News 2001年6月20日 11:03 PM 更新

ボタンのないPDAは,“実世界指向端末”だった(1)

「泡はいいよね,癒しだよね」――。日立が開発した摩訶不思議な“ボタンのないPDA”は,直感的な操作が可能な,かなり完成度の高い代物だった。

 「泡はいいよね,癒しだよね」一一。“深海に漂う情報の泡”をイメージしたという「Waterscape」の開発コンセプトは,意外なほどすんなりきまったようだった。


コンテンツが“泡”として流れる「Waterscape」

 日立製作所が6月8日にプレスリリースを流したWaterscapeは,明らかに“理解不能”だった。「加速度センサーを内蔵し,傾けたりふったりすることで情報の閲覧が可能」「本体内が液体で満たされていると仮定し」などなど,その説明はまさに“摩訶不思議”である。さらに,リリースに添付されていたモック端末の画像には,「神秘的で飽きのこない情報環境を演出している」という説明書きまで。もはや,利用シーンを想像することすら許されない。一体,何をどうしようというのだろうか。

Waterscapeは“実世界指向端末”

 Waterscapeの開発を担当した日立デザイン研究所プロダクトデザイン部の丸山幸伸研究員によれば,その答えは“実世界指向インタフェースを備えた端末”にあった。実世界指向インタフェースとは,日常生活で行う動作を基に,コマンドを入力することなどを差す。インタフェースという枠でくくれば,PCに入っている時計アプリケーションの時間を設定する場合,アナログの針をマウスで動かすことなどがこれに該当する。


Waterscape開発チームの面々。左から,丸山氏,堀井氏,中島氏

 丸山氏が,デザイン研究所プロダクト第二部の中島一州氏,中央研究所マルチメディア研究部の堀井洋一研究員らとともに,実世界指向端末の開発に取り掛かったのが約1年ほど前。開発にあたり,20代前半の携帯電話のヘビーユーザーに調査を行ったところ,「無意識下ではあるが,情報を受動的に取得したいという願望があることが浮かび上がった。そして,iモードなどのユーザーは特に何がしたいわけではなく,住所録を眺めてみたり,既読メールを読み返してみたりと,単に暇つぶしがしたいだけだということも分かった。または,トラックポイントをぐりぐりしてみたりと,端末自体がエンターテインメント化しているのではないかと推測できた」(丸山氏)


コンテンツを見るのも一苦労だ
動画を見る(AVI形式/2.5Mバイト)(mpeg1形式/400kバイト)

 なるほど。確かにWaterscapeの操作は,エンターテインメントだ。本体中央にある小型の液晶ディスプレイには,下から上へといくつもの泡が流れており,それぞれの泡には,それがメールなのか,動画なのか,はたまた静止画なのかを示すアイコンが付いている。端末を傾けたりしながら,うまく画面中央へと運び,そこで端末を水平にするとコンテンツを見ることができる。

 例えば,音楽データを再生している時など,横に軽く振れば次の曲にスキップすることもできるなど,かなり直感的な操作が可能だ。ただ,慣れないと思い通りに操作できず苦しむが,コンテンツに辿り着くまでも楽しんでもらおうということらしい。「ビューワーというよりも,情報をザッピングするという感覚ですね」(丸山氏)。また同氏によれば,取材に訪れたある記者は,Waterscapeにハマリ,1時間ぐらい黙々と遊んでいたという。

 そして意外なことに,端末のデザインとコンテンツの表現方法が妙にマッチしているためか,Waterscapeに実際に触れてみると「なぜ泡で深海なのか」という疑問はなくなっていた。“泡と深海”の動きを発案した中川氏によれば,「子供の頃遊んだ,左右に傾けてボールを動かす迷路のゲームをイメージしてみた。その重力の感覚と,情報が近づいてくるというコンセプトを再現するには,水がぴったりだった」という意味が込められているそうだが,実際,良く出来ている。

 実世界指向という開発コンセプトから,深海の泡に発想が飛躍してしまうあたりは,さすが研究者というところかもしれない。ただそれだけに,言葉にするとなかなか理解されにくい面もあるようだ。“究極の暇つぶし端末”としてスタートしたWaterscapeは,「ワーキングモックアップが完成する前に社内でWaterscapeの説明を行ったが,そんな需要はあるのかと疑問を投げかけられた」(丸山氏)。それでも,稼動するWaterscapeを見せると対応は一変したというから,それだけ完成度が高かったということの証明だろう。

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