News 2000年8月21日 08:43 PM 更新

レポート:インターネット対応マンションの現実(後編)

 前回,新規で分譲マンションを購入する際,「インターネット対応だから」を理由に物件を選ぶ人はほとんどいないと書いた。数千万円規模の商品を購入するのだから,インターネットだけでは決められないのは当然である。インターネット対応は,BSやCSのアンテナ,ビデオカメラ付きインターホン,浴室乾燥機などと同じように,マンション設備の一部でしかない。

 しかし「同じような物件ならばインターネット対応の方がいい」と考えている人は少なくないはずだ。近年のマンションは設備面での充実が進み,内装や共有設備などの面で品質の差はあるものの,一通りの設備スペックは横並びに近い状態だ。そうした横並びスペックの中に,インターネット対応という言葉が当たり前のように入る日は,そう遠くないだろう。

 ここで注意したいのは,BSアンテナや浴室乾燥機の場合,スペック上の仕様として存在すれば,どのマンションでも機能や性能の差がほとんどないのに対し,インターネット対応という言葉は機能も性能も表していないということだ。

 NTTがOCNサービスを開始し始めたころ,OCNエコノミーを利用したインターネットマンションが何棟か登場したことがあった。あるマンションでは56戸の規模で,OCNエコノミー接続だったが,速度面での不利は明らかだった。そのマンションで実際にインターネットを利用しているのは26戸だったが,会社から帰宅して利用しようとしても,あまりに遅いためダイヤルアップ接続で当座をしのぐこともあったという。

 結局,そのマンションでは管理組合内でインターネット検討委員会なるものを設立し,後日,デジタル専用線を用いたサービスを導入し,プロバイダも変更したものの,1戸あたりの負担が増してしまったという。不幸なのはインターネットを必要としない入居者だろう。また,委員会主導でプロバイダが変更されたため,メールアドレスやホームページスペースを強制的に変更させられた。

 こうした事例がある一方,最新の設備でインターネット対応をうたうマンションもある。三井不動産が3月に販売した大崎駅近くの「ザ・パークタワー東京サウス」は,最多価格帯が7000万円という高級物件だが,不況の中にあって233戸をあっという間に売り切ったという。この物件はCS放送とインターネット接続を光信号に変換し,光ファイバーで宅内に引き込み,その後,信号を分離している。インターネットの信号は居室ごとのイーサネットハブに接続され,そこから全居室のイーサネットポートへと分配される仕組みだ。回線容量も1戸当たり最大で10Mbps,最低でも1Mbpsほどの帯域が確保されており,料金も月額2000円と安い。

 ザ・パークタワー東京サウスの事例は,単にインターネットアクセス環境が良好という点よりも,10年,20年後にもマンション内の情報インフラとして設備が相対劣化しないことの方が,より重要だといえよう。そのころ,一般的な家庭でのインターネットアクセス回線がどの程度になっているのかは予想もつかないが,設備があらかじめ光化されていれば,アクセスラインやプロバイダの変更で時代に追随できる可能性が高い。

 インターネットマンションを選ぶ上でのポイントは,実質的にどの程度の品質でインターネットサービスを受けられるのか。また将来,受けられる可能性があるのかだ。仮に現在はナローバンドでも,マンション内のインフラがきちんとしていれば,将来は改善される可能性もある。

 またマンションの規模も参考になるだろう。大規模マンションの方がスケールメリットが出るため,1戸あたりの負担が少なくなる。逆に言えば,1戸あたりのコストが同じならば,より高速なネットワークとなる。インターネットの接続コストが高いうちは,100戸以上の規模を目安にするといいかもしれない。

 インターネットマンションの定義を,インターネットを常時接続環境で利用できるマンションとするならば,それは必ずしも広帯域を示すものではない。それが本当に求めるものなのか。大きな買い物の前にはよく検討すべきだ。

難しい既設マンションのインターネット化

 前回の記事では,既設の集合住宅からのインターネットアクセス,特にここ数年で建てられた光収容のマンションは広帯域化が難しいと書いたが,インターネットマンション化は,比較的容易に実現することができる。

 大京がHome PNAを用いたインターネットマンション化の計画を進めていることを紹介したが,同様にHome PNAを用いた既設マンションのインターネット化を,いくつかの企業がメニュー化しようと試みているからだ。そのうちの1社,NTT-MEはテストケースでの導入を経て,近く本格的な事業展開を行う。NTT-MEのメニューでは,Home PNA以外にも無線LANの基地局を屋上に設置し,各戸に無線で接続する方式も採用される予定だ。

 しかし,マンション内のインターネット対応は進められても,接続回線の広帯域化は難しい。新規物件では,電力会社など公共事業会社が持つ非NTTの回線をあらかじめ引き込んでおける可能性もあり,安価に広帯域接続が可能なケースもあるが,既設マンションの場合,今すぐ広帯域を手に入れるのは難しい。

 月2000円で100戸規模の場合は20万円,月5000円でも50万円。前者の場合で「ディジタルアクセス128」による専用線接続,後者の場合でベストエフォート型の「OCNスタンダード」(1.5Mbps)が引き込める程度の予算しか集まらない。広帯域を望むなら,200戸規模のスケールメリットが欲しいところだ。

 NTT-MEの場合は,同社が提供する「XePhion」をインフラとしたインターネット接続を行うが,接続ポイントまでは専用線を用いる。50戸規模で回線にディジタルアクセス128を用いた場合,1戸あたりの負担は月に3500円となる。ただし,それ以外の例ではケースバイケースということもあり,具体的な料金例は分からなかった。

 それよりも難しいのは,管理組合で半分もしくは3分の2以上の賛成を取り付け,インターネットの導入を承認してもらうことだ。上記のようなケース,CATVを新たに引き込むケース,あるいは前回紹介した「bitcat」のようなサービスを利用するケースでも,初期導入に際して1戸あたり数万円の初期投資が必要になる。

 また,いくら大規模なマンションでも,利用したい住居だけしか接続料金を支払わないのではスケールメリットが出ない。管理費が2000円上がるだけでも,非利用者からは不満の声があがるだろう。5000円程度でより広帯域を狙うとすればなおさらのことだ。今の時代,インターネットへと誘うプレゼンテーションの美字麗句は,インターネットに明るい人であれば簡単に並べることができるだろう。しかし,インターネットを利用したい住人だけのわがままで全員に負担をかけるのは理屈が通らない面もある。

 というのも,インターネットマンションであっても,実際にインターネットを利用している人は,現在のところそれほど多くはないからだ。冒頭で述べた例では約半分の利用者だったが,大京がHome PNAベースのインターネット対応で実験を行った東京都用賀のマンションでも,実験のためPCを無料配布するなどの対策を施したにも関わらず,実際の利用者はやはり50%程度だった。

 このようなジレンマから脱するため,東急ケーブルテレビのサービス区域内にある20戸程度の小規模マンションでは,CATVインターネットの利用を強く希望する5戸が,引き込みと宅内工事の料金をすべて負担する形で導入したケースがあるというが,このような強引な手法は通常,まず取ることができない。

 既設マンションに対して,どのように,そして導入しやすい形で,広帯域インターネットのメニューを提供するのか。ネックとなっているNTTの市内回線料金を回避するスピードネットのような手法と,マンション内のインターネット化ソリューションの融合が強く望まれる。

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[本田雅一, ITmedia]

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