News 2001年8月3日 09:03 PM 更新

動画による地域情報の配信事業で心配なコト

 松下電器がタウン情報全国ネットワークと組んで,地域情報の動画配信事業にかかわることになったそうだ(8月2日の記事参照)。タウン情報全国ネットワークは,33都市で,都市ごとに発売されているタウン情報誌を束ねたネットワークだ。

 この会社には,ぼくも以前,お世話になったことがある。ある雑誌で,福岡や名古屋といった地方都市の特集を組むにあたり,その情報ソースとなってもらうのはもちろん,現地でのカメラマンの手配,取材先のコーディネイトなど,いろんな面でのサポートを得ることができた。必要ならばモデルの手配もまかせられたし,優れたライターも紹介してもらえた。

 この話は,もうかれこれ,20年くらい前のことだけれど,現在もこうした業務は変わることなく続けられていて,中央のメディアが地方をクローズアップするときの縁の下の力持ちとして,強力なサポート体制を提供しているという。

 今回の事業展開にあたり,松下は,主に3種類のメディアへの素材利用を考えているという。ひとつは,パソコンによるWebでの地方情報サービスであり,もうひとつは,カーナビへの情報配信。そして最後は,来年から始まる蓄積型テレビ用のコンテンツだ。ここで3種類のメディアが,ひとつの素材を流用することで,効率のいいコンテンツ制作ができるはずだという。


松下が提案する効率的なコンテンツ制作のイメージ

 ただ,松下自身は,映画を作ったり,雑誌を作ったりといった具体的なコンテンツビジネスには手を出さない。あくまでも,そのサポートに徹底して,動画データベースの構築などの点で,この事業にかかわるらしい。

 ちょっと心配なのは,各都市の雑誌編集部が,日常の取材と雑誌制作の作業に加えて,動画の素材を追加の形で取材していくような余裕を持てるかどうかだ。

 例えば,ZDNetのようなWebによる情報サービスはここ数年でかなり増えたが,そのニュース素材は,編集者やライターが1人で取材に出かけて集め,デジカメで写真を撮って原稿をまとめ,ほとんどの場合は,その日のうちにサーバーにアップロードする。場合によっては,HTMLのコーディングまでを自分でこなさなければならないサイトも少なくないはずだ。

 以前なら,ちょっとした記者会見であれば,写真はカメラマンに依頼し,原稿はライターに頼み,編集者は,それをまとめて入稿するといった分業化が確立していた。でも,Webのスピードは,作業の多くを一人に集中させるようになってしまったのだ。出版にデスクトップパブリッシングが導入された頃よりもさらに極端な作業集中が,Webではごく日常として行われている。果たしてそれはいいことなのかどうか。

タウン誌の持ち味を阻害?

 地方のタウン誌のライターが,今,どのようなスタイルで取材活動をしているのか,寡聞にして,ぼくは知るよしもないが,面談での取材とともに,スチル写真,そして,DVカメラといえども,それなりの鑑賞に堪える動画素材を撮影するための装備が必要になる。ハンドキャリーの撮影はつらいとあらば,三脚などの用具も必要になるだろう。モデルが必要だと思うこともある。

 これだけの取材体制を整えて得られる素材は,持ち味であり最高の武器でもある“地域におけるフットワーク”を阻害しないのだろうか。

 各地域から集まった素材をデータセンターに集め,コンテンツに仕立て上げる仕事は,別のスタッフが担当するにしても,課題は山積みだ。例えば,ナレーションはどうするのか。誰かがナレーションを書くためには,データ原稿が必要であり,その臨場感は,実際に取材をした当事者だけが知っているものかもしれない。取材のついでに動画も撮影しておいたものを,適当に集めて,コンテンツに仕立て上げましょうというのでは,鑑賞に耐えるものはできないのではと思う。

 結局は,編集部ごとに動画専用の専属部隊を設置するような体制になるのだろうか。その時に,地域タウン誌ごとの持ち味を,本当に保ち続けることができるのかどうか。

 地方タウン誌といえども,そこに掲載されるテレビや映画,音楽情報などは,全国誌とほぼ共通のものであり,地域独自の飲食店情報やスポット情報などの独自編集ページは,それほど多くはない。情報の中央集中化によって,この傾向はますます高まっていくだろう。

 そんな中で,地方のメディアが,そこでしかできない活動を形にしていくためには,こうした形態でのメディア展開に活路を求めるというのも分かる。こうした体制の中から,オールラウンドの優れたビデオジャーナリストや,しゃべって書けるマルチタレントが生まれるようなことがあれば,それもいい。

 地方誌の持ち味を抑制することで全国区を目指すよりも,地方誌のままで全国区デビューを目指してほしい。インターネットなら,それができると思う。今回のプロジェクトが,こうした点を考慮したものであることを切に願いたい。

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[山田祥平, ITmedia]

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