思いっきり鮮やかできれいな写真が撮れる「SH-01A」の8MピクセルCCDカメラと画像処理エンジン「ProPix」に驚いた荻窪圭が、「SH-01A」の開発陣にカメラ機能強化の狙いと、あえてCCDを採用した意図を聞く。「カメラのシャープ」復活にかけた意気込みとは。
かつてシャープの端末は「きれいな写真が撮れるケータイ」として名を馳せていた。
しかし近年、サイクロイドスタイルを考案し、液晶テレビのブランドを冠した「AQUOSケータイ」をリリースしてワンセグ普及の一翼を担い、撮像素子をCCDからCMOSに変更したことで、「カメラのシャープからAQUOSのシャープになっちゃったの?」と残念に思った人も少なくあるまい。
でもそれは無用の心配だった。2008年冬モデルでシャープは、PRIMEシリーズの「SH-01A」と「SH-03A」という、8MピクセルのCCDカメラを搭載したモデルを2機種も投入する。「カメラのシャープ」が復活したのだ。それも「大復活」といっていいほどの復活ぶりである。
なぜ今、カメラに再び力を入れたのか。そしてなぜ一度CMOSに移行した撮像素子を再びCCDにしたのか──。
取材に応じていただいたのは、通信システム事業本部 パーソナル通信第一事業部 商品企画部 主事の宮田雄介氏、技術部 係長の米田敏雄氏、第一ソフト開発部 主事の水本裕和氏、プラットフォーム開発センター 第一ソフト開発部 副主任の林洋賢氏、要素技術開発センター デバイス開発部 係長の高橋芳文氏、同機構開発部 主事の菊池源景氏と、電子デバイス事業本部 イメージセンサー事業部 第一商品開発部 副参事の福場信行氏、同 第二商品開発部 部長の福田尚行氏。SH-01Aで写真を撮って感じた素朴な疑問から、写りや絵作りに関するシャープのこだわりまで、SH-01Aの開発に関わった技術者たちにその狙いを聞いた。
── シャープは最初にカメラ付きケータイを開発したメーカーでもあり、写真の美しさには定評がありました。でも、途中でセンサーをCMOSに切り替えましたよね。そして2008年冬モデルの「SH-01A」からCCDに戻り、CCDであることを強くアピールしています。なぜまたCCDに変わったのでしょうか?
宮田氏(商品企画担当) ケータイで撮る被写体で一番多いのは人です。ですからシャープのケータイは、人をきれいに撮るためのカメラと、撮った写真をきれいに見るための液晶をずっと搭載してきました。
最初に開発したカメラ付きのケータイは、約11万画素のCMOSを採用していました。その後、画質にこだわってCCDを採用したのですが、これをCMOSに切り替えたのは、FOMAの初期のころの端末が、多機能だけども端末サイズがちょっと大きめだったからです。シャープだけでなく、あの頃はFOMA端末全体がムーバ端末に比べて多機能で大きかったんですね。そのため、どうしても「高機能でなおかつ小型軽量、薄型」な端末を開発する必要がありました。その中で、カメラのセンサーもCCDからCMOSに変えたのです。
でも、センサーをCMOSに変えて実感したのは、ユーザーのSH端末のカメラ機能に対する期待が非常に大きかったということです。ここまで期待されているなら、最高のケータイのカメラを作ってみようということで、今回8Mピクセルのカメラを搭載するに当たって、センサーにはCCDを選びました。シャープのカメラに対する期待を考え、また、原点に帰るという意味もあり、思い切ってCCDにしようということになったのです。
── シャープは以前からずっとCCDを作っていたデバイスメーカーでもありますよね。
福場氏(CCDデバイスの開発担当) そうです。私はシャープに入社して以来ずっとCCDのデバイス開発に携わっていまして、ケータイに最初にカメラを入れたときのCCDも作っていました。でもふと気が付いたら世の中はCMOSセンサーばかりでした。ケータイの世界では完全にCMOSセンサーに置き換わっていて残念な思いをしてきたわけです。
でも、ここにきてCCDの良さを見なおしてもらい、それをこんなにコンパクトな形でうまくケータイに搭載してもらいました。この点はすごくうれしいですね。実は世の中を見ると、コンパクトデジカメでは圧倒的にCCDを採用している機種が多いんです。8Mピクセル(800万画素)ですと、1つのセルのサイズは2ミクロンを切るような大きさなのですが、小さなセルのなかでは、まだまだCCDの方が画質は上だと思っています。
