News:“賃貸住宅ブロードバンド”のススメ──前編 2000年10月20日 10:33 PM 更新

“賃貸住宅ブロードバンド”のススメ──前編:長い前置き

通勤時間と広帯域常時接続環境のために引っ越しを決意したある編集者の手記。引っ越しを考えている人,賃貸物件でケーブルを引いてみたいと考えている人は必見。

 今,日本でブロードバンドと呼べるインターネットインフラは数少ない。個人で導入できるレベルのコストで考えれば,事実上,CATVとADSLの2つだけだろう。それも地域によって,利用できるところ,できないところがハッキリと分かれてしまっている。ましてや,賃貸住宅で導入するとなると……? これは,ある貧乏Web編集者が常時接続環境を手にするまでの,苦悩の記録である。

交通至便?

 唐突だが,会社が引っ越した。新しい住所は赤坂。場所だけ聞くと景気が良さそうだが,実際はかなり古いビルをリフォームしての賃貸である。駐車場に「外来」と書いてあったりして結構怖いのだが,一番の問題は交通の便だ。不動産屋のチラシ風に言うと,「交通至便! 赤坂,赤坂見附,青山一丁目の3駅利用可」となる。つまり,全部遠いのだ。

 これまで住んでいた市川市内のアパートが間もなく契約更新ということもあり,通勤に便利な場所へ引っ越すことを真剣に考え始めた。市川から赤坂の会社まで通うには,徒歩の時間も入れて片道約1時間半,往復なら約3時間だ。その上,終電間際ともなると,大手町駅の乗り換えで約300メートルの全力疾走を強いられる。もっと遠くから通っている世のお父さん達から見れば贅沢な話だろうが,気軽に引っ越せるのは独身の特権。これで広帯域常時接続環境を得て,晴れて「i・アイプラン生活」ともオサラバだ。

 問題は引越し費用だが,愛車を友人に売り飛ばして捻出した。さらば愛しきロードスター。当たり前のように8500回転まで回るB-Specエンジンはすばらしかった。当たり前のように雨漏りするのは勘弁してほしかった……。

インターネットで引っ越し先を探そう

 大きな犠牲を払って決意した今回の引越し。この際だから,通勤時間は今までの3分の1以下,家賃の値上がりは最低限,そして常時接続インフラの導入しやすい,CATVやADSLサービスの利用できる地域に的を絞ろうと無謀な決意する。最近のマンションなら,ワンルームでも「インターネット対応」を謳う物件が少なくない。特に,東急線沿線は東急ケーブルテレビジョンがあるだけに,そうした物件が多いらしい。IPアドレスは固定じゃないが,ルータの設置はOK。なにより,スループットは最大1.5Mbpsだ。決定。

 もちろん,この1.5Mbpsはカタログ上の数字であり,これを何世帯でシェアするのかは分からない。しかし,利用するのは主に午前中か深夜なので,極端にスピードが落ちることはないだろうと勝手に思い込むことにした。不思議なことに,CATVのような定額制の常時接続環境を持っていても,ユーザーの利用時間はテレホタイムに集中するらしい。

 さっそくWebの賃貸住宅情報で物件を探す。「Yahoo! 不動産」に始まり,「ISIZE住宅情報」「CHINTAI WEB」などなど。このテの情報は豊富だ。こうしたサイトは,不動産情報誌とリンクしており,大抵は本が発売される日の午前0時頃に更新される。夜のうちにチェックしておき,翌日の朝1番で電話すればいい。……と思っていたのだが,これがなかなか難しい。情報誌で物件を探したことのある人なら分かると思うが,本に掲載される時点で,既に情報が古いのだ。

 簡単に説明しよう。まず,不動産屋には大きく分けて2つの種類がある。大家さんたちから物件の管理を請け負う地元密着型の不動産屋と,そうした不動産屋が流す情報をもとに,客を紹介する不動産屋だ。前者は現地に,後者は人の集まる場所に立地する。そして,情報誌に金を出すのは後者だ。ここにFAXが届き,出版社に送られ,原稿を作って初めて掲載となる。ただし,本が出るまでには短くても約2週間かかり,その間に決まってしまう場合がほとんどだという。

