News 2001年3月28日 07:25 PM 更新

具体性を欠くMicrosoftのマルチメディアデバイス提案

WinHECでは,Tablet PCとWindows Media Technologiesを取り巻くデバイスが披露された。しかし,今回のMicrosoftは,不景気にあえぐデベロッパー達を引っ張るだけのリーダーシップに欠けている。

 私がWinHEC(Windows Hardware Engineering Conference)に来はじめたころ,まだMicrosoftは「Windowsはこっちの方向に行くから,そのためにこのようなデバイスを,こういう風にサポートするつもりだ。みんなも一緒に市場を盛り上げよう。俺達に付いてきてくれ」と言っているようだった。いや,正確にいえばそうハッキリと話していたわけではないが,それぐらいの強いリーダーシップを発揮し,次世代のPCハードウェア技術に胸を躍らせる内容があったと思う(もっとも,もっと昔から取材している人間に言わせれば,Windows 3.x時代にPCのマルチメディア化が進められた時代よりは,ずっと減速していたようだが)。

 ところが,今回のWinHECでは,そうした胸躍らせる要素があまりにも少ない。もちろん,今回はWindows XPの登場を控え,Windows XPに最適化するためのドライバ開発やWindows XPがいかにして電源管理を行っているかなどなど,WindowsをプラットフォームにしたPCを開発する上で重要な情報はある。そこから分かるWindows XPの機能というのも興味深い。しかし,それらは決して胸躍らせるものではない。

 MicrosoftはTablet PCで,モバイルコンピュータの未来を示したと考えているのかも知れない。確かにTablet PCに実装された機能は,まだ製品化までに時間があるにも関わらず,非常によく出来ているように見える。しかしながら,今まで失敗を繰り返してきたペンコンピュータというフォームファクタに,どうしても先入観を抱いてしまうのだ(3月27日の記事を参照)。

 一方,Microsoftのもう1つのハードウェア開発者に対するメッセージは,2日目の基調講演に登場したWindows Digital Media担当副社長,Will Poole氏が話した「Windows Media Technologies」とそれを取り巻くデジタルデバイスの話に込められている。

 Poole氏はここで,Windows XPに標準搭載される「Windows Media Player 8」と新しいテレビサポート機能を紹介しながら,デジタルオーディオプレーヤーやデジタルビデオとの連携,インターネットを用いた映像技術などを紹介。さらにUniversul Plug & Play(UPnP)に対応した,Interactive Objectsが開発したデジタルオーディオレシーバ「Darwin」の試作機をデモした。


WinHECでデモされた米Interactive Objectsの「Darwin」

 この試作機はUPnPクライアントとして動作し,Windows XPのUPnPホスト機能を通じて音楽再生を行うというもの。Windows XPマシンに収められたWMAあるいはMP3のオーディオファイルを再生することが可能なほか,インターネットラジオにも対応する。またCD-ROMドライブも装備しており,CD再生のほかCD-Rに収められたオーディオファイルの再生も行うことができる。

 Interactive Objectsはこの製品を販売するのではなく,技術提供もしくは別ベンダーにOEMする形で提供されることになる。リリース時期や価格を含め,全く未定とのことだが,これまで対応デバイスがほとんど存在しなかったUPnPだけに,興味深い製品ではある。

 これらのデモが,決してダメなものというわけではない。しかし,これだけではまだまだ弱い。UPnP対応デバイス,Windows XPとシームレスに連携するデジタル機器,テレビ機能などは,数年前からMicrosoftがWinHECで仕込みを続けてきた,とりあえずの成果だからだ。そこには未来がない。Windows XPを家庭で使うすべてのデジタルデバイスのプロキシ/ゲートウェイに仕立て上げようとしているMicrosoftだが,まだまだほかに拾い切れていないユーザーニーズがあるはずだ。

 過去数年にわたって種を蒔いてきたからこそ,今日デモンストレーションする製品がある。では来年はどうするのか? このままの適用分野から外に出ることなく,家庭でPCが魅力的なデバイスである時代は終わってしまうのか?

 WinHEC初日の基調講演でBill Gates氏は「PCはユーザーニーズの氷山の一角しか応えることができていない。まだまだやるべき事はある」と話していた。この意見には100%賛同したいが,ならばもっと具体的な“未来”を(それが現在はただの虚像であったとしても)描き,景気低迷にあえぐデベロッパー達を引っ張るリーダーシップを見せてほしい。不況の今こそ,Microsoftは業界の牽引車とならなければならない。

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[本田雅一, ITmedia]

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