── 確かに、画質を重視するコンパクトデジカメはほとんどがCCDを採用していて、CMOSセンサーへは移行してません。やはりこのクラスだと画質面でCCDの方が上、ということなんですね。実際にSH-01Aを使ってみて、暗所での撮影能力の高さや色の鮮やかさに感心しました。
福田氏(CCD周辺デバイスと絵作りの設計担当) CCDは特に色再現性に優れていますが、高い電圧で情報を読み出すので、CMOSセンサーに比べて暗電流ノイズを出さないで微小な信号を取り出せるという特徴があります。つまり感度を上げたときの画質がいいんです。
暗いところでは光が弱い(=情報が少ない)ため、微弱な信号をセンサーの内部で増幅してやる必要があります。そのとき、CMOSセンサーは構造上暗いところ(もともと情報が少ないところ)に含まれるノイズが多いので、一緒にノイズも増幅され、結果として画質が劣化してしまいます。CCDの方がその点で有利なのです。
── 最近のデジタル一眼レフカメラはCMOSセンサーを搭載しているものが多いですが、これはセンサー自体のサイズが大きいこともあり、ノイズを除去するためのさまざまな技術が盛り込まれていますよね。コンパクトデジカメやケータイに載せられる大きさで同じ性能を実現するのは難しそうです。センサーにかかっているコストも非常に高いと聞いています。
福田氏 デジタル一眼レフカメラのような大きなセンサーは別ですが、ケータイやコンパクトデジカメの小さな撮像素子では、感度を上げたときの画質に差が出るんですね。SH-01Aでは高感度モードでISO2500まで対応してます。この点は、コンパクトデジカメと比べても遜色はありません。
── そこまで感度を上げて撮れれば、ほとんどコンパクトデジカメと同じといってよさそうです。撮像素子のサイズはどれくらいなんですか?
福田氏 通常のコンパクトデジカメと同じ、2.5分の1インチのCCDです。
── デジカメの2008年秋モデルでは、2.3分の1インチで1000万画素クラスのCCDを搭載した製品が中心ですが、2007年ころは、SH-01Aと同じ2.5分の1インチの800万画素CCDがメインでした。その点を考えると、SH-01Aのカメラはデジカメとまったく同じといってもいいんでしょうか。
福田氏 CCDに関してはそうです。でもデジカメとケータイのカメラユニットでは、厚さが全然違います。ケータイのカメラは薄くするために、レンズとセンサーの距離がすごく近いんですね。それでもモジュール内には、メカシャッターやNDフィルターを入れています。そのため、CCDを基板に密着させるなどかなり小型化の工夫をしてます。
福場氏 その上、SH-01Aは広角のレンズを使ってますから、光がかなり斜めからCCDに入ります。そこで斜めから入った光もきちんと捉えられるよう、CCDのマイクロレンズに工夫をしています。
── 減光するためのNDフィルタは、光が強すぎるときに、通常のカメラの絞りの代わりに用意されているものですよね。コンパクトデジカメでもNDフィルタを採用している機種はありますが、ケータイにも入っているとは驚きです。また、薄くする必要があるのによくメカシャッターを入れたなあと感心しました。電子シャッターだけの方が薄くできてコストダウンもできたと思うのですが。
宮田氏 ケータイのカメラにメカシャッターを入れるかどうかについては、以前からずっと議論してきました。小型化という観点では、メカシャッターはない方が薄くできます。CCDもCMOSも、センサーだけでシャッタースピードをコントロールすることができますから、ご指摘のとおり電子シャッターのみ搭載するという選択肢もありました。
ただCCDの場合、強い光源があると、そこから「スミア」と呼ばれる光の線が出てしまうんです。メカシャッターがあればそれを防ぐことができますので、デジカメ並みのクオリティを出すために、迷わずメカシャッター搭載を決定しました。
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提供:シャープ株式会社
企画:アイティメディア営業本部/制作:ITmedia +D 編集部/掲載内容有効期限:2008年12月31日