 また,あまり気持ちの良い話ではないが,客寄せのために,ありもしない物件情報を流す悪質な不動産屋もあるという。電話してみて「あ,それは終わっちゃったんですけど,もっといい物件がありますから,とりあえず来店してください」と軽い調子で言う不動産屋がいくつかあった。疑うのもよくないとは思うが,行ってみて良い物件に出会ったことがないのも事実だ。

 お得な物件など,滅多にはない。もしあったとしても,本に載る前に決まる。不動産屋によると「引越す場所を決めたら,地元の不動産屋をこまめに回るのが一番だ」という。賃貸情報誌やWebサイトは,相場を確認するためのものと考えたほうがいいだろう。インターネットの速報性も,既存の流通構造のなかにあっては意味がなくなるという良い例なのかもしれない。

 とかなんとか悲観的なことを考えているうちに,Webで気になる物件を見つけた。そのサイトは,“ミニミニマン”の脱力CMでおなじみの「mini mini」だ。さっそく電話すると,なんと物件はまだあるという。三軒茶屋支店のEさん曰く,「うちは支店ごとに毎日情報をアップしているから早いんです。担当者は毎日残業ですけど」とのこと。インターネットの速報性を既存の流通構造の中で活かした良い例だ。ついでにCMも考え直してほしい。

 さて,当の物件はというと,駅から徒歩5分のワンルーム。1階の北向きだが隣はガレージになっており,ほかに人の住む部屋がない。日当たりが悪いのは普通ならマイナスポイントだが,徹夜明けで床に入ることも多い商売ならOKだ。なにより,深夜に帰ってきてTVをつけても,クレームをつける隣人がいないのが嬉しい。広さもまずまず。でも,賃貸情報に壁心面積を載せるのは反則だと思うぞ。

契約前にお部屋をチェック

 結局,今回の物件は“インターネット対応”ではないのだが,いくつかのチェック項目はクリアしていた。1つは電源の確保だ。複数のパソコンに周辺機器群,オーディオ機器,そして電子レンジなど……メカフェチな男の部屋には,最低でも40アンペアはほしいところ。もちろん,後から電力会社に言って契約アンペアを変更すればいいのだが,古い建物ではケーブルが細く,そうもいかない。実際,浦安のぼろアパートは20アンペアまでしか対応できず,何度か仕事中にブレーカーを落として泣いたことがある。今回は,始めから60アンペアと贅沢な作りでクリア。

 2つめは,いかにしてブロードバンドインフラを得るか,である(やっと本題)。最初から東急ケーブルTVのインターネットサービス区域であることは確認していたが,問題はどこからケーブルを引き込むかだ。当たり前だが,壁に穴を開けるのは大家が許さない。普通ならエアコンダクトの穴を使って引き込むのだが,ご丁寧にダクトは壁に埋め込まれてしまっている。しかし,この部屋には,蓋付きの通気口があった。見映えは悪くなるが,ここからケーブルを引き込むとしよう。

 また,ケーブルを引けなかった時のために,ADSLのサービス開始ロードマップをチェックする。一応は23区内であるからして,東京めたりっく通信が年内にも対応してくれるはずだ。ただ,仕事の都合でISDN回線は維持したい……なんと,電話のモジュラージャックが2つあった。クリア。

 さて,賃貸住宅の場合,CATVの契約時に大家さんの「同意書」が必要になる。したがって,賃貸契約の時には大家さんと直接話し,ケーブルを引いても良いかを確認したほうが後々面倒がない。その際,契約するかどうか迷っているフリをしておくと,話が進めやすいだろう。もちろん,賃料の値引き交渉などは先に済ませておくこと。引っ越した後は,同意書の前に1度,菓子折を持って大家さんに挨拶に行くことをお薦めしたい。

 口約束とはいえ,ケーブルの引き込みを承諾してもらうことができた。ところが,敷金礼金を振り込んだ翌日,るんるん気分(死語)で引越業者を探していたところ,ポストに1枚のショッキングなチラシが舞い込んだ。

「あなたの町にもケーブルTVインターネットがやってきました!──いちかわケーブルネットワーク」。ブロードバンドインフラは常に広がっている。

 後編では,実際の工事の様子,使用感などを中心にお伝えします。

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関連リンク
▼ 東急ケーブルテレビジョン
▼ いちかわケーブルネットワーク
▼ mini mini
▼ Yahoo! 不動産
▼ ISIZE住宅情報
▼ CHINTAI WEB
▼ 参考文献:闇不動産

[芹澤隆徳, ITmedia]

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