティブスパイラルが生まれることを期待する。そのために「通信業界は通信に閉じるのではなく、開かれたビジネスモデルの一翼を担う必要がある」と語っていた。
ちなみに、三澤氏によるとモバイル事業参入を簡易化する仕組みは海外でも多いという。例えばFinTech企業だとこのMVNEと組むというように、業界で同じMVNEを選ぶ傾向があるそうだ。
今後、MVNO市場にどんな異業種MVNOが登場するのか。石川氏は、海外でのeSIM契約の利便性から旅行サービスの可能性を指摘。また、かつての端末中心のディズニー・モバイルは終了してしまったが、楽しむためにアプリが必須となった現在のディズニーリゾートを例に挙げ、「経済圏と組むとなると相当ハードルは高いが、アプリに対して通信を提供するという形なら可能性があるのでは」と、既存サービスをより便利でお得にするためのアプリ連携の可能性を挙げた。
佐々木氏は、SIMロック解除やeSIMの普及がMVNOにとって追い風になっていると指摘。MNOの9割のユーザー層は技術志向ではないため、「技術ではない関心事」をくすぐることで、MVNOにはどの分野でも大きなチャンスが残されているとの認識を示した。
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