News 2001年7月13日 11:59 PM 更新

不安と期待が入り交ざるHDD市場

矢野経済研究所が第2四半期の国内HDD市場の調査結果を発表した。PC市場の減速で,メーカー側の目先の「不安」は強いものの,様々な非PCデバイスでの採用で,近い将来,再びHDD市場が成長できるのではないかという「期待感」もまた強いことが,この調査結果から浮き彫りになってくる。

 矢野経済総合研究所(YRI)は7月13日,国内のHDD市場状況の調査をまとめた「HDD関連市場の実態と展望」を発表した。調査期間は,今年4月から6月までの3カ月間。この第2四半期(Q2)は,PC需要の落ち込んでいた時期でもあり,PCの出荷状況に左右されるHDDの出荷台数も当然影響が懸念されていた。

 今回の調査は,対象21社に面接取材を行ったうえでまとめられているというが,対面調査だけに,HDD関連メーカー担当者の“不安感”と“期待感”が入り混じった調査内容となっているのが興味深い。

 調査は,HDDメーカー8社,ディスク板/アルミ基板/ガラス基板など構成部品メーカー11社,磁気ヘッドメーカー2社の合計21社を対象に実施された。国内のHDD市場が調査目的なので,調査対象の21社は国内メーカーもしくは国内に拠点を持つ外資系メーカーだという。

 YRIでは具体的なメーカー名を公表してない。だが,国内で入手可能なHDDの大手メーカーというと,おおよその推測はできる。日本企業では日立,東芝,富士通の3社,外資系ではSeagate,Maxtor,IBM,Samsung,WesternDigitalの5社が順当な線だ。磁気ヘッドメーカーの2社というのは,TDKとアルプス電気だろう。構成部品メーカーは,HOYAや日本板硝子,富士電機,三菱化学といったところか。

矢野経済研究所の推計によるHDDの市場規模推移

項目 2000年 2001年(見込み) 前年比
3.5インチIDE 1億3680万台 1億3740万台 100.4%
3.5インチSCSI 2030万台 2600万台 128.1%
2.5インチ 2600万台 3000万台 115.4%
合計 1億8310万台 1億9340万台 105.6%

 HDD関連メーカーの“不安感”というのは,PC市場の減速だろう。YRIの推計による2001年のHDD市場規模では,サーバ市場の拡大を受けて3.5インチのSCSIタイプが28.1%増と大きく伸長している一方で,デスクトップPCへの搭載がメインの3.5インチIDEは,0.4%の伸びにとどまっている。ただ,ノートPCは堅調に推移するとみているのか,2.5インチHDDは15.4%増と期待をもった数字を見込んでいる。最終的に2001年のHDD市場規模は1億9340万台となり,対前年比105.6%と小幅な伸びに終わると予測している。

 一方でYRIは「全体の成長率が鈍化するのは一時的な状況で,HDD用途分野の拡大から2002年以降は2ケタ成長路線に戻るというシナリオをHDD関連メーカーが描いている」と報告している。これが,HDD関連メーカーの“期待感”だ。

 HDDの用途は,PCやサーバだけではない。TVの映像をHDDに録画するHDDレコーダーやCDプレーヤーにHDDを内蔵してMP3エンコードファイルを蓄積するオーディオ製品,HDD内蔵のTVキャプチャーユニットといった商品も登場している。ゲーム機でもマルチメディア性能の向上を図るため,HDDの搭載が今後の主流となりそうだ。先日発表されたPS2用HDDユニットもそうだし,Xboxに至ってはHDDを標準で内蔵している。

 また,カーナビにもHDD搭載が始まっている。HDDは外部からの振動や衝撃に弱いため,振動の多い場所での用途は従来はタブーとされていたものだ。しかし,次世代通信技術を使った路車間IP通信システムにも,車載PCにHDDが装備されていた。


路車間IP通信システムの端末となる車載PCには,HDDが装備されている

 これは5.8GHz帯の無線を使って自動車と高速通信を行うDSRC(Dedicated Short Range Communications:狭域無線通信)という通信技術を利用したシステム。7月11〜13日の期間で開催されていた「富士通ソリューションフォーラム2001」の展示会場でデモが行われていた。自動車側の端末となる車載PCの仕様書には,10G〜20Gバイトの2.5インチHDDの搭載が明記されている。

 この点を担当者に質問したところ「かなりの期間を費やして実証実験を行っているが,今だにHDDがクラッシュしたことはない。ノートPC用の2.5インチHDDを使っているのが功を奏しているのかも」とのこと。現在のHDD技術や耐震システムを用いれば,自動車のような振動の多い環境でもHDDは十分活躍できるという。

 このような,ノンPC分野でのHDD採用に関して,YRIの調査では「2003年までは試行錯誤が続き,2004〜2005年で一気に立ち上がる」と分析している。この「一気に立ち上がる」理由について今回の発表では公表されていないが,2002年春からスタートのHDD蓄積型データ放送サービスや,2003年から始まる地上波デジタル放送を視野に入れてのことだろう。次世代デジタル放送では,HDDを装備した車載システムが提案されているからだ。もちろんビデオデッキの置き換えとなるHDDレコーダーやゲーム機なども,対象ユーザー層が広いだけに,本格普及が始まれば大きな台数が見込める。

 このように,HDD関連メーカーではノンPC分野でのHDD普及に,大いなる期待を持っているのだ。近い将来,身の回りのエレクトロニクス製品には「HDDが内蔵されているのが当たり前」という時代が訪れるのだろう。

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[西坂真人, ITmedia]

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