タッチパネルディスプレイや光学センサーを内蔵した光TOUCH CRUISER、HID対応のBluetoothなど、シャープの「SH906i」にはこれまでなかった機能やデバイスが多数盛り込まれている。その開発は、関係者が「かつてないくらい新しいことに挑戦した」というほど、新たなチャレンジの連続だった。
携帯電話のユーザーインタフェース(UI)として、直感的な操作が可能なタッチパネルを採用する──。これは、世界的に見られる大きな潮流れだ。ここ数年、スマートフォンを中心にタッチパネルを搭載した端末が増えており、大きな注目を集めている。
しかし、タッチパネルを搭載していればすべてのユーザーが満足するのかというと、けっしてそんなことはない。特に日本市場では、携帯電話は通話の道具であると同時にメール端末でもある。メールがストレスなく打てることや、片手でも容易に操作できることも、日本市場ではとても重視されている。そんな日本市場を熟知したシャープが開発したタッチパネル搭載端末「SH906i」は、タッチパネルのよさと、日本のケータイユーザーが望む“片手でメール”の使いやすさを融合させたハイスペックモデルとなった。
SH906iに、なぜタッチパネルを搭載したのか、そしてこの開発の影にどのような苦労があったのか。SH906iの開発に携わった、シャープ 通信システム事業本部 パーソナル通信第一事業部 商品企画部 主事の安田一則氏、同じく商品企画部の堀敏幸氏、オンリーワン商品企画推進本部 総合デザインセンター ソフトデザイン室 主事の鈴木恭一氏、通信システム事業本部 パーソナル通信第一事業部 第2ソフト開発部 主事の大湊吉行氏、パーソナル通信第一事業部 第2技術部 主事の吉村義弘氏、パーソナル通信第一事業部 第1技術部 主事の倉岡泰樹氏、パーソナル通信第一事業部 デザインセンター 係長の水野理史氏に聞いた。
携帯電話の用途には、ワンセグの視聴やPC向けWebサイトの閲覧など、画面を横向きに使った方が便利なシーンが増えつつある。これは液晶のカラー化やカメラの搭載などと同じくらい、携帯電話にとっては大きな変化だ。商品企画を担当した安田氏は「今後の端末開発の上で、横画面にどう対応するかは大きなポイントになる」と話す。
こうした流れを受けてシャープでは、ワンセグ視聴に最適な形としてAQUOSケータイのサイクロイドスタイルを提案したほか、手軽に横向きで使えるフルスライド型、そしてディスプレイを表にして折りたためる回転2軸(スイーベル)型といったさまざまな形態の端末を展開し、ユーザーに横画面での使いやすさを訴求してきた。ただ、横画面を使いやすくすればそれでいい、というものではない。
「横画面へのアプローチも重要ですが、日本の携帯文化として存在する、“縦画面で片手で操作できる”という利便性を無視して横画面化していく点は避けるべきだと考えました。そこでSH906iでは、縦で使うスタイルと横で使うスタイルを併せ持つことを大きなテーマとして開発を進めました」(安田氏)
こうしてSH906iは、縦画面での使いやすさと横画面での使いやすさをそれぞれに追求し、その使い勝手のよさを融合することになった。このとき、横画面をどうしたら使いやすくできるかは、開発に当たってかなり深く議論したという。
「最初からタッチパネルを搭載すると決まっていたわけではありません。実はその結論に至までに、かなりの曲折があったのです。さまざまなデバイスを検討する中で、やはりディスプレイに直接触って操作するのが一番分かりやすいということになりました」(安田氏)
これまでにも、シャープは回転2軸スタイルの端末を多数開発しており、そのそれぞれのモデルでディスプレイを表にして折りたたんだ“ビューアスタイル”での使いやすさを追求してきた。あるモデルでは、十字キーも含め操作に必要なすべてのボタンを側面に用意したり、またあるモデルではディスプレイ面に十字キーやソフトキーが出るような配置にしたり、ディスプレイの横に上下キーを配置したりと、さまざまな方法を模索した。しかし、どれもビューアスタイルでの入力方法として、決定的に使いやすいとは言えなかったことから、タッチパネルの搭載に踏み切った。
SH906iのデザインを手がけたデザインセンターの水野氏は、このタッチパネルが端末を閉じたときのビューアスタイルが“顔”になることを意識したという。
「今まで、ドコモ向けの端末でいくつもの回転2軸型端末を投入してきましたが、実際にディスプレイを表にして折りたたんで使っている人というのはあまり多くないという調査結果もありました。しかしせっかくタッチパネルを搭載するのですから、使ってもらえなくては意味がありません。そこでビューアスタイルがSH906iの顔になるようなデザインを狙いました」(水野氏)
とはいえ、日本の携帯文化として重要なメール作成時の使い勝手を犠牲にしては意味がない。横画面の顔をメインにしつつも、端末を開いた状態では縦で使って違和感のないデザインとした。
SH906iが、“逆ヒンジ”と呼ばれる、ダイヤルキー側ボディ(下ケース)に軸を配置するヒンジを採用したのは、タッチパネルを表に出したときのフラットなイメージを大切にしたためだ。水野氏はこの逆ヒンジ構造で「タッチパネルの未来感、先進性をアピールしたかった」という。また最近は他社の端末にも回転2軸型が増えていることから、同じような形状ではユーザーに変わっているな、と思ってもらえないという点も考慮した。
最終的にできあがった製品は、水野氏をして「ここまでコンセプトモックアップから形状が変わらなかった端末は珍しい」と言わしめるほど、当初のイメージに忠実に仕上がったという。狙いどおりにタッチパネルが引き立つデザインになり、「タッチパネルケータイというコンセプトが、とても素直に形になっていると思う」(水野氏)と、満足した様子だった。
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提供:シャープ株式会社
企画:アイティメディア営業本部/制作:ITmedia +D 編集部/掲載内容有効期限:2008年6月30日