News 2001年5月30日 09:12 PM 更新

ネット広告はブロードバンドで日の目を見る──AdSociety, CEOインタビュー

「ネット広告は終わったのではなく,これからが本番」。香港のメディアレップであるAdSocietyでは,ブロードバンドとオールドエコノミーがネット広告市場のキーワードだと言う。

 バナー広告は“限界説”が唱えられ,広告関係者の間では,ブロードバンド向けの広告ビジネスに期待が集まっている。“ブロードバンド広告”というと,ムービーやアニメーションをふんだんに使ったリッチなものを想像するが,それだけでは単に帯域を無駄遣いしているにすぎない。ブロードバンドブームに乗ろうとしているだけなのか,それとも現実的なソリューションが存在するのか。ブロードバンド時代の広告モデルについて,香港のメディアレップ,AdSocietyの創業者兼CEOであるPatrick Jonathan Wong(P.J.Wong )氏ならびに,同社の日本法人であるアドソサエティ・ジャパンCEOの佐々木光功氏に話を聞いた(以下敬称略)。なお,アドソサエティ・ジャパンは,AdSoceityがマジョリティを持つ東急エージェンシーとの合弁会社だ(5月28日の記事参照)。


ブロードバンド時代におけるネット広告の可能性を語るAdSociety CEOの Patrick Jonathan Wong氏

ZDNN:広告収入を主な収益源にするネット企業がビジネスモデルの見直しを迫られるなど,インターネット広告市場に一時の勢いがないが──?

P.J.Wong:現在主流のバナー広告は,レストランで出てくる水のようなものになっている。つまり,そこにあるのが当然で,存在価値が薄れているというわけだ。これでは,クリックスルー率が低下するのも無理はない。また,市場の減速は広告が掲載される媒体サイトが増えすぎたことにも原因があるが,この問題はサイトの統合が進むことで解決されるだろう。

 ネット企業は広告収入の減少に嘆いているが,それは一過性のものにすぎない。これまでは,雨後のたけのこのように登場したドットコム企業が莫大なプロモーション費用を投じていただけだが,そうした企業が衰退すると同時に,オールドエコノミー企業がインターネット広告市場に進出するようになった。こうした企業が参入することで,インターネット広告市場は第2フェーズへと移行する。ちなみに,AdSocietyのクライアント企業の80%はオールドエコノミーの企業だ。

ZDNN:日本進出を決めた理由はなにか。

P.J.Wong:日本の広告市場は6兆円とも言われるが,インターネット広告についてはほぼ未開拓だ。米国や韓国に比べ,ブロードバンド環境が整っておらず,インターネットへの依存度はそれほど高くない。常時接続のブロードバンドインターネットが普及すれば,ネットに接する時間が増え,ネット広告市場は一気に開花するだろう。そして,オールドエコノミー企業が,現在のテレビCMに使っている予算のほんの少しをネット広告にまわすだけでも十分な効果が期待できる。

ブロードバンド広告とは?

ZDNN:ブロードバンド広告とは,既存のネット広告と何が違うのか。ブロードバンド広告が単にリッチメディア広告のことを指すのであれば,単に帯域を消費するだけにならないか。

P.J.Wong:もちろん,ブロードバンド向けの広告は既存のものと比べて容量が大きくなる。だが,その効果は全く比べ物にならない。例えば,テレビを見ていて魅力的な広告があっても,その場ではそれ以上の情報を手に入れることができない。だが,ストリーミング形式の番組であれば,興味のある広告の情報をより深く手に入れることができる。ファッションショーの番組を例にあげると,モデルが着ている洋服が気に入った場合,そのモデルを3Dでぐりぐり回して上下左右いろいろな角度から見ることができるだろう。もし気に入ればその場で注文することもできる。

佐々木:バナー広告では,制作面がほとんど重視されてこなかった。だが,ブロードバンドによってリッチな広告展開が可能になれば,クリエイティブこそが重要になるだろう。そしてよりインタラクティブな広告が登場すれば,現在よく聞く「ユーザーデータが収集できない」という不満も解消されるはずだ。

ZDNN:アドソサエティ・ジャパンではまず,ブロードバンド広告としてポップアップウインドウにFlashアニメーションの広告を表示する「Unicast Superstitials」を導入するが,ポップアップはブロードバンド広告の有効なソリューションとなるのか。ポップアップウインドウは,一般的にユーザーに敬遠されがちだと思うが。

佐々木:確かに,ポップアップウインドウを好まないユーザーはいる。だが,Unicast Superstitialsは,バックグラウンドでダウンロードを行い,ユーザーのWeb閲覧の妨げにならないよう工夫するなど,ポップアップウインドウのネガティブな要素をできるだけ排除している。具体的なことはまだ言えないが,6月よりCathay Pacific航空が Unicast Superstitialsによる広告を香港,シンガポール,ならびに台湾で開始する予定になっている。

ZDNN:今後,ブロードバンド広告市場でも競争が激しくなると予想されるが,AdSocietyの強みはなにか。

P.J.Wong:AdSocietyには,ブロードバンド広告だけでなく,携帯電話向けのソリューションも用意している。さまざまなメディアを組み合わせることで,より効果的なブランディングやプロモーションが可能になる。米国では,あるベンチャー企業がビルボード広告とPDAを組み合わせた広告手法を開発したが,AdSocietyも同様にネットだけでなく複合的なメディアを組み合わせたプロモーションを提案できる。

 また,AdSocietyは昨日発表した日本法人のほか,香港,台湾,シンガポール,中国などアジアの広域で事業を行っている。Cathay Pacific航空と同様に,自動車メーカーが中国でのプロモーション事業を強化したい場合など,AdSocietyであれば容易に参入することが可能だ。

 東急エージェンシーとの提携により,日本での事業を立ち上げるAdSocietyだが,P.J.Wong氏は今後の目標について「日本でシェアナンバー1を目指す」と意気込みを語った。昨日の記者会見では,佐々木氏が「ネット広告市場は競争が激しくトップ3に入れればいい」とコメントしたのに対し,ネット広告市場の予測を含め,Won氏があくまで強気な姿勢を貫いたのが印象的だった。

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関連リンク
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[聞き手:中村琢磨, ITmedia]

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