“ケータイ”になりたい腕時計

携帯電話と同じく“常時持ち歩く電子機器”である腕時計。しかし“忘れて困るもの”としては携帯に敗北気味。負けじと情報機器機能を取り込む腕時計だが……。

【国内記事】 2001年11月9日更新

 「腕時計が売れない」。ある時計メーカーの担当者はそうぼやく。カシオ計算機の「G-SHOCK」などブームとなる商品は登場するものの,市場全体は縮小気味。シェアトップのシチズン時計も,国内の腕時計市場の低迷にあえいでいる。

 そんな腕時計の救世主として期待されているのが,情報機器と融合した商品だ。シチズン時計の新製品・新技術を集めたプライベートショー「CITIZEN FORUM 21」では,PCとの連動や無線機能,指紋センサー,GPS機能などさまざまな機能を内蔵した腕時計が数多く展示された。

腕時計不振はケータイのせい?

 腕時計のメインの機能は時間を知ること。これまで正確な時間を刻むことと,デザインなど付加価値の向上に努めてきた腕時計だが,時計としての最近のライバルは携帯だという。

 「当然,腕時計はしているものの,私も携帯で時間を見てしまう……」。そう漏らすのはあるシチズンの担当者。

 折りたたみ型の携帯電話では,開くことなく時間が分かるサブウィンドウ付きの携帯が人気。それを見ても,“時間を知るための携帯”へのニーズは予想以上に高いようだ。実際,若者の間では「携帯があるから時計はいらない」という声もよく聞く。

 そもそもが通信機能を内蔵している携帯電話では,時計の精度が高いのも特徴。例えばcdmaOne方式の携帯電話には,常に基地局から時刻情報が送られており,秒単位で正確な時を刻む(7月27日の記事参照)。精度でいえば電波時計のようなもので,電波が届いている限り狂うことはない。

情報機器との融合も,ケータイ有利

 ならば,GPSや指紋認証機能,カメラなどを内蔵したり,PCとの連携機能を強化するのはどうだろうか。今回参考展示されたLinuxで動く腕時計「WatchPad」などは,その夢を実現したものの1つだ(11月6日の記事参照)。

Photo
シチズンが日本IBMと共同開発した「WatchPad」

 しかし,この部分でも状況は携帯にやや有利なようだ。現在携帯のディスプレイはカラーディスプレイが当たり前。しかし腕時計では「電池のもちを考えるとまだ厳しい」(シチズン)状況だ。既にカメラを内蔵した携帯は市民権を得ているし(10月5日の記事参照),もうじきGPS機能を持った携帯も登場する(10月4日の記事参照)。

 ほかの機器と連携するための無線機能も,Bluetoothは消費電力の関係から腕時計には問題外。シチズンでは315MHz帯を使う独自の方式を使っていくつかのデモを行っていたが,これでも消費電力は大きな課題のようだ。「実際のところ,コスト的,デザイン的に赤外線のほうが有利」だとシチズン担当者は言う。

“充電が日常”なのか“充電は不要”なのか

 携帯が情報機器の機能をどんどん飲み込んでいくのに,腕時計が苦しむ理由の1つは消費電力だ。携帯に比べてはるかに小さい電池しか搭載できない腕時計では,同様の機能を盛り込むのがはるかに難しい。

 カラーディスプレイを搭載し,Bluetoothで携帯と連携を図る腕時計のコンセプトモデルも展示されたが,担当者は「バッテリーの進化は著しく遅い。(燃料電池のような)大きなブレイクスルーがないと,実現は難しいかもしれない」と語る。

Photo
こんな腕時計の実現のカギを握るのはバッテリーだ

 腕時計の高機能化の足を引っ張っているものの1つとして,腕時計に対する人々の意識もあるだろう。携帯をはじめ,ポータブル音楽プレーヤーやデジタルカメラなど“自宅に帰ったらクレードルで充電する”のが普通になってきている機器は数多い。しかし“腕時計を毎日充電してください”となったらどうだろうか。

 コンセプトモデルの担当者は「毎日腕時計を充電するのが習慣になる時代が来るかもしれない」と語る。しかし,一方では充電も電池交換もいらない腕時計が進化を遂げている。コンセプトモデルの後ろ側では,“光で発電して無限に動き続ける”という「エコ・ドライブ」の最新技術が展示されており,“充電不要”の腕時計にますます磨きがかけられている。

 人々の意識は,今のところ“腕時計に充電はいらない”というものだろう。シチズンでは「6カ月,電池交換なしで動くものを普通の腕時計の基準としている」と言う。

しかし腕時計の情報化への期待は高い

 バッテリーの面でハンデをかかえている腕時計だが,アドバンテージもある。「防水性や腕に馴染む作りは腕時計メーカーならではのノウハウだ」とシチズン。そして装飾品として長い歴史を持つ腕時計のデザインも,携帯などにはないノウハウだ。

 例えば,防水,耐衝撃性を備え,携帯電話の進化の可能性に一石を投じたカシオ計算機製の「C409CA」は,デザインの面でも秀逸だ(5月9日の記事参照)。この携帯電話は「G-SHOCK」のデザイナーがデザインしたのだという(残念ながら「C452CA」ではデザイナーが変更になった)。

 また“携帯性”という意味では携帯電話より腕時計のほうが上だ。スポーツの最中や入浴中に携帯電話を身に着けることはほとんどないが,腕時計の場合それほど違和感はない。

 携帯機器は,その大きさと形状によって棲み分けられるとも考えられる。どんどん高機能化していく携帯電話に対して,“常に持ち歩く意味がある機能”に特化すれば,腕時計というソリューションも魅力的だ。

 「腕,という(携帯機器の)ベストポジションを明け渡す気はない」と,シチズンの担当者は腕時計の情報機器化には積極的だ。今後どのような腕時計が登場するのか。願わくは,携帯でも可能な機能ではなく,腕時計ならではの機能を考えていっていただきたい。

[九条誠二,ITmedia]

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.



モバイルショップ

最新スペック搭載ゲームパソコン
高性能でゲームが快適なのは
ドスパラゲームパソコンガレリア!

最新CPU搭載パソコンはドスパラで!!
第3世代インテルCoreプロセッサー搭載PC ドスパラはスピード出荷でお届けします!!