News 2001年3月9日 11:59 PM 更新

電話と変わらない“IP電話”(1)

全国どこでも一律3分20円という画期的な通話料を提示したフュージョン・コミュニケーションズが,通話品質の公開試験を行った。

 「24時間いつでも,全国どこへでも,一律3分20円」を掲げ,マイライン戦線に殴り込みをかけたフュージョン・コミュニケーションズ。テレビCMでは語られていないが,同社の電話サービスには“IP電話”という大きな特徴がある。しかし,VoIP(Voice over IP)は,果たして既存の電話に対抗できる品質になったのだろうか。3月9日に行われた,同社の公開通話試験に参加した。

 今回の公開試験は,「とくに従来のインターネット電話について知識を持っている報道関係者から,電話サービスのクオリティを知りたいという要望が大きかった」(同社)ために行われたもの。これまで,VoIPといえば,圧縮した音声データをインターネットに流す“インターネット電話”の印象が強く,低料金あるいは無料であると同時に,音質の劣化や遅延というイメージともなかなか縁が切れていない。さまざまなパケットが混在し,帯域幅も保証されないインターネットの中で遅延を抑えるには,できるだけ小さなパケットにする必要があるからだ。しかし,フュージョンは,専用のIPバックボーンを全国に張り巡らせ,その中に圧縮しない音声データを流すことで,そうしたデメリットを解消しようとしている。通話に関してはベストエフォート型であるインターネットを全く経由しないため,「インターネット電話という言葉は当てはまらない」(同社)。

投資が先か,利益が先か

公開通話試験のネットワーク図。東京大手町の本社から大阪へ電話した(拡大画像

 フュージョン・コミュニケーションズのバックボーンネットワークは,大手町,大阪,札幌,福岡など全国18カ所でNTT地域会社の電話交換機と接続されている。もちろん,18カ所ではすべての都道府県に行き渡っておらず,足りない部分は他社から帯域を借りて賄っているという。例えば,九州地区でネットワークセンターが置かれているのは福岡だけ。他県から通話する際には,福岡までの区間を通常の電話回線を使うことになる。その分の負担が利用者にかかるわけではないが,当然同社の収益率は下がるだろう。

「伝送路のコストを考えたとき,なるべく交換機(と自社ネットワークの接続)をエッジ側に置いたほうが良い。ただし,これも投資効率の問題だ」(フュージョン・コミュニケーションズのサービス&ネットワーク企画部の市来裕教担当課長)。

 エッジとは,ネットワークの末端を指す。この場合は電話機を使うユーザーに近い場所,つまり,その地区を担当する電話局に設備を置き(コロケーション),自社のIPネットワークで伝送する距離をなるべく長くすることが望ましい。しかし,すべての電話局にコロケーションするには多大な設備投資が必要になるため,まず18カ所で始め,契約者の増加に伴って追加投資する方針だ。

 バックボーンの帯域幅も同様。会社設立時には東京〜大阪間は600Mbpsを確保するとしていた同社だが,サービス開始当初は300Mbpsでスタートする予定だ。そのほかの拠点は150Mbpsの中継回線で結ばれている。「現在のバックボーンは,100万人の利用者を想定したネットワークになっている。大規模な災害で通話が集中するようなケースを除き,繋がらなくなるということはまずない。もっとも,災害時にはどの電話会社でも状況は同じだろう」(市来氏)。

 ただし,利用者の増加に対応するため,今秋を目途に帯域幅を3倍にする計画だ。また,現在のバックボーンは,ダークファイバー(光ファイバーの心線貸し)あるいは波長貸し(光ファイバーの特定の周波数帯を貸し出す)で構築しているが,将来的には自前の光ファイバーを敷設する構え。FWAなどのアクセス回線を使ったブロードバンドサービスも視野に入れている同社にとって,帯域幅を確保するための投資タイミングは,最も重要な経営課題となるだろう。

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