立ちはだかった予想外の壁──IEEE802.20標準化への道のり(2/3 ページ)

» 2006年11月20日 00時00分 公開
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順風満帆から一転、活動中止へ

 参加者が減った後も、802.20は厳しい基準を設けながら規格の策定を進めた。そして2005年9月、ついに討論した技術に基づいた具体的なシステム提案の公募を行った。

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 「もっと多くの企業から提案があることを予想していたのですが、実際にシステムを提案したのは京セラさんとQUALCOMMの2社だけでした」(石田氏)

 802.20作業部会では2005年11月、2つの提案を統合する可能性を模索し、最終的な仕様の策定に乗り出した。これらはMBTDDとMBFDDという2つの規格にまとめられ、承認審査にかけられた。2回にわたる投票が行われ、75%以上の承認があれば通過するという条件のところを80%という高い承認率を受けて、めでたく承認される。この時点で802.20の仕様はほぼ完成し、後はIEEEの外のスポンサー企業の承認を受けるだけになっていた。

 しかし2006年6月、802.20はIEEE-SA(IEEE Standards Association)からワーキンググループの活動停止が申し渡される。原因は米Intelや米Motorolaからのクレームだ。両社は「(802.20の)ワーキンググループが特定の会社(QUALCOMM)に牛耳られている可能性がある」と抗議した。

 石田氏は、そのクレームでは「802.20の議長がQUALCOMMのコンサルタントである」ことや「普通の日程通りの審議ではない」といった点が取沙汰されていたと話す。IEEEから申し渡された活動停止理由には“不透明性”や“規則違反”といった言葉が並べられていた。

 だが、石田氏はこれに反論する。「IEEEの審議には柔軟性があり、日程についてはワーキンググループで審議し、承認されれば変更できるんです。実はここで反対した方々というのは、元々議論に出ていなかった方々なんです」

Photo 802.20の最終仕様は80%の承認率でいったんは承認された。しかし2006年6月、IEEE-SAにより802.20作業部会の活動は一時停止された(資料提供:クアルコムジャパン)

急激に増加した出席者──多くは802.16eの関係者?

 先述の通り、802.20の作業部会は、その高い技術要求が原因で参加者が減少傾向にあり、参加者は有権者と傍聴者を合わせても65〜70人ほどになっていた。特に802.16eの支持者は関心を失ったのか、わずかしか参加していなかった。

 802.20のシステム提案は9月に行われたが、4カ月後の1月に異例の早さで承認された(IEEEでは通常の審議は6カ月ほどかかる)。そして80%という高い承認率で、支持された。

 この点が802.20の“不透明性”の1つの例として挙げられているが、実はその理由は単純だ。通常は5〜6種あるシステム提案が、802.20では2つしか行われず、しかも適用する帯域幅などが方式間で異なるために、各々を独立したモードのシステムとしてうまく統合することができた上、承認の審査を行う有権者も少なかったからだ。802.20への参加者は、提案方式の統合と早期の標準案承認を希望していた。

 そんな802.20の会議だが、実は2005年末以降、大きな変化が起きた。システムの提案がなされ、802.20の性能が、どうやら802.16eの2〜3倍に達し、高い周波数利用効率とIP電話などで必須のQoSなどの機能もしっかりと備えた技術が早期に実現しそうだと分かった頃から、会議の出席者が3倍ほどに急増したのだ。

 この出席者の増加は、802.20の高い技術力を評価した人達が集まってきたからではなかった。出席し始めた人の多くはIntel、Motorola、韓Samsungなど、802.16e陣営の支持者達だった。IEEEの議決は、他の標準化団体と違い、出席者1人に1票の投票権が与えらる投票制度を採用しており、会議に2回続けて出席すると、3回目から1票を投じる権利が与えられる。

 「こうやってたくさんの投票者を置けば、事実上会議を支配することもできてしまうわけです」と、石田氏はIEEEの問題点を指摘する。

 優れた性能を示す802.20が承認されれば、一番困るのは誕生したときから802.20と競合する運命にあった802.16eだろう。突然モバイルWiMAX陣営の参加者が802.20の作業部会に出席し始めたのは単なる偶然とは考えにくい。

 いずれにせよ、802.20作業部会では、突如姿を現した反対勢力の、標準仕様の改良のためではなく、審議妨害ともいえる意見が強くなり、混乱が生じたため、IEEE-SAは802.20の活動停止を決めた。当時の802.20は議事運営の不透明性などへのアピールに対して異義申し立てをしたが、事態は収拾がつかない状態に発展する。

 こうした状況を見かねたIEEE-SAは2006年9月、802.20の仲裁に乗り出した。そこで出た解決案は以下のようなものだった。

  • 802.20ワーキンググループのリーダーシップ(執行部)を解散する
  • IEEE-SA主導で中立なメンバーによる802.20リーダーシップを構成する
  • IEEE-SAは中立性を保つための監視機関を設置する

 6月末から中断されていた802.20の会合は、こうした条件の上で、11月13日から再開されることになった。インタビューを行った11月初旬の時点では、中立的なリーダーシップがどのような構成になるかも含めて、まだ闇の中。石田氏も「蓋を開けてみるまでどうなるかわからない」と語る。

 ただ、新規の活動ではメンバーの所属会社の明確化などが義務づけられており、このことについては石田氏も評価をしている。

Photo 802.20作業部会はIEEE-SAによって6月8日から10月1日まですべての活動が一時的に休止された。理由には“不透明性”や“規則違反”などが挙げられていた。11月13日、新たな執行部によって審議が再開される(資料提供:クアルコムジャパン)

タイムリミットとの戦い

会議が6月から5カ月間中止されたとはいえ、11月からの再開が決まり、これで万事良好といっていいのだろうか。実はそうとは限らないようだ。

 石田氏は「既に2回にわたって投票され、承認された802.20規格が、承認された状態で審議が始まるのか、それとももう1度、最初から投票をやり直すことになるのかがはっきりしない」点が心配だと話す。

 策定で中心的役割を果たし、技術にも自信を持つQUALCOMMとしては、もう1度投票することになっても勝つ自信はある。だが、ここにも技術とは直接関係のない、もう1つの壁が立ちはだかっている。それは「時間との戦い」だ。IEEEのプロジェクトには、約4年前後の決められた期間が割り当てられる。2002年12月に活動を始めた802.20は、2006年12月までに成果を出さなくてはならない。

 標準化作業は必ずしも時間通りにいくものではないため、多くのワーキンググループが必要に応じて、こうした期限の延長を申し込む。評価基準の審議に時間がかかっていた802.20も、2006年1月に2年の期間延長を申し込んだ。ところが、意外にもこの申請は却下されてしまう。2006年11月の審議再開に合わせて、802.20の策定期限は6カ月延長されたが、それは6月から中断していた時間を反映しただけに過ぎない。

 この締め切りはIEEE 802.20会議にとって大きなプレッシャーとなっている。

 「反対企業の中には、もしかしたら会議の早い進行に、QUALCOMMら一部企業が自分たちのペースで勝手に審議を進めている、と見ていたところがあったのかもしれません。実際、Motorolaからはシステム提案公募の締め切りが早すぎた、という指摘を受けています。こうしたスケジュールは2006年末までに、なんとか規格を決めなければならなかったという焦りとも関係していたかもしれません」と石田氏は振り返る。

 もしかしたら、802.20に反旗を翻した企業との間には、こうした不幸な行き違いもあったのかもしれない。

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提供:クアルコムジャパン 株式会社
制作:ITmedia +D 編集部/掲載内容有効期限:2006年12月11日