News 2000年10月10日 09:38 PM 更新

G4 Cubeの傷の正体──読者のメールから

G4 Cubeの傷について,専門知識を持つ読者の方から情報提供があった。これは,モールドラインではなく,ウエルドラインと呼ばれる不具合だという。

 米Appleは,G4 Cubeのきょう体に傷が入っているとしてユーザーから多数のクレームを受けている(10月6日の記事を参照)。この記事が掲載された後,ZDNet宛に複数の読者の方からメールが届いた。プラスチック成型の専門知識を持つ彼らによると,この傷は「ウエルド」と呼ばれるプラスチック成形上の不具合だが,機能面ではあまり心配することはないという。ただし,日本のメーカーなら出荷しない,という注釈つきだ。

 Appleは,この傷を巡る一連の報道に対して「これはプラスチックの射出成形プロセスの痕跡として避けられないものであり,Cubeの構造上の欠陥を示すものではない」(同社ワールドワイドプロダクトマーケティング担当副社長,Phil Schiller氏)と説明している。「射出成形」とは,熱可塑性・熱硬化性の成形材料を油圧モーターの力で金型内に射出し,短時間で成形する方法。G4 Cubeのような3次元形状物を製造する際には,もっとも効率の良い成形手段だという(参考:積水化学工業プラスチック百科事典)。

 結論から言うと,Schiller氏の言葉は正しい。ウエルドは,射出成形プロセスで生じるものであり,またほとんどの場合,きょう体の強度を著しく落とすような類のものでもない。しかし,品質管理という点で,Appleに疑問を投げかけるものではあるようだ。

“ウエルド”ラインとは?

 メールをくれた読者の1人,内沖敬氏はプラスチック成型会社での勤務経験を持つ。同氏は“ウエルド”について「(射出成形する際),金型や射出する樹脂の温度が低めになった場合に,樹脂が固まりかかって回り込んだときに起こる現象」という。

 また,別のプラスチック射出成形企業に勤務しているF氏は「樹脂が金型内部に充填される過程で,樹脂と樹脂が合流する部分にしばし発生する現象。どのような製品であろうと,多かれ少なかれ発生する」と解説してくれた。

 つまり,樹脂を金型内に射出した際,温度が下がって固まりかけていると,樹脂と樹脂の流れがぶつかる部分に隙間ができてしまう。大量生産のプラスチック製品には付き物のようだ。しかし,問題はその“程度”。F氏は,最近G4 Cubeを購入したユーザーでもあるが,その目で見たG4 Cubeのウエルドラインは,少々目立つものだったらしい。

 「経験から言うと,国内の家電各メーカーでは,できるだけこのような現象がユーザーの目に目に見えない部分に発生するような工夫を施している。今回のCubeのように,製品の正面に発生させるようなことはしないと思う。この点から考えると,Appleの品質についての認識ははなはだ低いと思わざるを得ない」(F氏)。同氏によると,ウエルドは避けられないものだが,工夫次第では発生位置を変化させることが可能だという。

 内沖氏も同意見のようだ。「成型時の条件出しの不備によって起こるものだと思われる。通常は,成型物の検品の際に不良として(処理され,)出荷しない筈のものだ」。

 もっとも,「不良」と判断されるのは単に見映えの問題であり,「よほどのことがない限り,傷が製品の奥に達していることはない」(F氏)。

問題は品質管理?

 問題の焦点は,傷がついた原因ではなく,傷がついた製品が出荷された原因にありそうだ。

 Appleは,第4四半期(7〜9月)にG4 Cubeの売り上げが大きく貢献してくれるものと期待していた。それだけに,出荷量の確保は最重要事項であり,実際,販売店への入荷状況を見ると,G4 CubeはiMacの発売時よりも遙かに順調なスタートをきっている。

 しかし,その代償として工場出荷時の品質基準を下げ,本来は不良として処理されるはずの部材が使われたとしたら,メーカーとしての姿勢を問われることになる。逆に,もともと基準が低かった,あるいは同社の(契約工場の)技術的な限界だとしたら,より問題は深刻だろう。この点に対し,今のところアップルコンピュータからのコメントはない。

 G4 Cubeをめぐっては,きょう体の傷以外にも「電源が急に落ちる」(アップルのサポートページを参照),あるいは「突然スリープする」など,いくつかの不具合が報告されている。アップルのサポートページ内にある掲示板「Tech Exchange」でも障害の報告が絶えないが,最近になって,「投稿が勝手に削除された」と訴えるユーザーまで出てきた。彼らは,Tech Exchangeのパロディページを立ち上げ,アップルに抗議している。

 Appleは9月28日,第4四半期の業績がアナリスト予測を下回る見通しであることを明らかにした。同四半期の売上高は18億5000万〜19億ドルになる見込み。原因は,G4 Cubeの売り上げが予想よりも伸びなかったことと,教育分野での不振だという(10月4日の記事を参照)。

 ユーザーとAppleの期待を背負って登場したG4 Cube。しかし,自社の期待ばかりを優先させると,結果はついてこない。

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[芹澤隆徳, ITmedia]

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