モバイル音楽配信の明日はどっちだ?(2) ──現状と目標(2/2)

コンテンツ配信ビジネス全体の現状

 ワイヤレス通信の世界は,現時点でも既に有線での通信と遜色ないか,場合によってはそれ以上の通信速度を私たちに提供してくれる。

 ならば,コンテンツ配信ビジネスにおける各社各方式の激突は,固定された電話線によるインターネットの世界でも起こるのが当然だ。実際のタイミングとしては,それはワイヤレスによるサービス競争の開始よりさらに一年以上前から始まり,こちらも進化の真っ最中である。

表を見る

 スタートが早かったこともあり,現在のワイヤレスによる配信よりさらに様々なビジネスが乱立しているのがこの固定系回線による配信ビジネスである。上記の表では特に代表的なところを記してみた。

 PCという柔軟な環境を使用することから,様々な形で挑戦が行われてきたが,1つの大きなタイミングとなったのは,1999年暮れからソニーミュージックが始めた音楽配信ビジネスである。「Bitmusic」と名付けられたこのサービスは,メジャーレーベルの現役のヒットタイトルをインターネット環境を通じてセキュアに,さらに有料で配信(販売)することができる画期的な内容であった。

 その後,ほかのレコード会社もそれに追随し,キングレコード,ポニーキャニオンなどのメジャーレーベルやbitmusicも含んだ形で,ポータルサイトであるLabelgateの運営が始まった。配信方式の統一化を狙い,安定運用される同じ仕組みの上で,複数レーベルが配信を行おうという考え方のものである。

 だが,もちろん全てがまとまるわけでもなく,別勢力としては東芝と東芝EMIの出資により作られたサービスの「du-ub.com」(ドゥーブドットコム)もある。

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Bitmusic(左)du-ub.com(右)

 PHSによる音楽配信と最も違うのは,通信キャリアではなく音楽レーベルそのものが音頭を取っているように見えることだ。

 だがソニーミュージックでは本体ソニーの推進する圧縮方式ATRAC3を全体にわたり使用し,また,Labelgate自体にもso-netのサービス名で有名な大手プロバイダ,ソニーコミュニケーションネットワークが参加している。

 対して,東芝系の音楽配信であるドゥーブドットコムに関しては,東芝本体が90%も出資しており,東芝EMIは10%の参加である。こちらはこちらで,「端末メーカー」と称される大手電機メーカーの姿がちらつく。

 インターネット経由での音楽配信システムが既に構築されているのであれば,PHSなり携帯電話なりでの配信システムはそれをベースにしたものでもよかったのではないか,と考えてしまう。ノートPCとPHSをつなぐというスタイルは,純粋にハードウェア技術の進歩でフォローできるはずだ。ならば,なぜ通信キャリアはインターネットと接続しない配信システムと専用端末という組み合わせで配信ビジネスを始めようとするのだろう?

通信キャリアがコンテンツ配信を目指す理由

 通信キャリア自身が配信ビジネスを行う。このことは出版にたとえると,いわば印刷業界と流通業自身が「出版社」としてコンテンツビジネスを始めるようなものだ。

 そこには通信キャリアの,将来を見据えたビジネス上の目論見がある。有線網と同じく,ワイヤレス系の通信キャリア間でもユーザーが負担する通信費(通話料)は各社の競争の結果,既にぎりぎりまで落とされている。

 今後,ユーザー自身の意思による大量なデータ通信もありえるし,メールやWebをモバイルで行うことは浸透してゆくだろう。だが,それは通信キャリアにとっては純粋な「通話料」の稼ぎにしかならない。

 だが,ここで有料のコンテンツを流通させる側になればどうだろう? 明らかに,通信キャリア各社にとっては純粋な通信費以外の収入源が発生する。

 もちろん,コンテンツホルダー(音楽に関してならば音楽レーベル)への権利料もあるだろう。しかし,仮に単価としては小さな額の収入であれ,それが携帯電話ユーザーというべらぼうな数の中においては膨大な金額になる可能性が高い。

 そして,さらに携帯電話・PHSという商品の特殊性が関係する。これらの移動体通信端末は,それを所有する個人に対してほぼ確実に使用料金を徴収できる課金システムがバックに控えている,ある種の“クレジットカード”でもある。

 移動体通信によるコンテンツ販売が本格化した際に,このハードとして存在する“クレジットカード”を使用することが標準となれば,通信キャリア各社は配信ビジネスを行いたいコンテンツホルダーに対して,自らの課金システムを提供しビジネスとすることもできる。ビジネス領域の拡大という意味でも,通信キャリア自身がコンテンツ配信ビジネスを行うことには大きな意味がある。

 ユーザーとしても,課金システムと直結した端末での購入は,パソコンとインターネットでの音楽配信を受けるときのような長い手順はどこにもなく,さくさくと購入手続きが済んでしまう。待ち時間も,考え方を変えれば「ちょっと待てばいいだけ」だ。

 これは,筆者の周りにいる同じ業界の仲間でもほぼ同じ意見であり,「もしかしたら,使いやすさという意味でケータイ(PHS)でのコンテンツ配信こそが本命ではないか」という意見さえある。この使いやすさと音質のよさからして,筆者はこの意見に賛成だ。

頭で考えるよりも便利なサービス

 携帯端末での楽曲の購入は,価格の面では決して安いとはいえない。しかし欲しい楽曲が配信されているならば,その使いやすさと手軽さにおいて,その未来的な感覚も含めて「買い」であると感じている。

 サービス事業者である通信キャリアのビジネス収支がどうなっているのかは分からないが,少なくとも消費者としての筆者は,頭で考えるよりももっと便利なサービスであることを評価している。もちろん,これが第3世代携帯電話の384kbpsでできたら,とすぐに連想してしまうのだが。

 コンテンツ配信というサービスは,現在の姿はまだあくまで実験的な要素が強く,事業者はこれから息長くこのビジネスを行うことで市場自体を開いてゆく必要がある。

 今回は,主にコンテンツ配信ビジネスにまつわる各業界の思惑に向けて1つの見方を提示した。次回最終回となる第3回は,それらを踏まえ総論としての今後のコンテンツ配信ビジネスのあり方について1つの考え方を提示したい。

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[桜井里志,ITmedia]

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