シャープだから開発できたNOTTV初号機――「AQUOS PHONE SH-06D」誕生の秘密(1/2 ページ)

初号機なので、ほぼゼロからのスタート。開発当初はアプリがまったく動かなかった――。4月1日に開局するNOTTVを観られる初のスマートフォンゆえの苦労が絶えなかったという「SH-06D」。シャープの技術を総動員した同モデル開発の舞台裏を聞いた。

» 2012年03月29日 09時30分 公開
[PR/ITmedia]
PR

 携帯端末向けマルチメディア放送「モバキャス」の放送局「NOTTV」が4月1日に開局される。このNOTTVの番組を視聴できる初代スマートフォンとして、シャープ製の「AQUOS PHONE SH-06D」がNTTドコモから発売された。モバキャスは、通常のテレビと同じようにストリーミングで視聴する「リアルタイム視聴」と、放送波を使ってコンテンツをダウンロードする「シフトタイム視聴」という2つの視聴スタイルを持つのが特長。SH-06Dは4.5インチのHD(720×1280ピクセル)液晶や1.2GHzのデュアルコアCPU(OMAP4460)など、モバキャス対応機として必要十分なスペックを有しており、ワンセグ、おサイフケータイ、赤外線通信、防水性能などXiを除くサービスや機能も完備する。そんなSH-06Dは、どのような狙いで開発されたのか。モバキャス初号機としてどんなところに苦労したのか。シャープ 通信システム事業本部の開発陣6人に話を聞いた。

photophoto シャープ製「AQUOS PHONE SH-06D」。ボディカラーはMagenta Red、White、Blue Blackの3色(写真=左)。SH-06Dの開発陣。上段左から松本大氏、品川貢氏、田中宏生氏、羽田充宏氏、田中秀幸氏、丸木勝也氏(写真=右)

モバキャスでは“先鋭化”をより強調できる

photophoto 企画担当の田中宏生氏(写真=左)とソフトプラットフォーム担当の丸木氏(写真=右)

 シャープのAQUOS PHONEは、これまでも映像を美しく視聴できるよう高画質エンジンを搭載してきたが、モバキャスでは映像美へのこだわりがより強く発揮されている。パーソナル通信第一事業部 商品企画部の田中宏生氏は「SH-06Dにも画像をきれいに見せる技術を搭載しています。ワンセグは解像度が低すぎて技術を生かし切れない部分がありましたが、モバキャスが高画質になることで、より映像の奥行き感を出せるようになりました」と話す。ワンセグの解像度は320×240または320×180ピクセルのため、HD液晶で表示すると粗くなってしまうが、720×480ピクセルのモバキャスは、大画面・高解像度なディスプレイでこそ映える。

 映像のフレームレートもワンセグの15fps(frame/秒)に対してモバキャスは30fpsに向上しており、解像度とフレームレートを掛けて「モバキャスはワンセグよりも約10倍高画質」とうたわれている。このように映像のデータ量が増加したため、ワンセグとモバキャスでは高画質化の手法が異なるという。「ワンセグは解像度が小さくビットレートも低いので、高画質化を派手に施すとノイズが目立ってしまいます。モバキャスではビットレートが上がっているので、ノイズを気にすることなく、より“先鋭化”を強調できます。ベースの技術はこれまでと変わりませんが、ハードウェアをうまく生かしてモバキャス用に画質を調整しました」とグローバルソフト開発センター 第一ソフト開発部の丸木勝也氏は説明する。

 「テレビとほぼ同じ画質」と言っても過言ではないモバキャスだが、テレビとは視聴環境が異なる。テレビは家の中だけで観るものだが、SH-06Dは屋外で使うことケースもあるので、輝度や画質の調整など、屋外で違和感なく視聴するためのチューニングも施している。これは「AQUOSよりもある意味では難しい」と田中宏生氏は説明する。その上で「高精細、明るく見せる」(田中宏生氏)というシャープの液晶が持つ優位性もしっかり盛り込まれている。「弊社は長年液晶を開発してきました。そこで培ってきた技術は他のメーカーに対しても一日の長があります」と田中宏生氏は胸を張る。

多くの環境で使えるよう3種類のアンテナを用意

photo 無線回路担当の品川氏

 モバキャスを使用する上で気になるのが受信感度だろう。モバキャスの利用エリアは、当初は東名阪地域を中心に展開し、2012年度末には世帯カバー率約73%、2014年度末には世帯カバー率約91%となる見込み。東京スカイツリーなどに設置された基地局から発射される放送波を受信して視聴するが、電波の通りにくい屋内などではうまく受信できない恐れもある。

 そこで、シャープはなるべく多くの環境でモバキャスを視聴できるよう、3種類のアンテナを用意した。1つが本体に内蔵するアンテナで、本体右側面に収められている。2つ目が同梱のアンテナ付きイヤフォン変換ケーブルで、これがアンテナとして機能する。3つ目が同梱の卓上ホルダに備えられているアンテナで、ACアダプターを接続した卓上ホルダにSH-06Dをセットした状態でアンテナを伸ばすと電波をキャッチできる。いずれもワンセグとモバキャス共用だ。3種類のアンテナのうち、実際に電波をつかむのは1種類で、感度の良いアンテナに自動で切り替わる。例えば最初に卓上ホルダのアンテナで受信し、感度が悪くなったら本体のアンテナに切り替わるという具合だ。なお、SH-06Dを卓上ホルダに乗せている場合は、アンテナ付きイヤフォン変換ケーブルを挿していても、卓上ホルダか本体のアンテナで受信する。一方、卓上ホルダに乗せず、アンテナ付きイヤフォン変換ケーブルを装着している場合は、本体かアンテナ付きイヤフォン変換ケーブルのアンテナで受信をする。グローバル商品開発センター 無線開発部の品川貢氏によると、ある一定の評価環境下では、本体、アンテナ付きイヤフォン変換ケーブル、卓上ホルダの順でモバキャスの受信感度は良くなるという。「ただし実際は視聴環境や視聴スタイルなどによって感度特性は変わってきます。環境によらずより安定した受信ができるように3種類のアンテナを用意しました」(品川氏)。なお、アンテナ付きイヤフォン変換ケーブルは「この長さでアンテナとして使えるようにしています」(田中宏生氏)とのこと。

