News:解説 2001年5月18日 11:59 PM 更新

解説:現実のサービスモデルに近づくMMAC

実用化に向けて着実に歩を進めているマルチメディア移動アクセス(MMAC)。ただし,主力とみられていた5GHz帯の移動アクセスには大きな制約がある。

 モバイルというと次世代携帯電話IMT-2000の商用サービスの延期や試験サービス開始をめぐる話題で賑わっているところだが,日本において数年前より地道に研究開発を進めている,もう1つの次世代移動通信の仕様がある。それがMMACだ。

 MMACは,マルチメディア移動アクセス(Multimedia Mobile Access Communication System)の略称である。マルチメディア移動アクセス推進協議会にはNTT,KDDI,DDIポケットなどの通信事業者や京セラ,東芝,松下通信工業などのメーカー各社が参加し,ポストIMT-2000を狙って移動通信技術の開発を進めている。

 5月15日から18日まで,神奈川県横須賀市の横須賀リサーチパーク(YRP)において,このマルチメディア移動アクセス推進協議会のシンポジウムと公開実験が一般公開された。なお,MMACといっても実際には複数の次世代移動通信技術の総称であり,具体的には下記のような技術仕様がある(出典:マルチメディア移動アクセス推進協議会)。

用途 高速無線アクセス 超高速無線LAN 移動アクセス 無線ホームリンク
サービス範囲 公共空間(屋外/屋内),プライベート空間(屋外/構内) プライベート空間(屋外/構内) 公共空間(屋外/屋内),プライベート空間(屋外/構内) プライベート空間(家庭内)
接続網・インタフェース 公衆網(ATM),自営網(ATM) 自営業(ATM) 公衆網(ATM),自営網(ATM,イーサネット) IEEE 1394
伝送速度 30Mbps 156Mbps 20〜25Mbps 30〜100Mbps
接続端末 ノートPCなど デスクトップPCなど ノートPC,PDAなど PC,AV機器など
モビリティ 静止〜歩行程度(ハンドオーバーあり) 静止(ハンドオーバーあり) 静止〜歩行程度(ハンドオーバーあり) 静止〜歩行程度(ハンドオーバーあり)
使用周波数 25/40/
60GHz
60GHz 5GHz 5/25/
40/60GHz
所要帯域幅 500〜
1000MHz
1〜2GHz 100MHz〜 100MHz〜

 今回の一般公開でメインに据えられていたのは,これらのなかでも5GHz帯移動アクセス。実現にもっとも近い位置にあるといえる。MMACでは,この技術をとくに,HiSWANa(High Speed Wireless Access Network type a)と名付けている。無線LANのようなベストエフォートではなく,帯域保証機能やマルチキャスト機能などを備えているのが特長だ。

 なかでもサービスモデルとしても目をひく展示をしていたのはNTT。NTTの開発したAWA(Advanced Wireless Access)と呼ばれる技術は,NTT東日本が東京・渋谷で実験を進める「Biportable」で採用されているもの。このため,会場では実際に小型化されたPCカードタイプの製品(といっても一般のPCカード製品と比べるとかなり大きい)が出品され,注目を集めていた。

 同様に,KDDI,DDIポケット,京セラも5GHz帯移動アクセスの製品を展示していた。ただし,NTTの展示している実験サービスの機器に比べるとこちらは研究所段階の試作モデル。かなり大型だ。また松下通信工業,東芝もメーカーとして開発試作モデルの展示を行っていた。

 ほかには,NTTなどからイーサネット方式の5GHz無線LANシステム(IEEE 802.11aベースのもの),独立行政法人の通信総合研究所から60GHz帯の超高速無線LANシステム,通信・放送機構(TAO)からは無線ホームリンクのワイヤレス1394システムなどが展示され,IMT-2000とはまた違った移動通信の将来像をイメージさせた。

 全体を見渡してみて感じるのは,5GHz帯の無線技術がかなり現実に近付いているということ。5GHz帯では,HiSWANa,無線LAN(IEEE802.11a)の両技術ともにOFDM方式を用い,最大36Mbps以上の高速通信を可能としている。このため,現行のPHSの64Kbpsや,2.4GHz帯無線LANの11Mbpsに比べ,ブロードバンドのインターネット利用や本格的なコンテンツ配信が実現できる伝送媒体として注目されている。

 しかし,このまま5GHz移動アクセスが現実に普及するかというと,そこには大きな課題が横たわっている。

 5GHz帯移動アクセスは,もともと屋外空間に基地局を設置し,モバイル端末で利用するといった形の,PHSの高速版とでもいえるネットワークサービスが想定されていた。各社ともそれを目指して開発を進めてきた面が動機としてはかなり大きい。この流れに大きく立ちはだかることになったのが,2000年10月の郵政省(当時)の電気通信技術審議会の答申だ。

 答申では屋外でのモバイルアクセスの伝送媒体として想定されていた5.3GHz帯を,同じ周波数帯を使用している気象レーダーなど既存システムと干渉が起こるとして,屋内利用のみにとどめてしまったのだ。

 欧米で屋外向けに使われることになっている5.8GHz帯などほかの周波数も国内では既に埋まっており,5GHzを利用した移動通信に期待をもってきた事業者やメーカーにとっては痛手であったことは間違いない。先述したNTT東日本のBiportableも,現状は屋内空間を対象とした実験にとどまっている。

 もちろん屋内空間に限られたといっても,ビジネスモデルを精査し,たとえば不特定多数の人が集まるエリアに基地局を置き,準公衆型のネットワークサービスを行う形態も考えられている。IMT-2000と比べ安価に,かつより高速なインターネット接続サービスやコンテンツ配信サービスを提供することは可能かもしれない。

 また,5GHz帯はそもそも無線LANとしても高速伝送が可能だ。ブロードバンド時代になれば,現行で最大11Mbpsの2.4GHz無線LAN(規格ではIEEE802.11b)から,最大36Mbpsと高速の5GHz帯無線LAN(IEEE802.11a)へのリプレースが進む可能性が高い。IEEE802.11aは,現在チップの開発が進められており,おそらく来年には実際の製品が登場することになるだろう。

 今後数年を見渡した時には,MMACと5GHz帯はモバイルを考える上で非常におもしろいキーワードとなりそうだ。

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[大水祐一, ITmedia]

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