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つくりかた
 [第31回]

ごろ寝したままインターネット! モバイルはフリーハンドで

引き続き,日立のウェアラブル・インターネット・アプライアンス「WIA-100NB」についてのお話です。小さくてもきれいなLCoSディスプレイや,WIAの将来展望について聞いてみました。

【国内記事】 2002年2月6日更新

 引き続き,日立のウェアラブル・インターネット・アプライアンス「WIA-100NB」についてのお話です。小さくてもきれいなLCoSディスプレイや,WIAの将来展望について聞いてみました。

 こんにちは,「もばいるのつくりかた」の時間です!

 今回も前回に引き続き,日立製作所にお邪魔してウェアラブル・インターネット・アプライアンス「WIA-100NB」のヒミツに迫ります。解説して頂くのは,Net-PDAベンチャーカンパニー 商品企画部 主任技師の海老名修さんです。

 この独特な形をした「身につける」インターネット機器。前回は業務用での用途について紹介してもらいましたが,その際に海老名さんが出したキーワードは“ながら”。

 「そう,前回は作業しながら,というような話が出ましたが,たとえば家でテレビを見『ながら』とか,ごろ寝し『ながら』インターネットできたら楽しいじゃないですか」

 うーん,確かに「ながら」って楽しいんですよね。使用する際の最初の装着の仕方が,ある程度説明なしには難しいため,現在は業務用として販売されています。でも本当は一般の人にも使ってほしい,と海老名さんは言います。

 「電車の中とかでも使っていただいたりとか,ね。両手は自由に使えますし,周りもちゃんと見えているので危なくないですからね」

 ディスプレイを片目で覗く形なのも「ながら」で使うことを意識しているからなのでしょうか?

 「両目で見る形のものは,映画を観る・ゲームをする,などそれだけをする時に使うヘッド・マウント・ディスプレイは出ていますよね。でも,やはり検査をしながら,とかテレビ見ながらとかになると,片目の方がいいんですよ」

 両目を覆ってしまうと,画面を見ることだけに専念しなくてはならないですからね。腰を据えて映画を観る時などとは違って,ネットサーフィンをしている時は画面だけをじーっと見つめているわけでもありません。それを考えると“ながら”ができる方が用途に合っているようにも思えますね。

 「あと,周りの景色がたくさん見えていた方が,船酔いのような状態になりにくいんですよ。映画の『タイタニック』を見た時を思い出してみてください。あれは,小さい画面で観るとおもちゃの船が沈んでいるようですが,映画館の大きい画面で見ると本当に船酔いしたりするでしょう? あれと同じなんですよ」

 WIAで何かを見た場合,画面は静止していますが,周りの景色は動いています。また,電車に乗った場合などはさらに振動や窓の外の景色に動きも加わります。すると,目で見ているものと,体の不一致が起こってしまい,船酔いのような状態になってしまうのだそうです。

 「ということで,“ながら”で画面を見る時には,できるだけ周りの景色が見えた方が酔わないんですよ。だから,こうやって……」

 と,WIAのディスプレイの裏側にある黒いカバーを外す海老名さん。

 「こうすると,画面が透けて見えるでしょう? 慣れてくるとこちらの方が楽なんですよ」

 ホントだ,画面の向こう側に,周りの景色が透けて見えています。空中に透明なスクリーンが浮かんでいるみたいです。確かに,視界の一部分が画面で完全に遮られるより,この方が楽な感じがしますね。

 「そう,それに目の負担を考えた時も,片目で見るディスプレイの方がいいですね。ついでに言えば,もちろん片目の方が安くすみますしね(笑)」

新しいデバイスLCoSのヒミツ

 しかし,これをつけて電車に乗っていたら,目立ちそうですねー。あの人は一体何をしているんだ!? って。

 「ちょっと勇気いりますかねー(笑)。でも,便利ですよ。電車の中でPDAを使っている人は結構いるでしょう? 例えばPDAでたくさんのテキストを見ようとすると,画面が小さいのでカチカチひたすらスクロールしなくてはならなかったりしますよね。それに,インターネットに接続してWebを見ようとすると,欠けて見えたり,モバイル用のページでないときちんと表示できなかったり。その点,WIAなら普通のパソコンで見るのと同じように使えます。『大きな画面を,大きな機材を持たずに見られる』というのがウリなんですよ」

 うんうん。確かにモバイルの弱点は画面が小さいことですからね。小さくて持ち運びは楽なのに,画面が大きい,というのは嬉しいです。

 ちなみに,ディスプレイを覗くと,ちょうど60センチ前方に13型モニターが見えているのと同じなのだそうです。解像度は,SVGA (800×600ピクセル)。


 「かなりきれいに見えるでしょう? LEDで光っているので発色が鮮やかなんですよ。特に蛍光灯では苦手な赤い色がきれいに出せるんです」

 ふむ,言われてみれば,色の感じが普通の液晶とはちがうかな? なんだかとても明るく見えます。

 「あとね,『Liquid Crystal on Silicon』この新しいデバイスを採用しているんです」

 従来の透過型液晶ディスプレイがガラスとガラスの間に液晶を挟んでいる形なのに対して(第16回参照),Liquid Crystal on Silicon(LCoS)は,トランジスタや配線などの画素を制御する駆動回路を焼きつけたCMOSシリコンバックプレーン(反射板機能も含む)とガラスの間に液晶を挟んだ構造になっています。簡単にいえば,シリコン基盤の上に直接液晶パネルを作ってしまう感じですね。なお,外部から光を当てて反射光で表示させる仕組みになっています。

