── レンズも、よくこのサイズに広角レンズを入れたなと感心しました
宮田氏 技術部からは抵抗もあったのですが、ケータイのカメラは室内で撮影することが多いので、広角は絶対に必要だということで押し切りました。
福田氏 35ミリカメラ換算で29ミリという広角のレンズも、CCDのために新しく設計しました。解像度が8Mピクセルあるので、デジタルズームをうまく使えば、望遠はなんとかフォローできます。
── このレンズはすごいですよね。広角でこんなに薄いのに、周辺の歪みがほとんど見られません。一般に、レンズは広角になればなるほど、周辺部が丸みを帯びて写る「樽型収差」が出やすくります。広角系ズームレンズを搭載したコンパクトデジカメの多くは、この収差をデジタル的に補正していますが、SH-01Aも画像処理エンジンで収差の補正などをしてるんでしょうか?
福田氏 いいえ、実はしていないんです。レンズの性能を上げることで、広角でも収差がでないようにしています。レンズの収差や解像感は目標を高く持ってやりきろうということでがんばりました。
林氏(画質調整担当) コンパクトデジカメと比べると、ケータイカメラのレンズは薄いので、周辺の光量落ちやばらつきがどうしても発生しやすくなります。そんな厳しい条件の中で、ディスプレイで見ても印刷してもテレビのAQUOSで見てもノイズが少ない、オートで撮ってきれいに写るという調整に一番力を入れました。
── 暗いところの撮影となると、ノイズ処理(ノイズリダクション)が重要になりますよね。
高橋氏(ハードウエア設計担当) 今回、SH-01AやSH-03Aには「ProPix」という専用の画像処理エンジンを搭載してますが、その一番大きな仕事はノイズリダクションといっても過言ではありません。CCDから出た生の信号に対するノイズリダクションと、YUV信号にしたあとのノイズリダクションの両方をかけることで、最高ISO2500の高感度でもきれいな写真が撮れます。CCDから出た信号をProPixが受け取って絵を作っているんですね。
宮田氏 感度がISO2500まで上がるのは「高感度オート」モードに設定したときですが、高感度オートはシャッタースピード優先という感じで、かなり感度が上がります。その分暗いところでも被写体をピタッと止めて撮れます。是非使っていただきたい機能です。
米田氏(回路設計担当) 回路の設計では、ノイズに苦労しました。SH-01Aは携帯電話ですから、電話の待受時やメール送受信時、パケット通信時などに、カメラとは関係ない信号が常時やりとりされています。そうするとその信号がノイズとしてカメラに入ってきてしまう恐れがあります。かといって、撮影中に着信しないようにしたりすることはできません。カメラを優先するばかりに、他の機能に影響を与えてはいけませんから。
せっかくProPixでノイズを除去して最高のデータを仕上げても、転送中に別の信号がノイズとして入ってしまっては台無しになってしまいますから、回路の作り込みは大変でした。
── そのほかに、CCDを使った事による苦労はありましたか?
水本氏(カメラドライバー開発担当) CMOSに比べると、CCDを使ったカメラはどうしても構成部品が多くなるんです。すると、それらをすべて組み合わせてきちっと動作するかどうかを検証する作業もどうしても多くなります。また、カメラモジュールには部品ごとに若干特性の違いがあったりするのですが、それらがしっかり同じ性能を発揮できるように、ドライバーで基本調整してやる必要があります。今回はCCDということで特に気を遣い、このあたりの追い込みは結構大変でした。
米田氏 カメラモジュールが8MピクセルのCCDになったからといって、サイズが大きくなってもいいかというと、それは許されません。従来と変わらない程度の大きさのボディの中にすべて入れなければなりません。でも部品点数は多いし、今回はProPixという今までなかったチップもある。それをいかにして基盤に載せるか、という課題はとても大変でしたね。でも苦労しただけのクオリティには仕上がっています。
実は、最初にSH-01AやSH-03Aが8Mピクセルのカメラを搭載すると知ったとき「ああ、画素数がまた増えたか」というくらいにしか思ってなかった(そう思った読者も多いのではないだろうか)。しかし、こうして技術面の話を実際に聞いてみると、その本気具合はハンパじゃなかったのである。
8Mピクセルのクオリティを保つためにメカシャッターを入れたり、専用の画像処理エンジンを搭載したり、2.5分の1インチのCCDを新たに開発するなど、本職デジカメに負けないよう、コストよりクオリティを優先して開発されたということがよく分かるのだ。その上でケータイのあのボディにカメラユニットをおさめているのだからすごい。
特に室内や夕暮れ時、そんなちょっと暗いシチュエーション、あるいはじっとしていないペットを撮るときなどは「高感度モード」を試してみるべし。確かに、感度を上げてもノイズが気にならないくらい自然な写真が撮れるからだ。
フォトライトもついているが、フォトライトを点灯しなくても、高感度撮影で室内でちゃんときれいに撮れる、というのはケータイのカメラにとってとても重要なことだ。
もう1つ、カメラで撮った絵を最初に見る液晶ディスプレイについても宮田氏は「AQUOSケータイの中でもっともきれいなものを使っています。やはり撮ったモノを液晶で見て、はじめてきれいに撮れたといってもらえますから」と話していた。
そこまで気合いを入れて開発しただけに、福田氏には完成までに3回の喜びがあったと、うれしそうに話してくれた。最初は「カメラモジュールができて評価してもらったとき、解像感がいいですね、さすがCCDです、といってもらえたとき」、2番目は「薄いケータイのボディに本当に8MピクセルのCCDカメラユニットが収まったとき」、3番目は「暗いところで実際に写真を撮ってみて、本当にきちんと明るく撮れていたとき」という。
ここまで画質が上がったら、ケータイのカメラは今後どこへ向かうのだろう。そういう質問を投げてみた。返ってきた答えはこうだ。
「ケータイのカメラは写真として記録していくという面もありますが、基本的にはコミュニケーションツールです。撮ったモノを一緒に画面で見たり、メールしたり、あるいはAQUOS(テレビ)の大きな画面でみんなで見たりする。そんなコミュニケーションにつながっていくための進化をしていきたいと思ってます。それがケータイにカメラが付いている意味だと思いますから、その中で画質や使い勝手がどこまで専用機に追いつけるかがポイントになってくるでしょう。
また、ここまで画質が上がってくると、もうちょっと本格的な、作品っぽい写真の撮影にも使っていただけるレベルにまで持ち上げて、コンパクトデジカメには負けないようにしていきたいと思ってます」(宮田氏)
実際、SH-01Aのカメラは、29ミリ相当の広角カメラとしてはかなりのクオリティだ。今やmicroSD/microSDHCメモリーカードも安価に手に入ることだし、是非ともがしがしと写真を撮りまくり、プリントしたりハイビジョンテレビに映したりして楽しむべし。
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提供:シャープ株式会社
企画:アイティメディア営業本部/制作:ITmedia +D 編集部/掲載内容有効期限:2008年12月31日