photophoto 本体に内蔵されているワンセグ/モバキャスアンテナ。4段で伸びる(写真=左)。同梱のアンテナ付きイヤフォン変換ケーブルもアンテナとして機能する(写真=右)
photophoto 卓上ホルダにもアンテナが収納されている
photo SH-06Dの左側面には、充電用とアンテナ用にそれぞれ2つの端子がある

 モバキャスとワンセグ共用のアンテナを搭載するにあたり苦労したのが「アンテナの長さ」だという。ワンセグで使用するUHF帯の周波数が470〜770MHzであるのに対し、モバキャスで使用するVHF帯の周波数は207.5MHz〜222MHzと低い。「SH-01Dでは83ミリ(3段)だったワンセグ用のアンテナは、SH-06D(本体内蔵のアンテナ)では123ミリ(4段)に長くしています。周波数が低いので、アンテナを従来よりも長くしないとアンテナ特性を確保できないためです」と品川氏は説明する。しかし、特性をVHF帯に合わせ込むことでUHF帯を使うワンセグにとっては、長いアンテナはむしろ不利になる場合もある。「VHF帯の性能を確保しながら従来機種(SH-01D)並みにワンセグの感度も確保するのに苦労しました」(品川氏)

 グローバル商品開発センター 機構開発部の松本大氏は、アンテナ内蔵の卓上ホルダに端末を対応させる際の苦労もあったと話す。「今までの端末は充電用端子が2つあるのみでしたが、SH-06Dではアンテナ用に(後述するモジュールと接続する)もう2つの端子が必要になります。SH-01Dと同じサイズ感を目指していましたが、端子が増えたことで部品も増えたので、中身を小型化するのに苦労しました」

“データ量10倍”でもワンセグと大差ない消費電力に

photo SH-06Dに採用されている、シャープ製のワンセグ+モバキャスチューナー一体型のモジュール。小型化の実現に注力した

 モバキャスを視聴するには専用のチューナーが必要だが、SH-06Dのモバキャスとワンセグのチューナーは、シャープが開発した1つのモジュールに集約されている。「物理的なチューナーは2つありますが、CPUで信号を処理する回路は1つです」(品川氏)。モジュールを1パッケージにすることで省スペースを図れるのはもちろん、回路が減ることで消費電力を抑えられるというメリットもある。

 携帯電話内部から発する「ノイズ」対策にもいっそう注力した。ディスプレイを点灯する際など、電流が流れると発生するノイズは、Wi-Fi、Bluetooth、3Gなどの通信時に電波干渉を引き起こす恐れがある。加えて、モバキャスやワンセグの放送波を受信する際にもノイズによる干渉を起こす可能性がある。「モバキャスは今までアナログテレビで使っていた周波数帯なので、室内アンテナを携帯電話に付けているようなものです。VHF帯はノイズが通りやすく遮断しにくいので、極力VHF帯でのノイズが出ないよう対策をしています」と、グローバル商品開発センター 回路開発部の田中秀幸氏は話す。具体的には「電源周り」の対策を施したという。「携帯電話のバッテリーは4V(ボルト)の電圧を持つものが多いのですが、実際に使う電圧は1.8Vや3V。この必要な電圧を変換をする際にノイズが出やすいのです。電圧を変換する際にいかに電流の無駄をなくすかに注力しました」(田中秀幸氏)

 ワンセグに比べて10倍ものデータ量を持つモバキャス。当然ながら、バッテリーへの負荷も増すが、連続視聴時間はワンセグが約220分、モバキャスが約190分で大差はない。先述したノイズ対策とも関連するが、「少しでも長く視聴できるよう、電流の流れを制御したり、温度が上がらないようにしたりという対策を施しています。特にモバキャスにおいて、効率の良い回路設計をしています」と田中秀幸氏は説明する。「データ量が10倍ほどに増えてもワンセグ同様に持たせる必要があると考えたので、ハードとソフトを使っていかに電力を抑えるかを、田中と夜な夜な考えていました」と丸木氏も苦労を話す。

photo システム設計と回路開発担当の田中秀幸氏

 SH-06Dのバッテリー容量はSH-01Dと同じ1520mAhだが、バッテリーの持ちはSH-01Dから改善されているのだろうか。「SH-01Dよりも電力効率を上げているところもありますし、回路構成を変更したり不要な箇所への電流を抑制したりすることで、さらに改善をしています。ただ、CPUのクロック数がSH-01Dの1GHzから1.2GHzに向上したことで、負荷が大きくなる動作があることも否めませんでした」と田中秀幸氏は説明する。一方で、SH-01Dよりもバッテリー容量を増加する案はなかったのだろうか。バッテリーを増強すると本体のサイズも増すので、ユーザーはバッテリーかサイズを選ぶことになるが、「今回は本体サイズを優先し、お客様に受け入れていただけるサイズ感の中で仕上げました」(田中宏生氏)。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.


提供:シャープ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia +D 編集部/掲載内容有効期限:2012年4月25日