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» 2006年11月20日 00時00分 公開

立ちはだかった予想外の壁──IEEE802.20標準化への道のり(1/3 ページ)

2003年、IEEEでは既存の技術にとらわれない、移動体のために最適化された技術をゼロから開発するための作業部会、802.20が発足した。技術的には非常に優れていたIEEE802.20だが、その標準化への道のりは平坦ではなかった。

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 現在、日本の3G携帯電話で使われているW-CDMAおよびCDMA2000という通信方式の元になっているCDMAという通信技術は、かつて多くの人がその可能性を認めながらも、“机上の空論”とみなしていた技術だ。しかし、米QUALCOMMはこれを実現するだけでなく、3G携帯電話の世界標準として成功させる。

 移動体通信技術の開発で重要な役割を果たしてきたQUALCOMMは、次世代のモバイルブロードバンド技術の開発にも意欲的で、最高のモバイルブロードバンド技術の開発を目指した。技術力では絶対の自信を持つQUALCOMMだが、壁は予想外の形で立ちはだかっていた。

 同社らが中心的な役割を果たして開発を進めてきたモバイルブロードバンド技術、IEEE802.20(以下802.20)は、多くの技術者に有望と認められながらも、この壁にさいなまれ、2006年6月には標準化作業の一時中断という最悪の事態を迎える。

“移動体のために最適化された技術をゼロから作る”802.20作業部会の発足

Photo クアルコムジャパン 標準化担当部長の石田和人氏

 2001年12月、IEEE(米電気電子学会)では、固定ワイヤレスネットワーク技術、つまり家庭やオフィスにADSLや光ファイバーの代わりに無線を使ってブロードバンド通信を提供する技術がIEEE802.16(以下802.16)という作業部会(ワーキンググループ)で承認された。この部会はその後も「WiMAX」と呼ばれるIEEE802.16aなどの標準化を行っている。2002年に、この802.16作業部会で、移動体通信を手がける企業から、固定だけでなく、移動しながらでも利用できるワイヤレスブロードバンド技術を作ろうという提案が行われた。しかし、これは却下される。

 「米Flarion Technologiesや米Navini Networks、米ArrayComといった企業から、モバイルでも使える技術を開発していこうという提案が出ました」と振り返るのは、クアルコムジャパンで802.20の標準化に携わってきた標準化担当部長の石田和人氏だ。

 「ところが、このチャレンジは失敗に終わり、提案は却下されてしまいます。そこで、これらの企業で集まって、新たにモバイルブロードバンド技術を作るため、802.20というワーキンググループ(技術仕様などを決める集まり)をつくることになりました。802.16の組織からは独立し、802.16で決まった技術仕様からは一切の制約を受けない形で、移動体のために最適化された技術をゼロから作るためのワーキンググループです」(石田氏)

 このワーキンググループは2002年12月にIEEEで承認され、2003年に正式に発足している。ところが、これと時を同じくして状況に変化が現れる。

 「802.20の立ち上げが決まったのと同じ時期に、802.16のワーキンググループの中で、やはりモバイルの技術仕様を決めるサブグループ(下位グループ)を作ろうという動きが出てきたのです。こうしてできたのが、やがてモバイルWiMAXと呼ばれることになるIEEE802.16eでした」(石田氏)

 802.20とIEEE802.16e(以下802.16e)は、どちらもVehicular mobility、つまり乗り物などで高速に移動しながらでも使えるブロードバンド通信を標榜しており、技術的に競合することになる。

 IEEEではこれまで、数多くの国際標準規格を生み出してきた。ここでは技術の標準化を目指すのが目的であり、本来同じ目的を持つ、競合するようなワーキンググループは作らないという取り決めがある。それにも関わらず、なぜか802.16eのサブグループはIEEEで正式に承認されてしまう。

技術重視の目標 vs. 市場重視の目標

 こうしてIEEEには、2つの競合するワーキンググループが並立してしまったが、それでも最初のうちは健全な議論が続いた。802.20のワーキンググループにも多くの企業が参加し、積極的な議論を行っていた。しかし、やがてそうした参加企業の多くが802.16eへと移り始めてしまう。石田氏はその理由をこう分析する。

 「802.20が人気を失った背景には、まず多くの参加企業にとって技術的目標の設定が高すぎたことがあると思います。802.20では非常に先進的かつチャレンジングな要求条件を設定していました。例えば時速250キロで移動中でも満足できる性能がでること、それから今の3G携帯電話をはるかに上回る周波数利用効率が得られることなどです」(石田氏)

 その結果、802.20での議論はなかなか進展しなかった。そして出席者の間でも、この技術がいつ立ち上がるのか、不安が募っていった。

 これとは対照的だったのが、802.16eのサブグループだった。802.16eでは、技術的な性能評価よりも、製品の市場性を優先して議論を進めていった。

 「本来、こうした技術はまず評価方法を議論して、クライテリア(基準)を決め、審議を進めるものです。それに対して802.16eでは、詳細な性能評価が十分なされないまま、ペーパー(紙の上での論理)だけでどんどん議論と仕様策定が進められていったのではないかという懸念があります」と石田氏は指摘する。

 QUALCOMMは、現在のモバイルWiMAXの仕様では、電波が届かないエリアが生じたり、極端にスピードが遅い箇所が出ることを指摘しているが(前回の記事参照)、これもそうした議論の進め方の産物かもしれない。

Photo 2005年10月までは、802.20の審議は順調に進んでいた。システム提案も数が少なかったためすんなりまとまり、短期間で最終仕様が策定できた(資料提供:クアルコムジャパン)
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提供:クアルコムジャパン 株式会社
制作:ITmedia +D 編集部/掲載内容有効期限:2006年12月11日