 「カラー表示の仕方も従来のものとはちょっと違うんですよね。例えば,テレビの画面とかなどでもそうですが,拡大してみると赤・緑・青の3つの画素があって,これを表示させたりさせなかったりして色を出しています。それを遠目に見ると3色が混ざって,さまざまな色にカラー表示されるわけです」

 そうそう,よーく見ると(液晶などは肉眼では見えませんが)赤緑青・赤緑青・赤緑青……って並んでいるんですよね。

 「それがLCoSの場合,三原色を面積でなくて時系列で表現しているんです。赤・緑・青に数百ヘルツで点滅していて,人間の目で見ると3色が混ざってカラーに見えるんですよ。空間分解・時間分解なのかの違いですね」

 へー,高速で色を切り替えて,混色しているわけですね。どちらにしても目の錯覚というか,人間の可視限界を利用しているわけですが,面白いですね。

 「あと,通常の液晶では画素の中に駆動回路が入っているのですが,LCoSではそれが裏のシリコン基盤部分にあるので,画素中で光を遮ってしまう部分がないんです。つまり開口率が高いので高輝度なわけです」

 LCoSは従来の透過型液晶とは異なり,各画素に遮光層を必要としないので,明るく,継ぎ目のない滑らかな画像を映すことができるのだそうです。

 「なんというか,画像のザラザラ感が少ないんですよ。だから,同じ解像度でも,従来の液晶よりもはっきり見えるんです。たとえば,漫画の単行本を見開き2ページ表示した場合,文字のルビまで見えます」

 将来的には,そのような漫画を読むためのビューワとしての使い方なども期待しているそう。現在でもインターネットで漫画を買えるサイトなどもあるので,それを見るのにもよさそうですね。PDA用のコンテンツに限定されず,普通のブラウザと同じものが見られるのが便利です。

なにより重要なのが安全性!

 「と,ここまでいろいろなスゴイところを話してきましたが,一番大事なところはまだ別にあるんですよ」

 このヘッドマウントディスプレイは島津製作所によって開発されたとのこと。日立製作所がWIAにこのディスプレイを採用した理由の1つが……。

 「とにかく安全性! ですね。やはり目の周りにつけるものですから,ぶつかって当たって怪我をした場合など,手のひらをちょっと切ったくらいじゃ済みませんから」

 目に当たって失明,なんてことになったら大変ですものね。そのあたりのことは特に念入りにテストを繰り返し,一番安全なデザインに決められたのだそうです。

 「たとえば,四角いディスプレイの部分が大きく平たくなっているのにも理由があって,本当はもっと小さくできるんです。でも,このように大きければ目の窪みより広くなるので,たとえ何かにぶつかって前から押されたとしても,直接眼球にはあたりません。小さいディスプレイはカッコいいですけれど,ぶつけた時目に入っちゃうんですよ」

 うわ,想像しただけで怖いです。目にぐさっと……ひえー。

 「全体的なデザインもそうですね。横から一本の足でディスプレイを支える形のものなどは,見た目はスタイリッシュでいいのですが,後ろからぶつかられた場合,目にガツン! と」

 痛そう〜。というか,痛いじゃ済みません。

 「だから,孫悟空の輪のようなこの形が重要なんです。眼鏡タイプよりも,おでこで支える形の方がさらに安定しますし,ぶつかっても直接目に当たりません。ちなみに眼鏡をかけたまま同時に使うこともできるんですよ。がっちり固定されるので,画像のぶれも少なくなります。そう,どれくらいずれにくいかといえば……CEATECではコンパニオンがこれをつけて踊りましたからね(笑)」

今後の行方は……??

 さてさて,ということで前回・今回と「WIA-100NB」の機能や仕組みについて話して頂いたわけですが,この製品の今後の展開はどのようになるのでしょうか?

 「そうですね,それは2つの道が考えられます。前回の話のキーワードに『割り切り』というのがありましたが,とはいえ『あれもしたい,これもできたら』というような要望に合わせて,機能を増やしていくことも考えられます。1つはこのように太る方向での製品展開ですね」

 現在は割り切って機能を削り「安く・小さく・軽く」という方向で作られていますが,多機能なものを開発することも考えられているようです。

 「もう1つは,割り切りの徹底的追求ですね。もっと機能を限定して,極端なことをいえばヘッドマウントディスプレイとマウスポインタさえあればいい,なんていうユーザーさんもいるかもしれませんしね」

 さらに割り切った形の製品となれば,当然価格も安くなるでしょうし,そうすると一般の私たちも気軽に手に入れられるようになるかもしれませんね。電車の中でWIAを身につけて読書に勤しむ人の姿を見るのも遠い未来のことではないかも?? そんな光景を想像してちょっとワクワクしてしまった私なのでした。    ということで,2回にわたってレポートしました日立製作所のウェアラブル・インターネット・アプライアンス,いかがでしたでしょうか?

 ぱっと見は奇抜な製品のようにも思えましたが,これもモバイルの未来形の1つなのかもしれませんね。より便利に,簡単に,安価に……。それを追求して,これからどんな製品が生まれてくるのか楽しみです。ということで,また来週も新しい製品や技術について紹介していきたいと思います。以上,もばいるのつくりかたでした!

[絵本 智,ITmedia]

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