News 2001年5月17日 09:03 PM 更新

任天堂がGAMECUBEで証明したいこと

任天堂のSatoru Iwata氏は,自社を「ゲームに基本を置いた唯一の会社」と言う。似たようなゲームが氾濫し,かつての感動と興奮を感じなくなったゲーム市場において,任天堂がGAMECUBEで示すものとは?

 5月17日から開催されるゲームの祭典「E3」。今回が2回目の取材となるが,正直言ってゲーム業界に関して(というよりはゲームそのものに関して),筆者自身の知識は豊富ではない。ではなぜこうしてやってきているかと言えば,自分の青春時代を通して成長を続けたゲームという文化と,そのビジネスに興味があったからだ。

 しかしながら,取材を始めた昨年ぐらいから,ゲーム業界には少しずつ不景気の波が押し寄せている。街の声を拾ってみれば,「かつての感動と興奮を感じなくなった」といった話を聞くことになる。

 ゲームコンソールの歴史は,ソフトウェアの進化の歴史でもあるとともに,ハードウェアの進化の歴史でもあった。ファミコンからスーパーファミコン,プレイステーションと進化する中で,ソフトウェアが進化するのと同じように,ハードウェアプラットフォームが技術レベルを底上げすることで,より魅力的なものを作り上げてきた。

 しかし,プレイステーション2ではどうだろう? いや,プレイステーション2だけに責任を押しつけるのは間違いだ。キレイになったのに,その上で動くゲームに心が動かない。ある人は「もうゲームというものに飽きたんだよ」と話すが,本当にそうなのだろうか?

 任天堂は「GAMECUBE」で,そうした声に対する回答を見せたいと考えている。E3前日,ゲームコンソールベンダー各社が発表会を開いたが,この本質的な問題に触れたのは任天堂だけだった。

ゲーム機はコモディティ商品になり得ない

 任天堂のSatoru Iwata氏は,自社を称して「ゲームに基本を置いた唯一の会社」と話す。ソフトウェアとハードウェアの両方を手がけ,ゲームを良くすることにフォーカスを当てた会社ということだ。それに対して他社のことを「ゲームプラットフォームの技術開発を行う会社」と評する。「しかしそれではダメだ」(Iwata氏)。


GAMECUBEのコンセプトを力説するIwata氏

 任天堂が1996年に最初の3Dゲーム機である「NINTENDO64」の発売にこぎ着けたとき,開発のあまりの大変さに頭を抱えたという。次々と進化するハードウェアに,ソフトウェアが追いつかない。ソフトウェア技術だけでなく,コンテンツを作るためのノウハウや工数などの問題が解決できないまま,またさらに上を目指さなければならない。結果,多額の開発費がかかることになり,壮大な計画の下に制作される“MegaGame”だらけになる。

 そして巨額を投じたMegaGameは,その費用を回収するためにあらゆるプラットフォームに移植,リメイクされ,さらに多くのMegaGameが生まれる。そしてそこにビジネスが存在すると確信したライバルたちも,似たようなMegaGameを作り,そして移植やリメイクを作り続けていく。

 こうして,1つのMegaGameから多くのMegaGameが作られ,市場を埋め尽くしているのが現状だとIwata氏は分析。そして「でも全部,同じように見えませんか?」とIwata氏は問いかける。無理もない。たとえば,米ID Softwareが礎を築いた一人称シューティングゲームを見ると,マニアにしかその違いが分からないようなタイトルが山のようにあるのだから。その上,定番と呼ばれるようなスポーツゲームなどは,全く同じタイトルが複数のプラットフォームで発売される。

 それぞれの違いは,グラフィックのテクニックによる美しさ以外になくなってきている。しかし,それではダメなのだとIwata氏は声を強くした。「どんなゲームも同じに見えるなら,そしてどんなプラットフォームでも同じゲームができるなら,ゲームコンソールがコモディティ商品になってしまう。しかし,それはゲーム業界にとって良いことではない。テレビや冷蔵庫とは異なり,ゲームは同じようなものと思われた時点で終わりだ。なぜなら,ゲームは生活必需品にはなれないのだから」(Iwata氏)。

3Dがコンテンツ開発のボトルネックに

 こうしたゲーム業界の抱える問題に対して,任天堂は4つの取り組みで他社との違いをアピールするという。驚きを与える技術革新。数ではなく品質を優先させたコンテンツ作り。人気キャラクターを活かした製品作りと,人気キャラクターを育てる取り組み。そしてポータブルゲーム機での支配的立場の活用(ゲームボーイアドバンスとの連携)だ。

 同じようなコンテンツが多数登場する背景として,Iwata氏はゲーム開発におけるボトルネックが3Dにあるという。「3Dは見た目こそ美しいが,その開発工程は反比例するように楽しくない作業だ。開発資金はいくらあっても足りない。そして,楽しくない,お金を気にしなければならない開発環境が,良いコンテンツ作りに集中できない環境につながる。そして,集中力の欠如は開発の長期化を招き,さらに開発費がかさみ,結果として良いアウトプットを得られない」というのだ。

 GAMECUBEの先代にあたるNINTENDO64は,開発が難しくハイコストなプラットフォームといわれた。そして,このことはNINTENDO64の最大のデベロッパーである任天堂自身が身にしみて感じていることだろう。このため,GAMECUBEを開発するにあたり,3Dボトルネックを解消し,コンテンツクリエイターが品質と楽しさの表現に集中できることにもっとも腐心したという。

 開発者のサポートを中心にしたマーケティングモデルは,ゲーム業界だけでなくコンピュータ業界全般で行われていることだが,これだけ強くメッセージを出すからには,閉塞状況を破る何かがあるのだろう。

 しかし,残念なことに,その取り組みが何なのかを示す材料は提示されなかった。しかし,明日からのE3展示会。GAMECUBE用タイトルの中に,その回答があるのかもしれない。発表会では多くのユニークなゲームが紹介されたが,いずれもプレイすること自体の楽しさを感じさせるものだった。コントローラを手に,彼らのいう良質のコンテンツを感じ取ってみることにしよう。

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[本田雅一, ITmedia]

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