News 2001年5月18日 11:58 PM 更新

5GHz帯の無線アクセスシステムが勢ぞろい──MMAC推進協議会の公開実験

YRPで開催されたマルチメディアアクセス推進協議会の公開実験・展示会では,5GHz帯を使用する無線アクセスシステムが一同に展示された。

 神奈川県・横須賀市の「横須賀リサーチパーク」(YRP)で5月15日〜18日の期間,マルチメディア移動アクセス(MMAC)推進協議会による公開実験ならびに展示が行われ,5GHz帯を使用する無線アクセスシステムが一同に展示された。5GHz帯は気象レーダーなどと干渉することから屋外では使用することが許されていないため,各社とも公共施設など屋内でのインターネット接続サービスを想定したデモンストレーションを行っていた。

東芝は5GHz帯,PHSのハイブリッドシステム

 東芝や松下通信工業などが出展していたのは,「HiSWANa」(ハイスワンエー:High Speed Wireless Access Network type a)と呼ばれる無線アクセスシステム。HiSWANaは,ARIB(社団法人電波産業会)が「ARIB STD-T70」として定めている規格。周波数帯は5.15〜5.25GHzで,通信速度は最大35Mbpsとなる(6〜36Mbps可変)。帯域保証をサポートするほか,ユーザーごとに帯域を管理することができるなどの特徴がある。

 東芝は,HiSWANaとPHSのハイブリッドシステムを参考出展。同システムでは,アップリンクにはPHSを使い,ダウンリンクにはHiSWANaを利用している。「アップリンクでは制御情報を送れれば問題ない」との考えにより,PHSとのハイブリッドシステムを構築しているが,もちろん,アップリンクについてはPHSに限定しているわけでなく,次世代携帯電話も適用できる。


東芝はハイブリッドシステムによるIPマルチキャストのデモ。クライアントマシンではカメラを切り替えることなどが可能だ。左端に見えるのがHiSWANa子機。HiSWANa子機とPCはSCSIケーブルで接続している

 「現在のところ,5GHz帯の無線アクセスシステムは屋外で使用することができないが,ハイブリッド端末であれば,屋外はPHSで通信して,建物に入ったらHiSWANaで36Mbps通信が行えるというメリットがある」(東芝研究開発センターの大和克巳氏)

 なお,東芝のHiSWANaシステムは,TELEC(テレコムエンジニアリングセンター)およびJATE(電気通信端末機器審査協会)の認証を受けているという。

 また,松下通信工業は,アップリンク/ダウンリンクともにHiSWANaによる通信が可能なPCカードモジュールを出品。このモジュールは,NTT東日本/NTTが渋谷でフィールド実験を行っている「Biportable」で使用されているものだ。NTTでは,HiSWANaに準拠した「AWA」(Advanced Wireless Access)システムを構築し,光ファイバー網と組み合わせて公共施設における高速インターネット接続サービスを提供している(1月25日の記事参照)。


充電式のバッテリーを内蔵するため,外側に大きく張り出している

 屋外では使用できない5GHz帯の無線アクセスシステムだが,松下通信ワイヤレスソリューション研究所の白崎良昌氏は「駅のプラットフォームや,空港のバス停留所など,屋外でも屋根があれば大丈夫という見方もある」と話す。「実現可能かどうかは分からないが,許容範囲をしっかりと決める必要がある」(同氏)

 また白崎氏は,松下の通信カードはARIBの規格に準拠しているものの,「基本的な部分だけで,東芝やそのほかのHiSWANaシステムとは相互接続性はない」と説明する。同氏によれば,その辺りの作り込みの時間を考えると,実用化にはあと1年は必要だという。

IEEE 802.11aやワイヤレス1394も

 HiSWANa準拠のAWAシステムを展開する一方で,NTTは,IEEE 802.11aに準拠した無線アクセスシステムも出展していた。IEEE 802.11aは,現在普及しているIEEE 802.11bの上位規格で,HiSWANaと同じく最大通信速度は最大36Mbp。NTTでは,IEEE 802.11aのモックアップを昨年6月の「NetWorld + Interop 2000 Tokyo」(N+I)で参考出展していたが,今回は,実際に動作しているところを見ることができた。


IEEE 802.11aのアクセスポイントと子機はPCカードサイズで登場する予定

 NTTアクセスサービスシステム研究所によれば,NTTではHiSWANaは公共スペースなどでのインターネット接続用,IEEE 802.11aは社内LANシステム向けと考えているようだ。

 実際,NTTではHiSWANaに準拠した「AWA」を用意したように,IEEE 802.11a向けには「ALAN」(Anywhere LAN access)と呼ばれるシステムを開発している。これは,社内ネットワークから独立した場所に専用サーバを立てることにより,サブネット移動時にIPアドレスなどのネットワークパラメーター変更する必要がなくなるというもの。「出張時に支社のネットワークに無線アクセスすれば,自分のオフィスにいた時と同じ環境でメールの送受信やデータベースへのアクセスが可能になる」(NTTアクセスサービスシステム)。

 また,TAO新川崎リサーチセンターは,ワイヤレス1394システムのプロトタイプを出展。その名の通り,IEEE 1394を無線化したもので,周波数には5GHz帯を使用している。通信速度は最大で40Mbpsとなっているが,同リサーチセンター研究員の有田武美氏によれば,理論的には70Mbpsまで引き上げることが可能だという。


DVカメラの後方にあるのがワイヤレス1394端末

 ワイヤレス1394の特徴は,アイソクロナス伝送方式によってリアルタイムの映像配信が可能になること。会場では実際に,ワイヤレス1394端末に接続されたDVカメラで撮影した映像を,無線で伝送してテレビ画面に映し出すというデモンストレーションが行われていた。

 「将来的には,家庭内ネットワークはワイヤレス1394で構築されることになるだろう。ワイヤレス1394ではほぼプラグ&プレイで機器を認識できるため,ほかの無線アクセスシステムよりも導入が容易だ」(有田氏)

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[中村琢磨, ITmedia]

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